十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結

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悪役令嬢は赤く散る

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 「貴様との婚約はこの瞬間を以て婚約を破棄する。答えろ、エリーザ。貴様はサラに何をしようと目論んでいた」
   


 突き刺さる冷たい視線に背筋が凍り、投げかけられた問いに答えようと声を振り絞るけれど、震えた声は緊迫した空気に斬り裂かれるように消えていく。

 婚約破棄という絶望を与える言葉に、頭は真っ白になるばかり。

 煌びやかに輝く王宮の大広間の中央でいきなり取り押さえられた衛兵達に取り囲まれるや否や、一切の曇りがない磨きに磨かれた大理石の床に体を押さえつけられた。

 背中に回された腕が軋んで、反射的に痛みで顔が歪んでも誰も助けてはくれない。

 目の前に立つ憎しみの目をこちらに向けてくる、私の愛しい人でさえも。



「もう一度聞く。エリーザ、貴様は何を目論んでいた」



 低い声で唸るようにもう一度問いかけてきた私の婚約者であり、この国の第一王子であるクラウド王太子殿下は威圧するように綺麗な顔の眉間にしわを寄せた。

 会場を照らすシャンデリアの明かりが、真相を突き止めるように殿下の黄金の髪を瞬かせる。
 

 
「わ、たしは……何も……!」


「この状況になっても尚、嘘を貫こうとするのか……愚かな女だ。その分、罪が重たくなると言う事を理解してはいないようだな」



 突き放す鋭い視線に、思わず息を飲んだ。

 この場を制する者に抗う事は許されないのだと、知らしめるように。

 

「貴様がサラに行った非道の数々、忘れたとでも言いたいのか?だが残念だったな。こちらにはこれまでの証言に加え、今夜の聖女であるサラへの暗殺を実行しようとした動かぬ証拠が揃っている。言い逃れは出来ない」



 言われた言葉に思わず殿下から視線を逸らした先にいたのは、震える体を彼に支えられ瞳を潤わせる一人の令嬢。

 男爵家令嬢という卑しい身分で殿下に付き纏った、サラ・ミルズ――。

 そう……あの女さえ居なければ、私の想いが殿下に届いていたはずなのに。

 あの女が居なくなってくれれば何事もなく、明日の婚姻式で結ばれるはずだったのに。

 なのにどうして、どうしてこうなるの?

 私はただ、殿下に愛されたい……それだけだったのに。



「違うんです、殿下!私はっ、私は――!」



 最後に必死に足掻こうとする私に止めを刺すように、殿下ははっきりと告げた。



「この場を以て宣言する。エリーザ・ハシュベルグを聖女暗殺を企てた罪により極刑に処す」



 突然の死の宣告に今まで募らせてきた殿下の想いが崩れていき、ざわめく会場の中で一人、音のない暗闇の世界に放り込まれるようだった。寄り添う殿下達の姿すらも、視界には入ってこない。

 体に力が入らなくなった私を押さえつけていた衛兵達に無理矢理立たされ、拘束されるがまま王宮の地下牢へと投獄された。

 繋がれた鎖の重さが、今まで重ねてきたあの女への仕打ちに対するものだというように体を締め付けてくる。

 冷たく湿った牢屋に一人どれぐらい居たのだろう。酷く汚れた醜い姿に成り果てても、何も感じなくなってしまっていた。

 久々に聞いた人の声を聞いた私は、両手と首を鎖に繋がれたまま地下牢から出ると、灰色の淀んだ空の下で処刑台に立った。今にも泣き出しそうな空は、まるで私の心を映しているようなのに、何故か涙は溢れては来なかった。


 処刑台に上がってきた殿下を見るまでは。

 


「ごめん、なさい……ごめ、なさ……っ」




 いくら泣いて謝っても、殿下の心は返ってこない。

 いや……元々殿下の心には私なんて存在は無かった。ずっとずっとあの、聖女のことを慕っていた。

 許されないことをしてまで、殿下を独り占めしようとした愚かな私を、殿下はもう見たくもないはずだ。

 殿下が静かに抜いた剣身に映る醜い自分の姿に、もう早く消えたいとまで思った。

 その想いが通じたのか否か……執行人である殿下が憎しみを込めた目で私を見つめながら、首めがけて剣を振り下ろす。

 最期にもう二度と見ることが出来なくなる殿下の瞳を見つめた。

 どうしてか、彼の瞳に宿る憎しみの中にどこか悲しみが混じっているような……そんな気がした。

 程なくして、繋がれた鎖諸共私の首は刎ねられ赤い血が飛び――人生の幕が閉じた。






 ……はずだった。
 
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