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悪役令嬢は赤く散る
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「エリーザ様、そろそろいい加減起きてくださいませ」
「ううーん……」
「そんなだらしないと、クラウド様に愛想尽かされますよ?」
うるさいわね。どうせ私は愛想尽かされるどころか、憎まれて殺されたんだからほっといてよ。
これは走馬灯と言われているやつかしら。
見られるものなら幸せな時間を過ごしていた記憶を見たかったというのに。
こんな侍女に起こされる日常的な記憶なんて見ても、冥土の土産にもならないわよ――。
「時間切れです。強制的に起こします」
「きゃっ!」
いきなり温かさを奪われ冷たい、でも気持ちの良い朝の風に肌が擽られる。
眩しい程に輝く太陽の光も、寒さに暖を取ろうと摩る自分の肌の感触も、まるで本物のようだった。
これは……走馬灯でも夢でもない……?
無理矢理起こされて、朝の支度をテキパキと終わらせていく侍女達が部屋から出て行った後、私は改めて自分の頬をつねった。
「ちゃんと痛い……」
じーんと広がっていくような頬の痛みに、死んだはずの私は目を瞬かせた。
あの瞬間を思い出した途端、喉がひゅっとなり背中に悪寒が走る。
確かに首を刎ねられたはずだというのに、何故生きているのか。
動揺を隠せないまましばらく考え込んでいると、部屋の扉が叩かれ入ってきた侍女が大きめの荷物を部屋に運んできた。
「何か考え込んでいるようですけど、ダニエラ王妃殿下からお荷物が届いておりますよ」
「ダニエラ様から……?」
政略結婚とは言えども、私のことを実の娘のように可愛がってくれるこの国の王妃であるダニエラ様。
そんなダニエラ様から荷物なんて、一体何が……。
「っ……!!」
侍女達が丁寧に荷物の中身を取り出したのは、細やかなレースが使われた淡いガーベラの花を思わせるペールオレンジ色のドレス。
今度の王都で開催されるお祭りの時にでも着てください、と手紙が添えてあるのも知っている。
目を見開いたままの私を見て、侍女達は感動しているものだと勘違いしているに違いない。
違うのよ。だって、このドレスを頂いたのはだって……!
ドレスに似合う装飾品を探しに行った侍女達に、ばれないよう自室の机の引き出しの底に隠してある日記を取り出した。
「やっぱり、過去に戻っているんだわ」
日記の最後に書かれている日付は、私が婚約破棄と死刑を言い渡された日から二年前。婚姻式を迎えるのが丁度二十歳を迎える日だったから、つまり十八歳の頃に戻っている。
瞬く琥珀色の瞳の色は一緒でも鏡に映る顔はまだあどけなさが残っているし、見慣れた長いワインレッドの艶やかな髪も少し短い気がする。
再び日記へと視線を戻して、書かれた内容を読み込んでいると大量の記憶が流れてきた。
これまでの……重ねてきた記憶が。
「私、死んだのこれが初めてじゃない。同じことを何度も繰り返してる……」
記憶を数える事、十二回。
私が同じ過ちを繰り返し、殿下に首を刎ねられて死んでいる。間違いない、私これで十三回目の人生だ。
冷静になって考えると、私色々とヤバい事をしてきている気がする。しかもそれを何度も繰り返しているのよ?
殿下のことで盲目になった挙句、殿下に近づいた聖女であるサラに対して数々の嫌がらせをしてきた。
物を隠したり、陰口を言ったり、舞踏会に参加してきた彼女のドレスに飲み物をわざとかけてみたりと、最初はまだ可愛らしいものだったかもしれない。
でもそれはいつしか加速して、命を奪おうと猛毒にまで手を伸ばした……。
いやいやいや、いくら何でもやり過ぎよ私。馬鹿なんじゃない?
確かに殿下を取られたのは悔しかったし、悲しかった。でも、そこまでする必要は絶対なかったって今なら分かる。
「もしかして私、巷で話題の恋愛小説に出てくる悪役令嬢になっていたんじゃ……」
ヒロインのライバル役であり、大半は読者からの嫌われ者。愛するヒロイン達の恋をズタズタにしようとするが、最後には断罪される。そのクライマックスが読者からの期待が最も高いシーンで、私が何度も歩んできた道そのもの。
第三者の目から見て見れば、私はずっと殿下の恋路を邪魔してきている悪役令嬢そのポジションに立っている。
――そうか、だから私……愛されなかったんだ。
どれだけ頑張って努力しても、殿下の目に映るのはヒロインのサラで、悪役令嬢の私は近づくことすら許されなかった。それが変えられない運命で、現実だったんだ。
「ただ……大好きな気持ちは本物だった」
心の中にはいつも殿下が居て、彼に釣り合おうと頑張っていたはずが、いつしかいらぬ所ばかりに力を注いで優越感に浸っていた。可愛げのない私なんかを、好きになってもらえるはずがない。
なら全ての記憶がある今回の人生はどう歩むのが正解か。
答えはそう――簡単だ。
「十三回目の人生、殿下の恋路を邪魔しない。そして死なない!」
殿下もサラも、そして私も幸せになる人生。これしかない。
再び日記に視線を戻して、過去の記憶を繋ぎ合わせながら今後の計画を練り始める。
あれだけ最期を迎える日の空はいつも淀んでいたというのに、今回の始まった十三回目の人生の空は眩しい太陽の光が降注ぐ青空で、私の気持ちも晴れ渡っていた。
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