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第67話 奈都 1(1)
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朝は家を出る1時間半くらい前に起きる。
口をゆすいで、少し体を動かして、顔を洗って、軽くメイクして、食事をして、制服に着替えて家を出る。
本当は食事と美容系のあれこれの順番を入れ替えたいが、親が準備してくれているので贅沢は言えない。涼夏など、時々ご飯やお弁当も自分で作っているから、神だと思う。
時々というところが涼夏らしい。毎朝のルーティンが決まっていないのが、猪谷涼夏の特徴だ。
親愛なる友人のことを考えながら駅まで歩くと、いつも通り先に来て待っている奈都に「おはよー」と声をかけた。待っていると言っても、私が2、3分早く家を出たら、私の方が先に着く程度の待ち時間だ。
奈都は相変わらず挨拶も返さずに、熱でもあるように頬を赤らめて目を細めた。
「チサ、今日も可愛い。ここ10年で一番と言われた昨日を上回る可愛さ」
「ピークはどこだろうね。永遠に可愛くなり続けるのは無理だから、絶対にどこかで下降に転じるでしょ?」
「そんな先のことは知らない。私は一週間先のことしか考えてない」
謎に胸を張って、私の手を握る。どうせ改札で一度離さないといけないが、ほんの少しでも長く触れ合っていたいのは私も同じだ。
今日の奈都は可愛いを連呼している。もう少し実のある話がしたいが、発作みたいなものなので治まるのを待とう。毎朝こうだと困るが、せいぜい週に1回だ。
それに、可愛いと言われるのは嫌ではない。実際に可愛いかは別にして、一応可愛くなる努力はしているので、成果が出ているのなら何よりだ。
電車で横並びで座ると、奈都が満足したように息を吐いた。私は呆れながら言った。
「寛解した?」
「カンカイって何?」
「今週末の予定はどんな感じ?」
「土曜日はクラスの子と遊んで、日曜日は部活の子と遊ぶ感じ」
奈都が平然とそう答えて、私は仏像のような半眼で奈都を見た。奈都が慌てて手を振った。
「三週間くらい前から決まってた予定だから! 仕方ないよね?」
「全然一週間先のことしか考えてなくないじゃん」
先程の話を持ち出して不満を述べると、奈都は冗談と捉えたのかくすっと笑った。まったく冗談ではない。
「もう少し私のために体を空けておいて」
こう訴えるのも、もう何度目かわからない。もはや定番のやり取りと化していて、どうも奈都も本気で受け止めてくれない。
今回も、さも自分は悪くないと言わんばかりにおどけた。
「チサももっと早く予定入れてよ」
「じゃあ、来月の土日は全部空けておいて」
「極端だから」
奈都が呆れたように肩をすくめる。やはりノリが軽い。私も怒っているわけではないからいいのだが、もう少し真剣に私との時間について考えて欲しいものだ。
とりあえず直近で空いている週末を確認して、スケジュールに私の名前を書かせると、奈都が笑いながら言った。
「それで、何するの?」
「その時にしたいこと」
何をするかは重要ではない。今の時点でそんな先のことはわからないと言うと、奈都は困惑気味に眉をひそめた。
「普通は先にやりたいことがあるでしょ」
「奈都が私としたいことでいいよ」
「じゃあ考えておく」
ここまでが一連の流れだ。奈都も、私が何をするかより誰と遊ぶかが大事なのをわかっているので、それ以上掘り下げてこない。たまに突っ込んで聞いてきたとしても、わかった上で言っているものだ。
もちろん私も、私が誰と遊ぶかを大事にしているのと同じくらい、奈都が何をするかに重きを置いていることを知っている。涼夏や絢音が呆れていたが、奈都は気が乗らなければ、空いていても断ってくることがある。
今澤奈都とはそういう女だとわかっているが、私との時間をどう考えているのか、やはり少しばかり不安になるものである。
口をゆすいで、少し体を動かして、顔を洗って、軽くメイクして、食事をして、制服に着替えて家を出る。
本当は食事と美容系のあれこれの順番を入れ替えたいが、親が準備してくれているので贅沢は言えない。涼夏など、時々ご飯やお弁当も自分で作っているから、神だと思う。
時々というところが涼夏らしい。毎朝のルーティンが決まっていないのが、猪谷涼夏の特徴だ。
親愛なる友人のことを考えながら駅まで歩くと、いつも通り先に来て待っている奈都に「おはよー」と声をかけた。待っていると言っても、私が2、3分早く家を出たら、私の方が先に着く程度の待ち時間だ。
奈都は相変わらず挨拶も返さずに、熱でもあるように頬を赤らめて目を細めた。
「チサ、今日も可愛い。ここ10年で一番と言われた昨日を上回る可愛さ」
「ピークはどこだろうね。永遠に可愛くなり続けるのは無理だから、絶対にどこかで下降に転じるでしょ?」
「そんな先のことは知らない。私は一週間先のことしか考えてない」
謎に胸を張って、私の手を握る。どうせ改札で一度離さないといけないが、ほんの少しでも長く触れ合っていたいのは私も同じだ。
今日の奈都は可愛いを連呼している。もう少し実のある話がしたいが、発作みたいなものなので治まるのを待とう。毎朝こうだと困るが、せいぜい週に1回だ。
それに、可愛いと言われるのは嫌ではない。実際に可愛いかは別にして、一応可愛くなる努力はしているので、成果が出ているのなら何よりだ。
電車で横並びで座ると、奈都が満足したように息を吐いた。私は呆れながら言った。
「寛解した?」
「カンカイって何?」
「今週末の予定はどんな感じ?」
「土曜日はクラスの子と遊んで、日曜日は部活の子と遊ぶ感じ」
奈都が平然とそう答えて、私は仏像のような半眼で奈都を見た。奈都が慌てて手を振った。
「三週間くらい前から決まってた予定だから! 仕方ないよね?」
「全然一週間先のことしか考えてなくないじゃん」
先程の話を持ち出して不満を述べると、奈都は冗談と捉えたのかくすっと笑った。まったく冗談ではない。
「もう少し私のために体を空けておいて」
こう訴えるのも、もう何度目かわからない。もはや定番のやり取りと化していて、どうも奈都も本気で受け止めてくれない。
今回も、さも自分は悪くないと言わんばかりにおどけた。
「チサももっと早く予定入れてよ」
「じゃあ、来月の土日は全部空けておいて」
「極端だから」
奈都が呆れたように肩をすくめる。やはりノリが軽い。私も怒っているわけではないからいいのだが、もう少し真剣に私との時間について考えて欲しいものだ。
とりあえず直近で空いている週末を確認して、スケジュールに私の名前を書かせると、奈都が笑いながら言った。
「それで、何するの?」
「その時にしたいこと」
何をするかは重要ではない。今の時点でそんな先のことはわからないと言うと、奈都は困惑気味に眉をひそめた。
「普通は先にやりたいことがあるでしょ」
「奈都が私としたいことでいいよ」
「じゃあ考えておく」
ここまでが一連の流れだ。奈都も、私が何をするかより誰と遊ぶかが大事なのをわかっているので、それ以上掘り下げてこない。たまに突っ込んで聞いてきたとしても、わかった上で言っているものだ。
もちろん私も、私が誰と遊ぶかを大事にしているのと同じくらい、奈都が何をするかに重きを置いていることを知っている。涼夏や絢音が呆れていたが、奈都は気が乗らなければ、空いていても断ってくることがある。
今澤奈都とはそういう女だとわかっているが、私との時間をどう考えているのか、やはり少しばかり不安になるものである。
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