ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
355 / 381

第67話 奈都 2(1)

しおりを挟む
 奈都が私のことをどう思っているのか。本人に聞くと、照れたように「好きだ」とか「愛してる」とか言ってくれるが、どうも行動が伴わない。
 もちろん、嘘をついているとはまったく思っておらず、単に好きの表現方法が違うのだろうと考えている。つまり、私の「好きならこうする」と、奈都の「好きならこうする」には、だいぶ違いがあるということだ。
 そもそも、奈都は休みの日に一緒に遊びたがらない。正確には、向こうから誘って来ないのだが、それも受け身な性格のせいだと考えていた。
 しかし、絢音の言ったアイドル説を当てはめるとしっくり来る。そもそも好きの種類自体が全然違うのではないか。仲のいい友達と、「誰々はイケメン!」とかキャーキャー言っているのと同じような対象になっていないか。
 それを裏付けるように、あの朝から数日後、奈都がこんなことを言ってきた。
「チサとやりたいこと、考えてるんだけど、あんまり浮かばないんだよね」
 もちろん、予定表に私の名前を書かせた日のことである。なかなか衝撃的な発言だが、当人はさほど問題のある台詞とは捉えていないようだ。気楽な調子でどうしようと相談してくる。
「別になんでもいいでしょ。相手が私だからしたいことじゃなくてもいいよ?」
 もしかしたら、奈都は難しく考え過ぎているのかもしれない。前に二人で水族館に行ったが、何もあんな大層なデートを企画しろと言っているわけではない。むしろ、特別ではない日常の一幕に私がいることが大事なのだ。
 次の週末は友達と何をするのか聞くと、クラスの友達とはカラオケパーティー、部活の仲間とはお手製アフタヌーンティーパーティーをするそうだ。
「チサとカラオケなぁ……。うーん」
 答えた後、奈都が悩ましげに唸り声を上げた。もちろん、私はあまり音楽を聴かないし、奈都も流行りの曲に詳しいわけではない。二人で積極的にカラオケに行こうと思わないのはわかる。
 しかし、後者はどうか。響きがもう楽しそうだし、とても帰宅部向きの内容だ。
「ヌン活、詳しく」
「友達の親が、アフタヌーンティーのカゴみたいなやつを買ったから、みんなでお茶しようって。でも、猪谷神みたいな子は誰もいないから、食べ物は市販品を持ち寄る感じだね」
「そういうのでいいんだよ。むしろすごく楽しそう!」
 私が思わず声を弾ませると、奈都は「テンション高いチサ可愛い」と目を細めてから、苦笑いを浮かべた。
「私も誘われたら行くけど、自分では企画しないよ。チサはちょっと勘違いしてるかもだけど、そもそも私、他の友達と遊ぶ時も、別に自分からは誘ってないし、何も企画してないよ?」
「それはまあ。勘違いはしてない」
 元々奈都は自分から動く子ではない。正確には、動かなくても誘われるから、自分から動く必要がない。
 これは帰宅部内での絢音も同じようなものだ。時々花火がしたいとか希望を言うこともあるが、基本的には私と涼夏が誘いまくるので暇することがない。それに、奈都も絢音も、予定がなくても平気な人種である。だから自分から動かないのもあるかもしれない。私は休みの日に一人で家にいると死んでしまう。
 だが、今はそういう話をしているのではない。どう伝えればいいか頭の中で整理してから、「例えば」と切り出した。
「もし奈都が好きな人と付き合ってるとして、自分から遊ぼうと思わないの?」
「好きな人って、チサ?」
「じゃあ、そのチサちゃんと付き合ってるとして、チサちゃんから誘われなかったら、奈都は自分から連絡しないの?」
 本題はそこである。会いたいと思うことが何よりも大切だと、誰かの歌で聞いたことがあるが、奈都からはそういう積極性がまるで感じられない。
 それが性格によるものなのか、愛情の問題なのか、それとも関係性のせいなのか、そこをはっきりさせたい。
 私が答えを促すように見つめると、奈都はしばらく考えてから口を開いた。
「チサから声をかけて来ない状況が思い浮かばないけど、もしそうなったら、私から連絡すると思うよ?」
「じゃあ、今そうしないのは、付き合ってないから?」
「今はチサから連絡くれるじゃん」
「じゃあ、しばらく連絡せずに奈都を試す」
「やめて」
 私の苦渋の決断は、一瞬で却下されてしまった。やれと言われても連絡せずにいられる気がしないが、奈都の方からも会いたいと思って欲しい私の気持ちはわかって欲しい。
 そう訴えると、奈都は笑いながらずれたことを言った。
「今日のチサは、恋愛的にめん……こいね」
「今、面倒くさいって言いかけたよね? めんこいとか、人生で一度も使ったことがないよね?」
「珍しい感じ。チサ、恋愛にまったく興味がないじゃん」
「恋愛っていうか、友情? 私はただ遊びたいだけ」
 言いながら、私もよくわからなくなってきた。絢音の言っていたアイドル説の裏付けを取ろうとしていたのだったか。
 そもそも、奈都が私と一緒にやりたいことが思い付かないなどと言ったのが悪いのだ。考えた上で思い付かなかったのなら、さらに強要してもしょうがない。
「じゃあ、運動系ね。涼夏がやりたがらないようなことをしよう」
「何する?」
「ジャンルまで絞ったから、後は奈都が考えて」
 ピシャリとそう言うと、奈都は仕方なさそうに頷いた。本当に、もう少し私との時間に積極的になって欲しいものだが、奈都らしいと言えばそうも思う。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...