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第67話 奈都 3(1)
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※今回、話の切れ目ではないところで切っています。
* * *
次の土曜日。奈都が考えた遊びは、YouTubeにあるエクササイズ動画をひたすらやるという、手軽でお金のかからないものだった。
なかなか良いチョイスだ。個人的には時々やっているが、友達と一緒にしたことはないし、長い時間やり続けたこともない。
今日はバイトのある涼夏は、案の定まったく羨ましがらなかった。むしろ空いていなくてよかったと言っていたが、順番が逆である。涼夏が空いていないから、来れないことを残念がらない内容にしたのだ。
絢音は午前だけなら大丈夫とのことで、一緒にやることになった。デートの類ではないし、さすがに奈都も二人きりがいいというそぶりは見せなかった。
絢音とは先週も土日両日遊んだので、これで休日3連続になる。お金のかからない遊びをしているので、頻繁に遊んでも金欠にならない。お小遣いの少ない高校生には重要な要素だ。
フル充填したスマホとタブレット、それにタオルとスポーツドリンクをリュックに詰め込み、高校のジャージを着て家を出た。タブレットは地面に置くと見えないので、奈都が台を用意してくれて、音量が小さいだろうから、絢音がスピーカーを用意してくれる。
同じジャージ姿の奈都と駅で合流すると、奈都は「部活みたいだね」と笑った。部活と言われて真っ先に帰宅部が思い浮かんだが、それではないだろう。
「絢音が午前しかダメだけど、そもそも午後まで体力がもつか怪しいね」
あの手のものは、10分間エクササイズを1つやるだけでも結構疲れる。クリスマスソングが街に流れる程度には冬なので、日焼けや熱中症は気にしなくてもいい。むしろ外にいるには少し寒いが、動いていたらすぐに温まるだろう。
スマホで良さそうな動画を探しながら古沼まで移動する。あまり人目につかない大きな公園が良かったが、私たちと絢音の定期券の共通の範囲は上ノ水と古沼の二駅しかないので仕方ない。学校の近くまで行けば大きな公園があるが、そんなに歩く気はないので、多少奇異の目で見られても、駅の近くの適当な公園でやろう。
古沼で同じ格好の絢音と合流すると、事前に調べていた住宅地の公園に移動した。冬の午前9時。公園にはまだ猫の子しかいなかった。丁度いい。
絢音がレジャーシートを広げて、その上に荷物を置いた。ひとまず汗をかく前に写真を撮ってグループに流す。すぐに涼夏から、「完全に体育の授業だ」と返事が来た。
奈都が三脚を立てて、雲台にタブレットのホルダーを取り付ける。スマホのは見たことがあるが、タブレット用もあるとは思わなかった。便利そうなので、安かったら買おう。
絢音がBluetoothでスピーカーを繋げて、私はスマホとタブレットをテザリングで繋げた。これで準備完了だ。
「さあ、今日は痩せるぞ!」
絢音が大きく腕を振りながら言った。毎日のようにハグしている私の感想としては、絢音はむしろもう少し太った方がいいと思うが、運動するのは大事だ。
奈都は「運動部の矜持にかけてチサに勝つ」と意気込んでいるが、今日の遊びに何か勝ち負けの要素があっただろうか。もし今日一日で落ちた体重の量を競うなら、私が勝つ自信がある。何故なら、一番たくさん無駄な肉がついていると思うから。
それは言うと虚しくなりそうだったので、心の中で突っ込むだけにしておいた。
まずは準備運動から。早速YouTubeを「準備運動」で検索して、ヒットした10分の動画を流す。
腕を伸ばしたり、首を回したり、足を上下に動かしたり、腰を落としたり、思っていたよりしっかり動くもので、終わった時には息が弾んでいた。
「はぁ、今日はたくさん運動した」
絢音がまるで一日が終わったようにそう言って、レジャーシートの上に座って足を伸ばした。わざとらしく帰り支度を始めたところで、奈都が呆れたように突っ込んだ。
「いや、今始まったところだから。準備運動だから」
こちらはまったく呼吸が乱れていないので、さすがは現役運動部員だ。同じ運動量で疲れ具合がこんなにも違うなら、今日の減体重量勝負は私の圧勝だろう。
次に「エクササイズ」で検索したら、ずらっと並んだ中にキックボクシングダイエットというのがあったので、それをやってみることにした。
考えてみると、人生でファイティングポーズを取ったことがない。パンチ自体は色々なエクササイズ動画で取り入れられているが、もちろん拳を人に向けたことはない。
足踏みしながらそう言うと、奈都も同じだと頷いた。絢音は満面の笑みで首を横に振った。
「西畑家は戦場だから、殴り殴られる関係だね」
「物騒だから! グーで?」
「グーではないね。今日はここで右ストレートを会得して帰る」
一体どこまで本気で言っているのだろう。私は家でも学校でもあまりキャラが変わらないが、絢音は家と学校で、随分キャラが違いそうだ。
ジャブ、ジャブからストレート、フック、足を上げてキック。どれもこれまでの人生でしたことのない動きなので、使ったことのない筋肉に効いている感じがある。
「筋トレじゃないから大丈夫だと思ったけど、さすがに明日は筋肉痛になりそう」
10分の動画を終えて、シートの上でスポーツドリンクを飲んだ。冬だということを忘れるくらい汗をかいている。
* * *
次の土曜日。奈都が考えた遊びは、YouTubeにあるエクササイズ動画をひたすらやるという、手軽でお金のかからないものだった。
なかなか良いチョイスだ。個人的には時々やっているが、友達と一緒にしたことはないし、長い時間やり続けたこともない。
今日はバイトのある涼夏は、案の定まったく羨ましがらなかった。むしろ空いていなくてよかったと言っていたが、順番が逆である。涼夏が空いていないから、来れないことを残念がらない内容にしたのだ。
絢音は午前だけなら大丈夫とのことで、一緒にやることになった。デートの類ではないし、さすがに奈都も二人きりがいいというそぶりは見せなかった。
絢音とは先週も土日両日遊んだので、これで休日3連続になる。お金のかからない遊びをしているので、頻繁に遊んでも金欠にならない。お小遣いの少ない高校生には重要な要素だ。
フル充填したスマホとタブレット、それにタオルとスポーツドリンクをリュックに詰め込み、高校のジャージを着て家を出た。タブレットは地面に置くと見えないので、奈都が台を用意してくれて、音量が小さいだろうから、絢音がスピーカーを用意してくれる。
同じジャージ姿の奈都と駅で合流すると、奈都は「部活みたいだね」と笑った。部活と言われて真っ先に帰宅部が思い浮かんだが、それではないだろう。
「絢音が午前しかダメだけど、そもそも午後まで体力がもつか怪しいね」
あの手のものは、10分間エクササイズを1つやるだけでも結構疲れる。クリスマスソングが街に流れる程度には冬なので、日焼けや熱中症は気にしなくてもいい。むしろ外にいるには少し寒いが、動いていたらすぐに温まるだろう。
スマホで良さそうな動画を探しながら古沼まで移動する。あまり人目につかない大きな公園が良かったが、私たちと絢音の定期券の共通の範囲は上ノ水と古沼の二駅しかないので仕方ない。学校の近くまで行けば大きな公園があるが、そんなに歩く気はないので、多少奇異の目で見られても、駅の近くの適当な公園でやろう。
古沼で同じ格好の絢音と合流すると、事前に調べていた住宅地の公園に移動した。冬の午前9時。公園にはまだ猫の子しかいなかった。丁度いい。
絢音がレジャーシートを広げて、その上に荷物を置いた。ひとまず汗をかく前に写真を撮ってグループに流す。すぐに涼夏から、「完全に体育の授業だ」と返事が来た。
奈都が三脚を立てて、雲台にタブレットのホルダーを取り付ける。スマホのは見たことがあるが、タブレット用もあるとは思わなかった。便利そうなので、安かったら買おう。
絢音がBluetoothでスピーカーを繋げて、私はスマホとタブレットをテザリングで繋げた。これで準備完了だ。
「さあ、今日は痩せるぞ!」
絢音が大きく腕を振りながら言った。毎日のようにハグしている私の感想としては、絢音はむしろもう少し太った方がいいと思うが、運動するのは大事だ。
奈都は「運動部の矜持にかけてチサに勝つ」と意気込んでいるが、今日の遊びに何か勝ち負けの要素があっただろうか。もし今日一日で落ちた体重の量を競うなら、私が勝つ自信がある。何故なら、一番たくさん無駄な肉がついていると思うから。
それは言うと虚しくなりそうだったので、心の中で突っ込むだけにしておいた。
まずは準備運動から。早速YouTubeを「準備運動」で検索して、ヒットした10分の動画を流す。
腕を伸ばしたり、首を回したり、足を上下に動かしたり、腰を落としたり、思っていたよりしっかり動くもので、終わった時には息が弾んでいた。
「はぁ、今日はたくさん運動した」
絢音がまるで一日が終わったようにそう言って、レジャーシートの上に座って足を伸ばした。わざとらしく帰り支度を始めたところで、奈都が呆れたように突っ込んだ。
「いや、今始まったところだから。準備運動だから」
こちらはまったく呼吸が乱れていないので、さすがは現役運動部員だ。同じ運動量で疲れ具合がこんなにも違うなら、今日の減体重量勝負は私の圧勝だろう。
次に「エクササイズ」で検索したら、ずらっと並んだ中にキックボクシングダイエットというのがあったので、それをやってみることにした。
考えてみると、人生でファイティングポーズを取ったことがない。パンチ自体は色々なエクササイズ動画で取り入れられているが、もちろん拳を人に向けたことはない。
足踏みしながらそう言うと、奈都も同じだと頷いた。絢音は満面の笑みで首を横に振った。
「西畑家は戦場だから、殴り殴られる関係だね」
「物騒だから! グーで?」
「グーではないね。今日はここで右ストレートを会得して帰る」
一体どこまで本気で言っているのだろう。私は家でも学校でもあまりキャラが変わらないが、絢音は家と学校で、随分キャラが違いそうだ。
ジャブ、ジャブからストレート、フック、足を上げてキック。どれもこれまでの人生でしたことのない動きなので、使ったことのない筋肉に効いている感じがある。
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10分の動画を終えて、シートの上でスポーツドリンクを飲んだ。冬だということを忘れるくらい汗をかいている。
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