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番外編 ハンバーグ(4)
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※(3)からそのまま繋がっています。
* * *
みんなで集まるのが久しぶりだったので、奈都の近況などを聞きながら時を過ごして、いよいよ焼きの工程に移る。重量1キロのハンバーグはなかなか壮観だ。
熱したフライパンにタネを入れて、まずは中火でしっかりと焼く。裏返し方だが、初めにお好み焼きのようにヘラで持ち上げて皿に乗せる。その上にさらに皿を被せて引っくり返した後、フライパンに戻すことにした。洗い物は増えるが、この際それはどうでもいい。
「じゃあ、発案者と部長にやってもらおう。私はビデオを撮る」
涼夏がそう言ってスマホを向けた。底が十分焼けているのを確認してから持ち上げて、奈都が皿を差し入れる。
大体計画通り、裏返すのに成功すると、途中経過を写真に収めた。それからフライパンに少し水を入れ、火を弱くして蓋をした。後はじっくり蒸し焼きにする。
「完成間近だな。付け合わせにレタスを用意しよう」
涼夏が明るい声でそう言いながら、冷蔵庫からレタスを取り出した。千切って洗うだけだが、任されたので3人でワイワイ用意した。
涼夏が何度かお肉を確認して、いよいよハンバーグが完成した。綺麗な円形だし、割れてもいない。さすが涼夏だ。
「ソースは私が作るから、写真撮って遊んでて」
大皿に移したハンバーグを押し付けてから、涼夏がケチャップと赤ワインを取り出した。先程のフライパンに最初に赤ワインを入れ、それからケチャップとソースを入れてかき混ぜる。
奈都が一緒に写真を撮ろうと言うので、ハンバーグと一緒に何枚か撮った。ソースをかけてから涼夏も一緒に4人で撮って、4つに切り分ける。4分の1でも200グラム以上あるのでなかなかのボリュームだ。
「出来るもんだねぇ。ハンバーグを作るなんて、手練れにしか無理かと思った」
奈都がしみじみと言った。いかにも日頃料理をしない人の発言であり、私も日頃料理をしないので同感である。もっとも、ハンバーグに関しては前に一度作っているので、そこまで大変ではないことはわかっていた。
「ハンバーグは時間がかかるだけで、比較的簡単な料理だな。もっとも、1キロとか作ることはないから、いい経験をさせてもらった」
涼夏が有り難いと礼を言う。奈都が千切れそうなほど首を振った。
「いやいやいや、涼夏がいなかったら犬も食べるか怪しいハンバーグしか出来なかったから! こんなに美味しいハンバーグが出来るなんて!」
「まだ一口も食べてないな」
冷静に突っ込まれたので、早速食べてみる。普通に美味しいハンバーグだった。
「普通に美味しいっていうのは、褒め言葉として適切かなぁ」
疑問を投げかけると、涼夏がどうだろうと首を傾けた。
「普通に可愛いとか、言う時はあるな」
「最初の期待値が低かったり、不安要素がある時に使う言葉だね。ボロボロの橋が普通に渡れるとか、体調が悪かったけど普通にいい成績だったとか」
絢音が実に納得出来る説明をする。ハンバーグに関して言えば、涼夏監修なので不安要素はなかったが、初めての挑戦だし、手を動かしたのは私たちだし、「普通に美味しい」は褒め言葉として妥当という結論に至った。
お喋りしながら何とか250グラムバーグを完食すると、奈都が話題になっているタグをつけてハンバーグの写真をツイッターに投下した。せっかくだからと、絢音も同じように投稿する。ネット上でもやり取りの多い二人だが、これで見る人が見れば、リアルの友達だとわかるだろう。
共通のフォロワーはいるのか聞いたら、多分学校の友達くらいとのこと。
「やり取りしてるのを見て、とりあえず女子高生だからってフォローしてくる人はいるけど、そういうのはすぐにブロ解してるね」
絢音がバッサリと切り捨てる。ブロ解とは、ブロックして相手からのフォローを外した上で、そのブロックを解除して元の状態に戻すことだ。時には、ブロックすることで相手からのフォローを解除するという意味で使われることもある。
私は鍵垢の上、目の前の3人と公式サイトをいくつかフォローしているだけなので、変なアカウントに絡まれることはないが、時々フォロリクが飛んでくることはある。もちろん、すべて却下している。
インスタの方は学校の友達も何人か繋がっているので、たまにはと思ってハンバーグの写真をアップしておいた。涼夏は撮った動画を編集してお料理チャンネルに載せるそうだ。もちろん、いつも通り手元以外は載せないだろうが、わちゃわちゃした感じは伝わるだろう。楽しみだ。
「考えてみると、帰宅部でナッちゃんの企画で遊ぶの、初めてかもだね」
涼夏が何かあっただろうかと首をひねる。例えばみんなで集まった時にカラオケに行きたいとか、そういう小さな提案はいくつかあったと思うが、こういう企画は経験がない。
「企画っていうか、私がテキトーに言ったのを、チサが拾ってくれただけだけどね」
奈都がそう謙遜して頭を掻く。
「じゃあ、私の企画だね」
平然とそう言うと、奈都は不服そうに唇を尖らせた。
「そう言われるとなんか違う気がする」
「まあ、料理系は大歓迎だから、気軽に企画して。材料が提供されて、洗い物も頼めるなら、いくらでも作る」
涼夏が明るく笑った。家でも涼夏が食事を作る時は、洗い物は妹がしているらしい。いつか一緒に住んでもその流れになりそうだ。私は買い出しと皿洗いをマスターしよう。
基本的には料理はそんなに得意ではないが、みんなでワイワイ出来たら何でも楽しい。
もちろん今日も楽しかった。こういう変化球は私には投げられないので、奈都にはこれからも独特の感性で変な企画をしていただきたい。
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みんなで集まるのが久しぶりだったので、奈都の近況などを聞きながら時を過ごして、いよいよ焼きの工程に移る。重量1キロのハンバーグはなかなか壮観だ。
熱したフライパンにタネを入れて、まずは中火でしっかりと焼く。裏返し方だが、初めにお好み焼きのようにヘラで持ち上げて皿に乗せる。その上にさらに皿を被せて引っくり返した後、フライパンに戻すことにした。洗い物は増えるが、この際それはどうでもいい。
「じゃあ、発案者と部長にやってもらおう。私はビデオを撮る」
涼夏がそう言ってスマホを向けた。底が十分焼けているのを確認してから持ち上げて、奈都が皿を差し入れる。
大体計画通り、裏返すのに成功すると、途中経過を写真に収めた。それからフライパンに少し水を入れ、火を弱くして蓋をした。後はじっくり蒸し焼きにする。
「完成間近だな。付け合わせにレタスを用意しよう」
涼夏が明るい声でそう言いながら、冷蔵庫からレタスを取り出した。千切って洗うだけだが、任されたので3人でワイワイ用意した。
涼夏が何度かお肉を確認して、いよいよハンバーグが完成した。綺麗な円形だし、割れてもいない。さすが涼夏だ。
「ソースは私が作るから、写真撮って遊んでて」
大皿に移したハンバーグを押し付けてから、涼夏がケチャップと赤ワインを取り出した。先程のフライパンに最初に赤ワインを入れ、それからケチャップとソースを入れてかき混ぜる。
奈都が一緒に写真を撮ろうと言うので、ハンバーグと一緒に何枚か撮った。ソースをかけてから涼夏も一緒に4人で撮って、4つに切り分ける。4分の1でも200グラム以上あるのでなかなかのボリュームだ。
「出来るもんだねぇ。ハンバーグを作るなんて、手練れにしか無理かと思った」
奈都がしみじみと言った。いかにも日頃料理をしない人の発言であり、私も日頃料理をしないので同感である。もっとも、ハンバーグに関しては前に一度作っているので、そこまで大変ではないことはわかっていた。
「ハンバーグは時間がかかるだけで、比較的簡単な料理だな。もっとも、1キロとか作ることはないから、いい経験をさせてもらった」
涼夏が有り難いと礼を言う。奈都が千切れそうなほど首を振った。
「いやいやいや、涼夏がいなかったら犬も食べるか怪しいハンバーグしか出来なかったから! こんなに美味しいハンバーグが出来るなんて!」
「まだ一口も食べてないな」
冷静に突っ込まれたので、早速食べてみる。普通に美味しいハンバーグだった。
「普通に美味しいっていうのは、褒め言葉として適切かなぁ」
疑問を投げかけると、涼夏がどうだろうと首を傾けた。
「普通に可愛いとか、言う時はあるな」
「最初の期待値が低かったり、不安要素がある時に使う言葉だね。ボロボロの橋が普通に渡れるとか、体調が悪かったけど普通にいい成績だったとか」
絢音が実に納得出来る説明をする。ハンバーグに関して言えば、涼夏監修なので不安要素はなかったが、初めての挑戦だし、手を動かしたのは私たちだし、「普通に美味しい」は褒め言葉として妥当という結論に至った。
お喋りしながら何とか250グラムバーグを完食すると、奈都が話題になっているタグをつけてハンバーグの写真をツイッターに投下した。せっかくだからと、絢音も同じように投稿する。ネット上でもやり取りの多い二人だが、これで見る人が見れば、リアルの友達だとわかるだろう。
共通のフォロワーはいるのか聞いたら、多分学校の友達くらいとのこと。
「やり取りしてるのを見て、とりあえず女子高生だからってフォローしてくる人はいるけど、そういうのはすぐにブロ解してるね」
絢音がバッサリと切り捨てる。ブロ解とは、ブロックして相手からのフォローを外した上で、そのブロックを解除して元の状態に戻すことだ。時には、ブロックすることで相手からのフォローを解除するという意味で使われることもある。
私は鍵垢の上、目の前の3人と公式サイトをいくつかフォローしているだけなので、変なアカウントに絡まれることはないが、時々フォロリクが飛んでくることはある。もちろん、すべて却下している。
インスタの方は学校の友達も何人か繋がっているので、たまにはと思ってハンバーグの写真をアップしておいた。涼夏は撮った動画を編集してお料理チャンネルに載せるそうだ。もちろん、いつも通り手元以外は載せないだろうが、わちゃわちゃした感じは伝わるだろう。楽しみだ。
「考えてみると、帰宅部でナッちゃんの企画で遊ぶの、初めてかもだね」
涼夏が何かあっただろうかと首をひねる。例えばみんなで集まった時にカラオケに行きたいとか、そういう小さな提案はいくつかあったと思うが、こういう企画は経験がない。
「企画っていうか、私がテキトーに言ったのを、チサが拾ってくれただけだけどね」
奈都がそう謙遜して頭を掻く。
「じゃあ、私の企画だね」
平然とそう言うと、奈都は不服そうに唇を尖らせた。
「そう言われるとなんか違う気がする」
「まあ、料理系は大歓迎だから、気軽に企画して。材料が提供されて、洗い物も頼めるなら、いくらでも作る」
涼夏が明るく笑った。家でも涼夏が食事を作る時は、洗い物は妹がしているらしい。いつか一緒に住んでもその流れになりそうだ。私は買い出しと皿洗いをマスターしよう。
基本的には料理はそんなに得意ではないが、みんなでワイワイ出来たら何でも楽しい。
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