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番外編 インバウンド(2)
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※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
例えばケルンの大聖堂が見たくてドイツに行くとか、私のクマのぬいぐるみの名前にもなっている、メテオラの修道院が見たくてギリシアに行くとか、何かそういう強い目的が欲しい。
日本だとそれは富士山だったり、稲荷大社の鳥居だったり、秋葉原の電気街だったり、鹿のうじゃうじゃいる奈良公園だったりするのだろう。そのクラスのものは我がプリフェクチャーにはない。
他のサイトを調べると、Culture Tripという世界を網羅したサイトに、日本の紹介ページがあった。トップページに並ぶ都市は、東京、京都、大阪、広島、札幌、福岡、箱根、横浜、ニセコ、長野、北海道、神戸など。ニセコがオーバーツーリズムで大変だとか、カレーが3千円もするとか、そういう話は聞いていたが、やはりこういうサイトで紹介されているから来るのだろう。これがフックだ。
興味を惹かれたのでニセコをタップしてみると、夏のニセコの過ごし方とか、地元のグルメとか、冬の完全ガイドとか、内容が充実していた。ニセコが北海道のどこにあるのかもよくわかっていないが、見ていると日本人の私でも行きたくなる。
「もう私たちで作ろうか。インバウンド向けの我がプリフェクチャー紹介ページ」
私がそう提案すると、涼夏が大きく頷きながらも保留にした。
「もうちょっと動けるようになってからだな。20歳くらいになってまだその熱意が残ってたらやってもいいかも知れない」
「20歳どころか、明日にはもうなくなってそう」
私が率直にそう告げると、絢音が楽しそうに笑った。
ちなみにCulture Tripだが、神戸の後、奈良、金沢、函館と続き、我がシティーも載っていた。あまり期待せずにタップすると、2つの記事があり、片方はホテルの紹介だが、もう片方は「The Best Things To Do」という魅力的なタイトルが書かれていた。
記事はもちろん英語だが、ブラウザの機能で翻訳する。大変便利だが、「おいしい料理、豪華な庭園、ストレス、顎を落とすような領収書のないヒップな雰囲気」など、ところどころ日本語が怪しい。
気になったので、同じ文をChatGPTに和訳させたら、「美味しい食べ物、美しい庭園、そして洗練された雰囲気がありながら、ストレスや混雑、高額な出費とは無縁です」と出力された。デジタルの世界は私の涼夏レベル同様、まだまだ成長の余地を残している。
紹介されているのはまず、創設されて1400年になる神社だ。これは妥当だと3人の意見が一致した。ちなみに、和訳に「日本自体とほぼ同じくらい古い」と書かれていて、何をもって日本建国とするのかという議論になりそうだったが、やめておいた。少なくともこの記事では、大化の改新をそれとしているようだ。
次は、秋葉原と比べると小さいが、界隈では有名な電気街。タイトルにオタクの文字が躍っているが、記事では冷静にショッピングエリアだと書かれている。私も涼夏と定期的に行くが、ファッションと食べ歩きの街という認識だ。
3つ目は徳川家ゆかりの庭園と、併設する美術館である。私自身は全然興味がないが、インバウンド的には日本の歴史と和の様式を一度に楽しめるベストスポットだろう。美術館の公式サイトを見てみると、国宝を含む1万点が所蔵され、茶碗、絵巻、刀、羽織、屏風など、和を感じられるものがたくさん見られるようだ。
「インバウンドハートで臨めば違った感じ方も出来そうだけど、ちと高いな」
涼夏が観覧料を見ながら唸った。一応高校生料金もあるが、そもそもあまり興味がないことを考えると、この遊びのために出すには少し高い。文化の日にやった文化財を探す遊びとか、そういう機会に訪れることにしよう。
ここは庭園だけにしようなどと話していたら、絢音が画面の下の方を指差して言った。
「毎週土曜日は高校生以下は無料だって。この遊びは土曜日にすることにしよう」
「神だな」
どうしてそうなっているのかはわからないが、これでここまで紹介された3ヶ所は、すべて無料で行くことが出来る。顎を落とすような領収書のないヒップな雰囲気とはこのことだ。
4つ目はバーやクラブの紹介だったので飛ばし、次の和訳タイトルを見て思わず噴いた。
「なんだこれは」
記事によると、「セントウギュ丼ワンツーパンチで地元の靴に足を踏み入れましょう!」とあるが、ちょっと意味がわからない。原文を表示したら銭湯と牛丼で、牛丼は全国にある有名チェーンだった。
ちなみに、これもChatGPTに和訳させたら、「銭湯と牛丼のコンボで、地元の人になりきってみよう!」ととてもわかりやすい日本語にしてくれた。
「これ、比喩表現とか慣用表現が苦手っぽいね。逆に、海外の人が日本の記事を翻訳したら、変な英語になってそう」
絢音がそう分析すると、涼夏が「インバウンドの視点だ」と満足そうに頷いた。
銭湯に関しては、店名こそ書かれていないが、具体的な場所が書かれており、特定の施設を指しているようだった。調べるとスーパー銭湯の類で、残念ながら高校生料金はなし。わざわざ千円払って行く価値は感じないが、インバウンドの気持ちになると、これはいかにも日本的な文化という気はする。
「千紗都の裸も見たいし」
涼夏が不穏なことを言ってから、記事を指で送った。
午後は繁華街でショッピング、そして最後に動物園が紹介されているが、1日で回るととても忙しい行程になる。記事も2日間滞在する前提で書かれているが、土日両方使うほどの遊びでもない。もちろん、普通に友達との遊びやデートにも使えるスポットばかりなので、行けば普通に楽しめるだろうが、今回の主旨はインバウンドだ。
「じゃあ、大体行き先は決まったから、もうちょっと煮詰めて土曜日に決行しよう」
涼夏が元気にそう締めると、絢音が「Alright!」とノリノリで返事した。
インバウンドの気持ちを作り上げていくのは大事だが、言語を縛ると無言になりがちなので、日本語で楽しめたらと思う。
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例えばケルンの大聖堂が見たくてドイツに行くとか、私のクマのぬいぐるみの名前にもなっている、メテオラの修道院が見たくてギリシアに行くとか、何かそういう強い目的が欲しい。
日本だとそれは富士山だったり、稲荷大社の鳥居だったり、秋葉原の電気街だったり、鹿のうじゃうじゃいる奈良公園だったりするのだろう。そのクラスのものは我がプリフェクチャーにはない。
他のサイトを調べると、Culture Tripという世界を網羅したサイトに、日本の紹介ページがあった。トップページに並ぶ都市は、東京、京都、大阪、広島、札幌、福岡、箱根、横浜、ニセコ、長野、北海道、神戸など。ニセコがオーバーツーリズムで大変だとか、カレーが3千円もするとか、そういう話は聞いていたが、やはりこういうサイトで紹介されているから来るのだろう。これがフックだ。
興味を惹かれたのでニセコをタップしてみると、夏のニセコの過ごし方とか、地元のグルメとか、冬の完全ガイドとか、内容が充実していた。ニセコが北海道のどこにあるのかもよくわかっていないが、見ていると日本人の私でも行きたくなる。
「もう私たちで作ろうか。インバウンド向けの我がプリフェクチャー紹介ページ」
私がそう提案すると、涼夏が大きく頷きながらも保留にした。
「もうちょっと動けるようになってからだな。20歳くらいになってまだその熱意が残ってたらやってもいいかも知れない」
「20歳どころか、明日にはもうなくなってそう」
私が率直にそう告げると、絢音が楽しそうに笑った。
ちなみにCulture Tripだが、神戸の後、奈良、金沢、函館と続き、我がシティーも載っていた。あまり期待せずにタップすると、2つの記事があり、片方はホテルの紹介だが、もう片方は「The Best Things To Do」という魅力的なタイトルが書かれていた。
記事はもちろん英語だが、ブラウザの機能で翻訳する。大変便利だが、「おいしい料理、豪華な庭園、ストレス、顎を落とすような領収書のないヒップな雰囲気」など、ところどころ日本語が怪しい。
気になったので、同じ文をChatGPTに和訳させたら、「美味しい食べ物、美しい庭園、そして洗練された雰囲気がありながら、ストレスや混雑、高額な出費とは無縁です」と出力された。デジタルの世界は私の涼夏レベル同様、まだまだ成長の余地を残している。
紹介されているのはまず、創設されて1400年になる神社だ。これは妥当だと3人の意見が一致した。ちなみに、和訳に「日本自体とほぼ同じくらい古い」と書かれていて、何をもって日本建国とするのかという議論になりそうだったが、やめておいた。少なくともこの記事では、大化の改新をそれとしているようだ。
次は、秋葉原と比べると小さいが、界隈では有名な電気街。タイトルにオタクの文字が躍っているが、記事では冷静にショッピングエリアだと書かれている。私も涼夏と定期的に行くが、ファッションと食べ歩きの街という認識だ。
3つ目は徳川家ゆかりの庭園と、併設する美術館である。私自身は全然興味がないが、インバウンド的には日本の歴史と和の様式を一度に楽しめるベストスポットだろう。美術館の公式サイトを見てみると、国宝を含む1万点が所蔵され、茶碗、絵巻、刀、羽織、屏風など、和を感じられるものがたくさん見られるようだ。
「インバウンドハートで臨めば違った感じ方も出来そうだけど、ちと高いな」
涼夏が観覧料を見ながら唸った。一応高校生料金もあるが、そもそもあまり興味がないことを考えると、この遊びのために出すには少し高い。文化の日にやった文化財を探す遊びとか、そういう機会に訪れることにしよう。
ここは庭園だけにしようなどと話していたら、絢音が画面の下の方を指差して言った。
「毎週土曜日は高校生以下は無料だって。この遊びは土曜日にすることにしよう」
「神だな」
どうしてそうなっているのかはわからないが、これでここまで紹介された3ヶ所は、すべて無料で行くことが出来る。顎を落とすような領収書のないヒップな雰囲気とはこのことだ。
4つ目はバーやクラブの紹介だったので飛ばし、次の和訳タイトルを見て思わず噴いた。
「なんだこれは」
記事によると、「セントウギュ丼ワンツーパンチで地元の靴に足を踏み入れましょう!」とあるが、ちょっと意味がわからない。原文を表示したら銭湯と牛丼で、牛丼は全国にある有名チェーンだった。
ちなみに、これもChatGPTに和訳させたら、「銭湯と牛丼のコンボで、地元の人になりきってみよう!」ととてもわかりやすい日本語にしてくれた。
「これ、比喩表現とか慣用表現が苦手っぽいね。逆に、海外の人が日本の記事を翻訳したら、変な英語になってそう」
絢音がそう分析すると、涼夏が「インバウンドの視点だ」と満足そうに頷いた。
銭湯に関しては、店名こそ書かれていないが、具体的な場所が書かれており、特定の施設を指しているようだった。調べるとスーパー銭湯の類で、残念ながら高校生料金はなし。わざわざ千円払って行く価値は感じないが、インバウンドの気持ちになると、これはいかにも日本的な文化という気はする。
「千紗都の裸も見たいし」
涼夏が不穏なことを言ってから、記事を指で送った。
午後は繁華街でショッピング、そして最後に動物園が紹介されているが、1日で回るととても忙しい行程になる。記事も2日間滞在する前提で書かれているが、土日両方使うほどの遊びでもない。もちろん、普通に友達との遊びやデートにも使えるスポットばかりなので、行けば普通に楽しめるだろうが、今回の主旨はインバウンドだ。
「じゃあ、大体行き先は決まったから、もうちょっと煮詰めて土曜日に決行しよう」
涼夏が元気にそう締めると、絢音が「Alright!」とノリノリで返事した。
インバウンドの気持ちを作り上げていくのは大事だが、言語を縛ると無言になりがちなので、日本語で楽しめたらと思う。
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