ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
22 / 381

番外編 帰宅部活動 3.転生

しおりを挟む
 帰宅部というのは、1年生から3年生まで、かなりたくさんの人数で構成された、一つの大きな部活と捉えることもできる。ただ、それではあまりにも無秩序すぎるので、ある程度同じ目的意識を持ったメンバーで構成された小さなグループに分けるのが妥当だろう。
 それに、放課後真っ直ぐ家に帰る生徒を、帰宅部の部員と呼ぶのはいささか乱暴だ。帰宅部というのは、放課後の時間を何かしら有意義に、活動的に過ごす集まりでなくてはならない。
 そういういくつかの定義を勝手に決めて、私は親愛なる仲間とともに帰宅部を結成した。便宜的に私が部長になっているが、部員に序列があるわけではない。
 メンバーは、部長である私の他に、同じクラスの涼夏すずか絢音あやね、そして私の中学からの友達である奈都なつを、勝手に帰宅部の幽霊部員ということにしている。本当はバトントワリング部に所属しており、日頃は熱心にバトンを回している。
 バトン部はユナ高の多くの運動部と同じように、基本的には平日は毎日部活がある。ただ、奈都が毎日部活に行っているかというとそうでもなく、月に何日かは体調不良やその他の理由で休んでいる。
 ただ、バトン部を休んだ日は私たちと一緒に帰宅部の活動に励むかというと、そうでもない。まず第一に、私たちはクラスが違う。それに、奈都には私たちの他にも友達がいる。私たちとは土日に遊んでいるので、たまにはクラスの帰宅部員と帰りたいらしい。そして何より、私と奈都は毎日一緒に登校している。それだけで十分と言えば十分だ。
 その日、帰宅部の生きているメンバーと夕方まで遊んだ後、イエローラインでぐったりしていると、隣の車両に奈都が座っているのを発見した。部活は違えど、帰る時間は大体同じで、最寄り駅も同じなので電車で一緒になることも多い。
 せっかくなので車両を移動して声をかけると、奈都がバトンケースを胸に抱いて鮮やかに笑った。
「今まで遊んでたの?」
「帰宅部の活動をしてた。今日はカラオケ」
「カラオケで遊んでたんだ」
「電車の音がうるさくて、よく聞こえなかったのかな?」
 真顔で首を傾げると、奈都が可笑しそうに頬を緩めた。
 駅で降りて、しばらく同じ道を歩く。特に会話はなかったが、ふと奈都が足を止めて、日が沈んだばかりの空を見つめながら言った。
「私、実は異世界から転生してきたんだ」
 私は眉も動かさずに奈都を見つめた。奈都との付き合いも4年目になる。これくらいでは驚かない。オタクのさがなのか、この子が時々よくわからないことを言うのは、もはや日常の一部だ。
 心の奥まで見透かすように、じっと瞳を見つめると、奈都は恥ずかしそうに俯いた。
「その目、やめて」
「奈都、異世界から転生してきたんだ」
 復唱すると、奈都は照れ臭そうに頷いた。くだらない冗談は大歓迎だが、出来れば自分で笑ったり恥ずかしがったりせず、大真面目に続けて欲しい。
「異世界はどんな感じなの?」
 話を膨らませるように聞くと、奈都は小さく笑って首を振った。
「私にはこっちが異世界だから」
「…………」
 様子を窺うようにじっと見つめ続ける。奈都は片手で顔を覆ってそっぽを向いた。
「その目、やめてって」
「いつ転生してきたの?」
「中学の入学前。だから、チサとは小学校が一緒じゃなかった」
 それは学区が違うせいだと思う。そんな身も蓋もない言葉は胸の奥に封印して、続きを促した。
「だから、チサはこの世界で出来た、私の最初の友達なの」
「東京から引っ越してきた、みたいな感じだね」
「転生だから!」
 奈都が両手を広げて訴えた。ちなみに、奈都は生まれも育ちもこの街だ。確か幼い頃に一度、アパートから今の一軒家に引っ越したと言っていた。
「どうして転生したの? 車に撥ねられたとか?」
「えっと……」
「設定が甘くない?」
「設定とか言わないで!」
 奈都が顔を赤くして唾を飛ばす。だんだん言っていて恥ずかしくなってきたのだろう。とてつもなく可愛いので、もう少しこのくだらない話に付き合おう。
「選ばれたの。この世界を救う【力】を持ってるからって」
「この世界はどんな危機に見舞われてるの? 私の知らないところで、何かと戦ってるの?」
「えっと……地球温暖化?」
「暑くなる地球を、この寒い話で冷やそうってこと?」
「チサ、私をいじめて楽しい?」
 奈都が冷たい眼差しで私を睨んだ。これには地球もひんやりだ。
 私は大きく首を横に振って否定した。
「奈都は3年前、地球を温暖化から救うために、転生してきました。それは【力】を持っていたからです」
「事情聴取みたいになってきたね」
「奈都の元いたところは、地球と同じ感じの世界なの?」
「うん」
 秒で頷かれて、私は大きくため息をついた。奈都が心外そうに目を丸くする。だって、それではあまりにもつまらないではないか。
「何かもっとこう、物語を考えてから言ってよ」
 呆れたように注文をつけると、奈都はふてくされたように唇を尖らせた。
「私はもっと気軽に発言したい」
「奈都。帰宅は遊びじゃないの。もっと真面目に取り組んで」
 そっと肩に手を置いて真顔でそう言うと、奈都は「えー」とげんなりした様子で呟いた。私はやれやれと首を振った。
「まあ、奈都はバトン部と二足のわらじだからしょうがないけどね。帰宅部も確実に帰宅のレベルが上がってるから、油断してると帰宅できなくなるよ?」
 部長として、友達として、心配しながらそう忠告すると、奈都は乾いた笑いを浮かべた。
「帰宅できなくなるの?」
「そう。でも、私たちは奈都を見捨てないから。明日また、ちゃんと転生し直して」
 励ますようにそう告げると、奈都は困ったように「ありがとう」と言った。
 奈都にはバトンだけではなく、帰宅も上手になって欲しい。【力】の秘密が、今から楽しみだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...