ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
50 / 381

第19話 文化祭 11(1)

しおりを挟む
 日曜日。文化祭2日目の朝もよく晴れていた。今日は最寄り駅で奈都と待ち合わせて、二人で学校に向かう。
 奈都は朝から眠そうだった。演技を楽しみにしていると伝えると、「うん」と力のない返事をして、私の肩に頭を乗せて目を閉じた。大丈夫だろうか。
「体調悪いの?」
 心配しながら聞くと、奈都は小さく首を横に振ってあくびをした。
「眠いだけ。遅くまでアニメ見てたら、止まらなくて」
「アニメかよ!」
 てっきり文化祭や部活の関係で、帰りが遅くなったのだと思った。心配して損したが、肩に感じる奈都の重みが心地良かったので、寛大な心で許してあげた。
 今日も8時前に学校に着いて準備をする。仕入係は首尾よくドリンクもドーナツも買ってきてくれた。昨日、どうせ買い足すのなら、2日目は別の物も売ろうという意見も出たが、急遽生徒会に確認したら却下された。特に食べ物関係は、事前に申請したもの以外はダメらしい。
「新しいお客さんを開拓しよう。昨日来てくれた人は、きっと今日は来てくれない」
 色々なクラスや部活が食べ物を売っているのに、好き好んで市販品のドーナツを2日続けて食べに来てくれる人などいないだろう。私がそう訴えると、クラスメイトが明るく笑った。
「いやいや、野阪さんの浴衣姿を見に来る男子がいるって。絶対に」
「昨日、野阪さんと涼夏のシフトの時間、聞かれたよ。ガチで」
「ガチなヤツじゃん! 野阪さん、逃げて!」
 女子数人があははと声を上げる。私が真顔で「逃げる。後は任せた」と言うと、一瞬沈黙してから、もう一度大きな声で笑った。
「野阪さんがそういうこと言うとは思わなかった!」
「面白いね。野阪さん、冗談とか好きじゃないかと思った」
 私はぽりぽりと頭を掻いた。帰宅部では冗談ばかり言っているが、半年一緒にいるクラスメイトでさえ、私の印象は真面目で大人しい女の子らしい。あながち外れでもないが、文化祭に大はしゃぎしているFJKとしては複雑な心境だ。
 今日は開始と同時に、絢音と占いの館に行くことにした。せっかくなので昨日と同じ先輩にお願いすると、先輩は「毎日別の子といるねぇ」と笑ってから、はたと口元に手を当てた。
「あっ、言ったらまずかった?」
「全然大丈夫です。帰宅部仲間ですから。私もこの子との恋愛運を占ってください」
 絢音が椅子に座りながらそう言った。「モテモテだねぇ」と笑いながら、先輩が昨日と同じようにタロットカードをめくる。
 結果はカップの3、ワンドの9、女帝と、昨日よりいささか地味なカードだったが、昨日よりも良いカードばかりらしい。ワンドの9はやや消極的な印象もあるが、一歩引いたところで穏やかに愛情を注げば、満たされた恋愛ができるだろうとアドバイスをもらった。
 帰り際、先輩が「三角関係なの?」と聞いてくると、絢音が「グループ交際です」と笑った。午後からは奈都とも来てみようと思うので、先輩のシフトを確認してから教室を出た。
「一歩離れたところから、大らかに振る舞えかー」
 絢音が楽しそうに声を弾ませた。絢音は占いの類はあまり好きではないかと思ったら、まったくそんなことはないようだった。
「触りたくてしょうがない西畑さんとしては、占いの結果はどうだった?」
「がっつかないように触るよ。淑やかな手つきで」
 そう言いながら、私のお尻をするりと撫でる。思わず変な声を上げてスカートを押さえると、絢音は可笑しそうに折り曲げた指を唇に当てた。
「驚き方も可愛い」
「廊下でそういうことしない!」
「はーい」
 まるで女帝らしからぬ様子で、絢音が頭の後ろで両手を組んだ。上機嫌で何よりだが、人前でのボディータッチは少し控えていただけると有り難い。
 少し絢音と文化祭を見て回ってから、ステージ前で涼夏と合流する。絢音は女帝だったと告げると、涼夏は「似合う!」と笑ってから、占いの詳細を聞きたがった。
 先輩からもらった解釈とアドバイスを話してから、穏やかな愛を育む話をしていたら、やがてバトン部の演技の時間になった。一般開放が始まってから1時間。客の入りも上々だ。
「そういえば、私、ナツがバトン回してるとこ、見たことない気がする」
 絢音がワクワクする眼差しで、ステージ上の奈都を見つめた。部員自体は何十人といるが、今ステージにいるのは10人ほどで、全員が1年生らしい。白と青のコスチュームは可愛らしいが、やはり少々スカートが短い。私が口をへの字に曲げる横で、涼夏が「私もああいう可愛い衣装を着たい人生だった」とため息をついた。私も、男性の視線さえなければ、着てみたいと思わないでもない。
 2年生の現部長が挨拶をして、曲とともに1年生チームが演技を始める。最初のサムトスで何人かキャッチに失敗するのはさすがに1年生といったところか。ペアならではのぴったり揃ったコンタクト・マテリアルはとても綺麗だ。
 休み中も何度か奈都の個人練習に付き合って、技も色々教えてもらったが、団体の方が迫力があって面白い。もっともそれは、単にまだ奈都の演技が個人で魅せられるほどのものではないだけかもしれない。その後ステージに上がった2年生の演技は、素人目に見ても一段上手だったし、ソロで演技を披露した先輩の動きは、しなやかさと力強さがあった。映画の曲に合わせた演技は、明らかにテーマに沿った振り付けになっていて、強く惹き込まれる。
「カッコイイねぇ。私にはとても出来そうにない」
 隣で笑う涼夏に、私はコクリと頷いた。奈都も後1年でここまで踊れるようになれたら大したものだ。ユナ高のバトン部はコンテストには出ないらしいが、最近やる気も上がって来たと言っていたし、そういうものにも挑戦してみたらどうだろう。
 演技が終わると、涼夏が首を振って嘆息した。
「ナッちゃんはバトン部だな。帰宅部でくだを巻くべき人間じゃない」
「私たちとは住む次元が違うね」
 絢音が同意するように頷く。昨日このステージを、たった3人で20分間独占していた子が、一体何を言っているのだろう。涼夏も絢音も、私から見たら十分すごい。つまり、帰宅部にふさわしい人間は、ただ一人、私だけだ。
「私は部長として、この3人で立派な帰宅部にする」
 力強くそう宣言すると、二人が私を見つめて肩を震わせた。
「立派な帰宅部って、何……?」
「千紗都、面白い……」
 二人が堪え切れないように、大きな笑い声を立てる。
 私もこの二人に負けないように何か始めたい。そう思う傍らで、みんなが帰宅部と言われて想像するような、わかりやすくだらだらする責務も感じる。程よく生きていけたらと思う。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...