ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

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第28話 クリスマス 2(1)

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 24日、クリスマスイブ。朝から厳しい冷え込みだったので、オシャレは諦めてなるべくもこもこした格好で外に出た。一応メイクはしてきたから、最低限人前に出られる容姿にはなっているだろう。
 今日はよく知らないアーティストの、クリスマスコンサートのスタッフのバイトをする。電車の中で、親愛なる部員たちからの応援メッセージに返事を送って、会場に着いたら休憩までスマホとはお別れだ。
 バイト自体は、いささかの緊張はあったが、大きなトラブルもなく無事に終わった。難しい仕事もなければ、重たいものを運ぶこともなかった。ただ、じっと立っていることが多くて、帰る頃には腰がひどく痛んだ。
 後は、仕事中にライブ客に2回ナンパされたのと、仕事の後に一緒に働いていた仲間からもナンパされたくらいだろうか。単発バイトは人間関係の後腐れがなくていいが、その分男子が積極的になっている気もする。
 もちろん、アルバイトは若者にとって、学校の次に異性と出会える場だし、そういう需要があることも知っている。女子の中にも、それを求めてバイトをしている子は多いようで、今日長く一緒にいた子もずっと男子の品定めをしていた。
 涼夏がバイトの話を聞きたがっていたので、その辺りのことは明日話すことにしよう。そう思いながらスマホを見ると、メッセージが大量に届いていた。ほとんどすべて帰宅部グループのものだったので、明日の時間や用意の話だろうと思って、未読のトップまで遡ると、思ったような内容ではなかった。発端はパーティーの立案者にして明日のホストである涼夏からで、どうやら明日一日出かける予定だった妹が、急遽家にいることになったらしい。
『妹がクリスマス直前に彼氏と別れたらしく、明日は家にいると言って聞かない。お姉ちゃんは激おこなんだけど、私のような素敵な柔軟性は持ち合わせてないようだ』
 状況報告しか書かれていないが、要するに明日予定通り涼夏の家でやるか、場所を変えるかということだろう。母親は仕事、妹はデートで一日留守にするとのことで、明日は涼夏の家でパーティーを開くことになっていた。私の家という案もあったのだが、明日は涼夏が鍋を振る舞ってくれることになっており、使い慣れた台所で料理したいと言って涼夏の家になった。
 ただ、それは家に誰もいない前提の上での選択だった。そういうことなら改めて私の家でも良かったが、メッセージを読んでいくと、「妹がいても構わない」という流れになっていた。
『私たちが騒いで迷惑じゃなかったら、別に妹がいても問題ないけど、どう?』
 奈都のメッセージのすぐ後に、まだ塾に行く前だったのか、絢音も返事を投稿していた。
『会ったこともあるし、妹さんの方が大丈夫なら、私は大丈夫』
 そういえば、すっかり忘れていたが、涼夏の誕生日会の時に、一瞬だけ妹と遭遇している。涼夏に似た可愛い子だった記憶しかないが、性格はどうだろう。恋愛が大好きで、誰もいない家に彼氏を連れ込んでいたという涼夏の情報により、少しネガティブなイメージが先行していたが、そんなに悪い子でもなさそうだった気がする。
『妹は大丈夫っていうか、文句は言わせないけど、なんか家族がいるとはしゃぎづらい』
『それはわかる。うちは男兄弟がいるからもっと無理。ナツは?』
『お母さんはいるかな。リビング常駐だから、鍋をする時に困るかも。チサの家は?』
『ナッちゃんの豪邸は気になるけど、初めましてでいきなり母上のいる目の前で台所を借りるのは気が引ける。部長の返事を待ってたら夜になるし、私もバイトがあるし、まあ二人がいいなら私の家でいっか』
『涼夏がいいなら問題なし。私もそろそろ出かける』
『私は塾はまだだから、もし千紗都から連絡があったら聞いてみるよ』
『任せた』
 そんなような内容で終わっていた。後は、奈都がクリスマス会の後に、涼夏がバイトの後にそれぞれメッセージを投稿しているが、『千紗都の気配を感じない』『生きてたらいいけど……』みたいな、他愛もない話だけだった。バイト中、休憩時間はあったのだが、ロッカーに戻るのが面倒だったのと、腰が痛くて揉んだりほぐしたりしていたら、結局スマホに触っている余裕がなかった。
『今バイト終わった。涼夏の家でいいよ。腰が痛いから、明日みんなで揉んで』
 とりあえずそう投下すると、すぐに既読が3になって返事が来た。
『お疲れ。念入りに揉むね』
『腰以外も揉むよ』
『千紗都を揉めるのなら、妹の部屋に外から鍵をかける』
 私を揉むのに、妹がいてはいけないのだろうか。不思議に思ったが、ひどく疲れていたので、とりあえず何もかも明日にすることにして、私はぐったりと電車のシートに体を預けた。
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