ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
81 / 381

第28話 クリスマス 2(2)

しおりを挟む
 クリスマス当日は、朝から雪のパラつく天気だった。積もりそうにはないが、一応初雪と呼んでいいのだろうか。クリスマスに初雪とはなかなか風流だ。ただし、とんでもなく寒い。
 服装は、昨日と同じもこもこダウンにした。昨日は帰ってすぐに寝たこともあってか、疲れも取れている。思ったより私の体は丈夫なようだ。戸締りを確認して家を出る。
 いつもなら最寄り駅が同じ奈都と合流していくのだが、今日は一人で電車に乗った。スーパーに寄って食材を買うためである。
 もちろん、一人でお遣いができるかを試されているわけではなく、今日のメインディッシュである鍋について、涼夏から事前にこうお達しがあったのだ。
「食材を一人3つか4つ買ってきて。他の人に知られないように。内緒で」
 みんなで材料を持ち寄って、それで鍋を作ろうということだ。闇鍋というと響きが怖いが、一応鍋に合いそうなものを選ぶことだけは、事前に取り決めた。美味しくないのは論外だと、元料理部の鍋奉行が事前に警告した。
 ちなみに、味付けは多数決により味噌になった。満場一致と言っていい。私たちは味噌で育ち、うどんだっておでんだってトンカツだって、なんでも味噌で食べるのだ。
 スーパーの袋を持って電車に乗りたくなかったので、買い物は涼夏の家の近くですることにした。スーパーなどほとんど使わないのでとても新鮮だ。文化祭の時に買い出しで入った以来だろうか。その前は遡っても記憶にない。
 さて、鍋の食材である。メインはやはり肉だろう。ぶっちゃけ、豚肉と鶏肉だけ買っていけば、みんなとかぶってもダメージは少ない。ただ、野菜がないのは味気ないし、メンバーの顔を思い浮かべると、野菜を買わない可能性はあっても、肉を買わない可能性は低そうだ。
 野菜は何がいいだろうか。ネギはあっても良さそうだ。豆腐もいい。豆腐は果たして野菜なのか。
 白菜は大勝利すぎて、全員買ってきて大変なことになりそうだ。ただ、みんなそう思って誰も買わない可能性もある。
 レタスやキャベツ、キュウリ、ほうれん草はきっと違うだろう。トマトはトマト鍋にでもするならともかく、味噌とは喧嘩しそうだ。
 キノコ類はどうだろう。椎茸、エノキ、シメジ、エリンギ、ナメコ、キクラゲ。この中ではやはりエノキだろうが、貴重な1つをエノキに使っていいのか。
 そういえば、シメはどうするのだろう。麺類だと思うが、うどんかラーメンか。焼きそばはラーメンに使えるのか好奇心が疼くが、涼夏に苦笑いされそうなので冒険はやめておこう。そう考えると、帰宅部は堅実な部員しかいない。性格的には涼夏が一番チャレンジしそうだが、食に関しては至って真面目だ。
 いや、元気で勢いがあってテキトーな印象を受けるが、元々4人の中では涼夏が一番ちゃんとしている。もしかしたら、私が変なものを買ってくることを期待されているのかもしれない。
 攻めた方がいいだろうか。味はよく知らないが、ルッコラとチンゲン菜なら、少し珍しい上、大きな失敗はないだろう。豚肉はさすがにバラ肉にしておいたが、全員買ってきそうな気がする。シメも無難にきしめんにしておいた。うどんかきしめんなら、きしめんの方がいいだろう。
 袋をぶら下げて涼夏のマンションのインターホンを鳴らすと、妹が出た。想定していなかったので声が裏返り、恥ずかしくなりながら涼夏の部屋のドアをノックする。迎えてくれたのは涼夏だった。
「ナッちゃんと喋ってたら、何故か妹に先を越された。意味がわからん積極性だ」
 涼夏が苦笑いを浮かべながらそう言った。奈都が先に来ているのは、グループメッセージで知っていた。私も約束した集合時間より早く着いたが、奈都がやたらと早く来た気持ちはわかる。4人の関係性を考えたら、一番最後は嫌だろう。
 挨拶しながら靴を脱ぐと、妹が顔を出して明るい表情をした。
「あっ、お姉ちゃん一推しの綺麗な人だ!」
「こんにちは」
 勢いに圧されつつ、余所行きの笑顔を浮かべる。涼夏は家で妹と私の話をしたりもするのだろうか。チラリと涼夏を見ると、こちらは微塵も笑わずに口を開いた。
「秋歩。誰かを褒めることは、誰かを貶すことにも繋がるから気を付けて」
「難しいことを言うなぁ」
 妹が首を傾げながら部屋に戻っていく。
 リビングに案内されると、くつろいでいた奈都が「メリクリー」とぞんざいに手を振った。リビングはツリーこそ無いが、壁にはペタペタとクリスマスっぽい飾りがたくさん貼られていて、クリスマス感満載である。相変わらずの女子力だ。
「食材、とりあえず冷蔵庫に入れておくよ」
 そう言いながら、涼夏が私のスーパーの袋を台所に持って行く。奈都は何を買ったのか聞いたら、答えようとした奈都を涼夏が遮った。
「絢音が来るまで内緒にしよう。ほんの数分の辛抱だ」
 絢音からも、少し前に後10分ほどで着くとメッセージが来ていた。ソファに転がって奈都に腰を揉んでもらっていると、インターホンが鳴って涼夏が出迎えた。
 絢音はエコバッグを涼夏に渡しながら、背負っていたギターを床に下ろした。いつものと形が違うようだったので聞くと、小さなアコースティックギターらしい。見せてもらうと、木の温かみのある小振りの可愛いギターだった。
「今日はアヤのリサイタルか。しかも無料!」
 奈都が大袈裟にそう言いながら、大仏のように指で丸を作った。絢音が「お金取ったことないよ」と、楽しそうに笑う。キッチンカウンターの向こうで、涼夏が一人で「なるほどなるほど」と呟きながら、みんなの食材をカウンターに並べた。手招きされて立ち上がると、涼夏が笑いながら手を広げた。
「これが今日のお鍋の材料です。まあ、うん、まあまあだね」
「なんだそりゃ」
 肉類は豚バラはかぶったが、他には鶏もも肉に出来合いのつみれ、そしてもつ。後ろの二つは考えもしなかったので感心した。
 野菜はまさかの白菜を買った人がおらず、ネギ、水菜、椎茸、糸こんにゃくに、私の買ったルッコラとチンゲン菜。後は焼き豆腐が二人分に油揚げ。シメは私のきしめんと中華麺。相談なしでこれは奇跡的なバランスではなかろうか。
「ルッコラはかぶらないね。味の想像はまったくできないけど」
「チサ、GJだよ。味は知らないけど」
 絢音と奈都が手を叩く。どうも褒められている気がしないのは、私の性格が悪いのだろうか。それにしても、こうして並べるとすごい量だ。
「多いな」
 涼夏が食材を見つめながら、苦笑いを浮かべた。一応、涼夏に言われて一つ一つは少なめにしたのだが、それにしても女子4人で食べ切れる量ではない。
「みんな、忘れるな。これにさらにケーキがある」
 涼夏が急に真顔で忠告して、みんなでくすっと笑った。
「まあ、余った食材は猪谷家で引き取ってくれたらいいよ。私は糸こんにゃくに何の未練もない」
 絢音がそう言って、私と奈都も頷いた。涼夏が食材を冷蔵庫に戻しながら言った。
「そうさせてもらうよ。まあ、いざとなったらケーキを諦めてもいいし」
「それはない」
 3人の声が綺麗に重なって、4人で顔を見合わせて笑った。私の人生初のクリスマスパーティーは、なかなか楽しくなりそうだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

処理中です...