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第28話 クリスマス 6(2)
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鍋は案の定、量が多くて、日持ちのする野菜は猪谷家に寄付することになった。シメもきしめんは重いからと、ラーメンになった。
丁度ラーメンを食べている最中に妹が帰って来て、リビングに顔を出してリップを買ってきたと報告した。涼夏が手招きをして、量的に食べられそうにないラーメンを妹に押し付ける。妹も大人しく食べていたので、あの喧嘩からまだそれほど時間は経っていないが、大丈夫なのだと私はほっと胸を撫で下ろした。
一人っ子なので、兄弟喧嘩などもちろんしたことがないし、その収め方もわからない。奈都と絢音が焦っていなかったのも、きっとあれくらいの喧嘩はよくするのだろう。
妹の買い物の話を聞きながらケーキを食べて、またしばらく4人で遊んでから、最後に絢音の伴奏でクリスマスソングを歌った。
涼夏が駅まで送ると言って、4人で外に出る。雪は止んでいたが、吐く息は真っ白で背筋が震えた。
「今日はすまんかったね。なんか、だいぶ私の思った会と違う感じになった」
別れ際に、涼夏がそう言って情けなく眉をゆがめた。絢音が不思議そうに首を傾げた。
「そう? 会話の内容はともかく、プログラムは予定通りでしょ」
「もっと肉体的な交流をする予定だった」
「いや、それ絶対に嘘でしょ!」
私が思わず声を上げると、涼夏と絢音がくすくすと笑って、奈都は顔を赤くして俯いた。
涼夏とハグをして別れて、3人で電車に乗る。絢音とも途中の駅で別れると、奈都が吊り革を握ってブラブラと体を揺らしながら言った。
「今日は楽しかった」
「そうだね。涼夏が怒ってた時はどうしようかと思ったけど。奈都は心配じゃなかったの?」
「別に。私が口を挟むことでもないし」
そっけなくそう言った奈都の横顔がひどく冷たく見えて、私は思わず息を呑んだ。奈都が慌てた様子で手を振った。
「いや、別に突き放してるとかじゃないよ? でもまあ、関係ないっていうか、興味がないっていうか……」
ごにょごにょと言い淀んで、奈都がしゅんと項垂れた。必死に言い繕ったようだが、何のフォローにもなっていなかったのが、いかにも奈都らしい。
「別に涼夏と妹の仲がどうなろうと、知ったこっちゃないって言った?」
「言ってないから!」
奈都が顔を赤くする。言ったと思うが、可哀想なのであまりいじめないであげよう。
最寄り駅に降り立つと、風が痛いくらい冷たかった。なんとなく明日も会う流れになっていたので、「また明日」と手を振ると、奈都がその手を取って軽く引いた。
「ちょっと、話をしよう」
「それ、明日じゃダメなの?」
「うん」
はっきりと頷いて、奈都が私の手を握ったまま歩き出す。何か深刻な話なのだろうかと思って、大人しくついて行くと、奈都は近くの公園に入ってベンチに座った。そして、そっとはにかんで軽く私の肩に頭を乗せた。
「なんか、もうちょっとチサと一緒にいたくて」
「えっ? それだけ? 明日、二人で遊ぶじゃん」
「チサはムードのかけらもない」
奈都がそう言いながら、ごそごそとカバンをあさった。まさか奈都の口からムードなどという単語が出るとは思わず、からかってやろうと思ったら、先に紙袋を突き付けられた。
「これ、プレゼント。個別に渡す分ね」
「あっ、うん。ありがとう」
呆然と受け取ると、紙袋は思ったよりも軽かった。開けると手袋が入っていた。無難だが可愛らしいチョイスだ。早速つけながら奈都の顔を覗き込む。
「私、買ってないけど」
「いいよ。私が勝手にチサのこと好きなだけだから」
「いや、私も好きだって!」
自虐的な笑みを浮かべる奈都を横から抱き締めると、子供にするように頬をすり寄せた。そのままなんとなくキスをすると、奈都が私の背中を引き寄せながら舌を絡めた。
凍ったように冷たい頬に、吐息が熱い。
しばらくキスをしてから顔を離すと、奈都が赤らんだ顔でぼーっと私を見つめていた。エロ可愛い。
「あのCDはどうかと思ったけど、この手袋はいいね」
「あれはギャグだよ。でも、いい曲があるかもしれないよ?」
「それは否定しないけど」
人の気配がなかったので、もう一度抱きしめ合ってキスをした。なんだか奈都が随分情熱的に舌を入れて来るが、どうしてこの子はこんなにも興奮しているのだろう。冷静に突っ込むと、たくさん揉んだからだと熱っぽく言った。
体があったまってきたので、顔を離して背もたれにもたれる。奈都が私に寄りかかりながら言った。
「今日は楽しかった。でも、去年みたいに二人で過ごすクリスマスもいいなって思って、ちょっとそういう時間が取りたかった」
去年は受験の真っ最中だったこともあって、二人でケーキを食べてささやかに過ごした。中2の時はぼっちで過ごしたこともあって、随分有り難かったのを覚えている。
「二人の時間を取って、することがキスなの?」
からかうように言うと、奈都が苦笑いを浮かべた。
「先にしたの、チサだと思うけど……」
そう言われるとそうだったかもしれない。プレゼントを用意していなかったので、キスでもしたら喜んでもらえるかと思ったが、冷静に考えるとやや上から目線な発想という気もする。
そっと腰を抱き寄せる。服が厚いので感触はわからない。今外気に触れているのは、顔だけだ。だから、触れ合える肌は顔しかない。
「奈都、愛してる」
至近距離で見つめると、奈都が驚いた顔で口をパクパクさせた。もう一度その口を塞いで、そっと囁いた。
「来年もよろしくね」
「いや、明日も遊ぶから!」
「良いお年を」
「遊ぶから!」
腕の中で喚いている奈都が可愛い。
若干のアクシデントもあったけれど、みんなのおかげでいいクリスマスになった。
今年も残り数日。その数日すら、無駄にすることなく全力で遊ぼう。寒さを忘れるほどキスをしながら、私は心の中でそう誓った。
丁度ラーメンを食べている最中に妹が帰って来て、リビングに顔を出してリップを買ってきたと報告した。涼夏が手招きをして、量的に食べられそうにないラーメンを妹に押し付ける。妹も大人しく食べていたので、あの喧嘩からまだそれほど時間は経っていないが、大丈夫なのだと私はほっと胸を撫で下ろした。
一人っ子なので、兄弟喧嘩などもちろんしたことがないし、その収め方もわからない。奈都と絢音が焦っていなかったのも、きっとあれくらいの喧嘩はよくするのだろう。
妹の買い物の話を聞きながらケーキを食べて、またしばらく4人で遊んでから、最後に絢音の伴奏でクリスマスソングを歌った。
涼夏が駅まで送ると言って、4人で外に出る。雪は止んでいたが、吐く息は真っ白で背筋が震えた。
「今日はすまんかったね。なんか、だいぶ私の思った会と違う感じになった」
別れ際に、涼夏がそう言って情けなく眉をゆがめた。絢音が不思議そうに首を傾げた。
「そう? 会話の内容はともかく、プログラムは予定通りでしょ」
「もっと肉体的な交流をする予定だった」
「いや、それ絶対に嘘でしょ!」
私が思わず声を上げると、涼夏と絢音がくすくすと笑って、奈都は顔を赤くして俯いた。
涼夏とハグをして別れて、3人で電車に乗る。絢音とも途中の駅で別れると、奈都が吊り革を握ってブラブラと体を揺らしながら言った。
「今日は楽しかった」
「そうだね。涼夏が怒ってた時はどうしようかと思ったけど。奈都は心配じゃなかったの?」
「別に。私が口を挟むことでもないし」
そっけなくそう言った奈都の横顔がひどく冷たく見えて、私は思わず息を呑んだ。奈都が慌てた様子で手を振った。
「いや、別に突き放してるとかじゃないよ? でもまあ、関係ないっていうか、興味がないっていうか……」
ごにょごにょと言い淀んで、奈都がしゅんと項垂れた。必死に言い繕ったようだが、何のフォローにもなっていなかったのが、いかにも奈都らしい。
「別に涼夏と妹の仲がどうなろうと、知ったこっちゃないって言った?」
「言ってないから!」
奈都が顔を赤くする。言ったと思うが、可哀想なのであまりいじめないであげよう。
最寄り駅に降り立つと、風が痛いくらい冷たかった。なんとなく明日も会う流れになっていたので、「また明日」と手を振ると、奈都がその手を取って軽く引いた。
「ちょっと、話をしよう」
「それ、明日じゃダメなの?」
「うん」
はっきりと頷いて、奈都が私の手を握ったまま歩き出す。何か深刻な話なのだろうかと思って、大人しくついて行くと、奈都は近くの公園に入ってベンチに座った。そして、そっとはにかんで軽く私の肩に頭を乗せた。
「なんか、もうちょっとチサと一緒にいたくて」
「えっ? それだけ? 明日、二人で遊ぶじゃん」
「チサはムードのかけらもない」
奈都がそう言いながら、ごそごそとカバンをあさった。まさか奈都の口からムードなどという単語が出るとは思わず、からかってやろうと思ったら、先に紙袋を突き付けられた。
「これ、プレゼント。個別に渡す分ね」
「あっ、うん。ありがとう」
呆然と受け取ると、紙袋は思ったよりも軽かった。開けると手袋が入っていた。無難だが可愛らしいチョイスだ。早速つけながら奈都の顔を覗き込む。
「私、買ってないけど」
「いいよ。私が勝手にチサのこと好きなだけだから」
「いや、私も好きだって!」
自虐的な笑みを浮かべる奈都を横から抱き締めると、子供にするように頬をすり寄せた。そのままなんとなくキスをすると、奈都が私の背中を引き寄せながら舌を絡めた。
凍ったように冷たい頬に、吐息が熱い。
しばらくキスをしてから顔を離すと、奈都が赤らんだ顔でぼーっと私を見つめていた。エロ可愛い。
「あのCDはどうかと思ったけど、この手袋はいいね」
「あれはギャグだよ。でも、いい曲があるかもしれないよ?」
「それは否定しないけど」
人の気配がなかったので、もう一度抱きしめ合ってキスをした。なんだか奈都が随分情熱的に舌を入れて来るが、どうしてこの子はこんなにも興奮しているのだろう。冷静に突っ込むと、たくさん揉んだからだと熱っぽく言った。
体があったまってきたので、顔を離して背もたれにもたれる。奈都が私に寄りかかりながら言った。
「今日は楽しかった。でも、去年みたいに二人で過ごすクリスマスもいいなって思って、ちょっとそういう時間が取りたかった」
去年は受験の真っ最中だったこともあって、二人でケーキを食べてささやかに過ごした。中2の時はぼっちで過ごしたこともあって、随分有り難かったのを覚えている。
「二人の時間を取って、することがキスなの?」
からかうように言うと、奈都が苦笑いを浮かべた。
「先にしたの、チサだと思うけど……」
そう言われるとそうだったかもしれない。プレゼントを用意していなかったので、キスでもしたら喜んでもらえるかと思ったが、冷静に考えるとやや上から目線な発想という気もする。
そっと腰を抱き寄せる。服が厚いので感触はわからない。今外気に触れているのは、顔だけだ。だから、触れ合える肌は顔しかない。
「奈都、愛してる」
至近距離で見つめると、奈都が驚いた顔で口をパクパクさせた。もう一度その口を塞いで、そっと囁いた。
「来年もよろしくね」
「いや、明日も遊ぶから!」
「良いお年を」
「遊ぶから!」
腕の中で喚いている奈都が可愛い。
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