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第34話 動画(1)
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※元々Kindle用の番外編として書いたものですが、最終話以降がこの話をベースにしているため、本編扱いにしました。
執筆順になっていないので、流れがおかしなところもあるかもしれませんが、ぬるくスルーしてください。
* * *
寒い日が続いている。吸い込む空気が冷たくて、誕生日に涼夏にもらったマフラーを鼻の高さまで引き上げた。
隣では、もこもこのコートを着た奈都が、眠そうに目を細めて歩いている。体のラインをなぞるように視線を落とすと、剥き出しの太ももが赤くなっていた。
もしバチンと手で叩いたら、きっと本気で怒られるだろう。もしかしたら、軽蔑されるかもしれない。
試したくてうずうずしていると、奈都がチラリと私を見てから、無言で一歩距離を置いた。私も無言でその距離を詰めて、逃がさないように手を握った。
そういえば、冬になってから、バトンが冷たいし、当たると痛いと奈都が嘆いていた。体育の時ですら体育館は凍えそうだし、想像に難くない。それでも毎日部活動に励んでいるから、奈都も他のバトン部員も偉いものだ。
それに比べて、我が帰宅部は今一つやる気のない毎日を送っている。絢音とはファミレスかファーストフード店で教科書を開き、涼夏とはショッピングセンターでくだを巻いている。
それは極めて平常運転なのだが、新しい何かに対する意欲や関心が失われている。冬眠中の生き物のように、静かにじっと暖かい春を待っている。
毎日アクティブに何かを追い求め続けた二学期と比べて、あまりにも怠惰だ。三学期の一日だって、二学期の一日と同じくらい大事なはずなのに、私も含めて全員、心のどこかで「冬はしょうがない」という甘えがある。
「私たちの目指したヴァルハラは、果たしてここだろうか」
厳かにそう呟くと、奈都が隣で小さく噴き出して、空いている方の手で顔を覆った。
「突然のヴァルハラ……。くく……あはははっ!」
「ヴァルハラってなんだっけ?」
「オーディンの居城じゃない?」
オーディンということは、北欧神話か。口をついて出たが、あながち間違った使い方でもないようである。
ともかく、動こう。こういう時こそ部長の私が発破をかけるべきだ。
強い責任感を胸に秘めて、早速お昼休みに親愛なる部員各位に話を切り出した。
「帰宅部の部長として、君たちに提案があります」
私の言葉に、涼夏と絢音は目を輝かせながら頷いた。実に好ましい反応だ。二人も今の状況は決して良いものではないと感じていたのだろう。
「帰宅部の活動として、改めて動画に挑戦したい」
三学期が始まってすぐ、涼夏と一緒に卓球の動画を撮ったが、恐ろしくつまらなかった。ただ、あれは卓球が先にあって、動画はおまけだった。そうではなく、映像作品を作ることに重きを置いて取り組んだらどうだろう。
一緒に卓球で失敗している涼夏が、私を見て可愛らしく微笑んだ。
「例えばどんな?」
「具体的には考えてないけど、YouTubeにチャンネルを作って公開できるような、まったく知らない他人の目を意識したものがいいかな」
ひとまずそこまでが、私が午前の授業中に考えたプランである。
動画自体は日常的に撮っているが、それでは作品にならないことがわかっている。テーマを絞り、自分のチャンネルと視聴者を意識することで、私たちの活動はさらなる進化を遂げるのだ。
「面白そうだし、何も反対はないけど、ちょっと意外かな」
「うん。千紗都はあんまり外に発信したいタイプじゃないと思った」
二人が口々にそう言って、反応を窺うように私の顔を覗き込んだ。
実際のところ、二人の言う通り、私はそんなにも自分を見せたいとか、知られたいという気持ちがない。むしろ涼夏と絢音と奈都の小さなコミュニティーの中で、ひっそり楽しく過ごせればそれで満足なのだが、私のパーソナリティーと部活動の方向性は別物である。
そう言うと、涼夏が否定するように首を横に振った。
「楽しめないことは無理にするべきじゃない」
「いや、別に自分が映るような動画を作るつもりはないし、楽しそうと思って提案してるよ?」
やりたくないことを自ら積極的にやるほど殊勝でも献身的でもない。そう伝えると、二人は安心したように笑った。
「じゃあ、午後の授業中にそれぞれ案を考えて、帰りに意見を出し合おう!」
「涼夏は授業をちゃんと受けて」
意気揚々と拳を掲げる涼夏にそう釘を刺すと、丁度昼休み終了の予鈴が鳴った。
執筆順になっていないので、流れがおかしなところもあるかもしれませんが、ぬるくスルーしてください。
* * *
寒い日が続いている。吸い込む空気が冷たくて、誕生日に涼夏にもらったマフラーを鼻の高さまで引き上げた。
隣では、もこもこのコートを着た奈都が、眠そうに目を細めて歩いている。体のラインをなぞるように視線を落とすと、剥き出しの太ももが赤くなっていた。
もしバチンと手で叩いたら、きっと本気で怒られるだろう。もしかしたら、軽蔑されるかもしれない。
試したくてうずうずしていると、奈都がチラリと私を見てから、無言で一歩距離を置いた。私も無言でその距離を詰めて、逃がさないように手を握った。
そういえば、冬になってから、バトンが冷たいし、当たると痛いと奈都が嘆いていた。体育の時ですら体育館は凍えそうだし、想像に難くない。それでも毎日部活動に励んでいるから、奈都も他のバトン部員も偉いものだ。
それに比べて、我が帰宅部は今一つやる気のない毎日を送っている。絢音とはファミレスかファーストフード店で教科書を開き、涼夏とはショッピングセンターでくだを巻いている。
それは極めて平常運転なのだが、新しい何かに対する意欲や関心が失われている。冬眠中の生き物のように、静かにじっと暖かい春を待っている。
毎日アクティブに何かを追い求め続けた二学期と比べて、あまりにも怠惰だ。三学期の一日だって、二学期の一日と同じくらい大事なはずなのに、私も含めて全員、心のどこかで「冬はしょうがない」という甘えがある。
「私たちの目指したヴァルハラは、果たしてここだろうか」
厳かにそう呟くと、奈都が隣で小さく噴き出して、空いている方の手で顔を覆った。
「突然のヴァルハラ……。くく……あはははっ!」
「ヴァルハラってなんだっけ?」
「オーディンの居城じゃない?」
オーディンということは、北欧神話か。口をついて出たが、あながち間違った使い方でもないようである。
ともかく、動こう。こういう時こそ部長の私が発破をかけるべきだ。
強い責任感を胸に秘めて、早速お昼休みに親愛なる部員各位に話を切り出した。
「帰宅部の部長として、君たちに提案があります」
私の言葉に、涼夏と絢音は目を輝かせながら頷いた。実に好ましい反応だ。二人も今の状況は決して良いものではないと感じていたのだろう。
「帰宅部の活動として、改めて動画に挑戦したい」
三学期が始まってすぐ、涼夏と一緒に卓球の動画を撮ったが、恐ろしくつまらなかった。ただ、あれは卓球が先にあって、動画はおまけだった。そうではなく、映像作品を作ることに重きを置いて取り組んだらどうだろう。
一緒に卓球で失敗している涼夏が、私を見て可愛らしく微笑んだ。
「例えばどんな?」
「具体的には考えてないけど、YouTubeにチャンネルを作って公開できるような、まったく知らない他人の目を意識したものがいいかな」
ひとまずそこまでが、私が午前の授業中に考えたプランである。
動画自体は日常的に撮っているが、それでは作品にならないことがわかっている。テーマを絞り、自分のチャンネルと視聴者を意識することで、私たちの活動はさらなる進化を遂げるのだ。
「面白そうだし、何も反対はないけど、ちょっと意外かな」
「うん。千紗都はあんまり外に発信したいタイプじゃないと思った」
二人が口々にそう言って、反応を窺うように私の顔を覗き込んだ。
実際のところ、二人の言う通り、私はそんなにも自分を見せたいとか、知られたいという気持ちがない。むしろ涼夏と絢音と奈都の小さなコミュニティーの中で、ひっそり楽しく過ごせればそれで満足なのだが、私のパーソナリティーと部活動の方向性は別物である。
そう言うと、涼夏が否定するように首を横に振った。
「楽しめないことは無理にするべきじゃない」
「いや、別に自分が映るような動画を作るつもりはないし、楽しそうと思って提案してるよ?」
やりたくないことを自ら積極的にやるほど殊勝でも献身的でもない。そう伝えると、二人は安心したように笑った。
「じゃあ、午後の授業中にそれぞれ案を考えて、帰りに意見を出し合おう!」
「涼夏は授業をちゃんと受けて」
意気揚々と拳を掲げる涼夏にそう釘を刺すと、丁度昼休み終了の予鈴が鳴った。
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