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第35話 デート(5)
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食事の後はショッピングを楽しんだ。もっとも、お金があまりないのでほとんど眺めていただけだが、可愛いクマのストラップがあったのでペアで買った。
今日は私が奈都の誕生日にあげたペアのブレスレットをつけているが、どんどんペアアイテムが増えていく。
「ペアルックにも挑戦したい!」
奈都が私のブレスレットに指を這わせながら目を輝かせた。
相変わらずデニムのパンツルックに、一応トップスはデザイン性のあるものを着ているが、似合っているかと言われたらどうだろう。メイクをしてきただけでも、少しずつオシャレに興味を持ち始めているようだが、まだまだこれからといったところか。
いや、いつも一緒にいる子がオシャレすぎるだけかもしれない。涼夏はもちろん、絢音も可愛いけれど幼過ぎず、派手だけれどけばけばしくない、センスの良い服を着ている。
奈都の服装を上から下まで眺めてから、何も言わずに歩き出すと、奈都が慌てた様子で私の手を取った。
「何か言って!」
「求められてないアドバイスはお節介と同じだって、死んだ友達が言ってた」
「誰も死んでないでしょ! 求めてるから! チサがペアルックしたくなる服を着るから!」
奈都が必死にすがり付く。随分と謙虚な姿勢だ。私は奈都の襟元を直しながら言った。
「なんだろう。デザインが大人すぎるのかなぁ」
「デートだし、一番オシャレそうなのを着てきた」
「ズボンと合ってない感じがする」
少し別の服も試してみたかったが、ここにある服は独特のものが多い。イタリアのテーマパークなのだから仕方ない。
今から恵坂に戻っても良かったが、それはまた別の日にして、今日はベイエリアデートを楽しもうと提案すると、奈都は嬉しそうに頷いた。
しばらく写真を撮ったりジュースを飲んだりしてから、ヴェネツィア村を後にしてプロムナードに戻った。そろそろ夕方だ。奈都がデートと言えば観覧車だと言うので、遊園地の方に歩く。
「それにしても、チサって可愛いよね。ペアルックにしても、私の方に合わせてもらわないと」
不意に奈都が私の服の袖をつまんでそう言った。先程からファッションの話が多い。奈都とはずっとそういう話をして来なかったので違和感はあるが、もちろん大歓迎だ。
「今なら奈都もスカートとか似合うと思うけど」
中学時代、短かった髪もだいぶ伸びた。さらっとした髪に指を滑らせると、奈都は恥ずかしそうに俯いた。
「スカートは、なんだか落ち着かない」
「毎日穿いてるじゃん」
「制服はまた別」
「制服ってペアルックだね。制服デートする?」
「そういうのじゃない。いや、制服デート自体はいいけど」
奈都がころころ表情を変えてから、釈然としないように眉をゆがめた。
太陽が西の地平に沈もうとしている。風が冷たくなってきて、奈都が寒そうに身を震わせた。
元々今日は三寒の日だったので、私は暖かい格好をしてきたが、奈都は若干薄着だ。首が温かいとだいぶ違うだろうと思い、静かに両手で首を掴むと、奈都が目を丸くして私の手を取った。
「何? 殺される?」
「奈都の首を温めてあげようと思って」
「人を絞め殺す職人みたいな動きだったよ?」
どんな職人だ。せっかくなので両手で首を撫で回すと、奈都がなんとも言えない顔で私を見つめた。
遊園地はすでに電飾が灯り、キラキラと光るスインガーやメリーゴーランドがグルグル回っていた。もちろん、観覧車も回っている。
特に列もなかったので、チケットを買うとすぐに観覧車の中に入った。ドアが閉められ、ゆっくりと動き出す。
「元々動いてるけどね」
自分の思考に声を出して突っ込むと、奈都が怪訝そうに首を傾げた。そんな奈都の隣に移動して、体を寄せると、奈都が裏返った声を上げた。
「な、何?」
「何って、恋人ごっこみたいなのがしたかったんじゃないの?」
観覧車に乗りたいと言うから、てっきりそうなのだと思ったが、もしかしたら単に夜景が見たかっただけなのだろうか。
至近距離でじっと見つめていると、奈都は恥ずかしそうに俯いてから、そっと私の肩を抱き寄せた。
奈都の体にもたれかかって、ゴンドラの窓から外を眺める。街の方は光が海のように広がり、海の方は高速道路の巨大な橋が綺麗だった。
奈都の腰に手を回して、うっとりした眼差しで奈都を見上げる。奈都はしばらく私を見つめてから、わかりやすく息を呑んで、瞳を閉じて顔を近付けた。
唇が触れ合う。柔らかな唇の感触を楽しんでから、舌を絡め合う。奈都が私の体を両腕で抱きしめて、荒い息を吐きながら私の口の中を舐め回した。息が苦しい。
「せっかくの観覧車なのに、外見なくていいの?」
いたずらっぽくそう言うと、奈都はキスをしたまま目を開けた。
数センチの距離で見つめ合う。奈都の向こう側に、焦点の合わない街明かりがぼんやりと見える。
「もったいない」
奈都が熱っぽく呟いた。何のことを言っているのかわからないが、奈都のしたいようにさせよう。
頂上付近までキスを続けて、奈都は顔を離して、私を抱きしめたまま外の景色に目をやった。温もりが気持ちいい。奈都の背中に手を這わせながら、私も奈都の肩越しに夜景を見つめる。
同じ場所にいながら違う景色を見ているのが、いかにも私たちらしいが、それもまたいいだろう。なんとなく服の中に手を入れて胸を揉むと、奈都が変な悲鳴を上げた。
ゆっくりとゴンドラが地上に近付く。最後にもう一度キスをして、二人きりの心地良い15分が終わった。
今日は私が奈都の誕生日にあげたペアのブレスレットをつけているが、どんどんペアアイテムが増えていく。
「ペアルックにも挑戦したい!」
奈都が私のブレスレットに指を這わせながら目を輝かせた。
相変わらずデニムのパンツルックに、一応トップスはデザイン性のあるものを着ているが、似合っているかと言われたらどうだろう。メイクをしてきただけでも、少しずつオシャレに興味を持ち始めているようだが、まだまだこれからといったところか。
いや、いつも一緒にいる子がオシャレすぎるだけかもしれない。涼夏はもちろん、絢音も可愛いけれど幼過ぎず、派手だけれどけばけばしくない、センスの良い服を着ている。
奈都の服装を上から下まで眺めてから、何も言わずに歩き出すと、奈都が慌てた様子で私の手を取った。
「何か言って!」
「求められてないアドバイスはお節介と同じだって、死んだ友達が言ってた」
「誰も死んでないでしょ! 求めてるから! チサがペアルックしたくなる服を着るから!」
奈都が必死にすがり付く。随分と謙虚な姿勢だ。私は奈都の襟元を直しながら言った。
「なんだろう。デザインが大人すぎるのかなぁ」
「デートだし、一番オシャレそうなのを着てきた」
「ズボンと合ってない感じがする」
少し別の服も試してみたかったが、ここにある服は独特のものが多い。イタリアのテーマパークなのだから仕方ない。
今から恵坂に戻っても良かったが、それはまた別の日にして、今日はベイエリアデートを楽しもうと提案すると、奈都は嬉しそうに頷いた。
しばらく写真を撮ったりジュースを飲んだりしてから、ヴェネツィア村を後にしてプロムナードに戻った。そろそろ夕方だ。奈都がデートと言えば観覧車だと言うので、遊園地の方に歩く。
「それにしても、チサって可愛いよね。ペアルックにしても、私の方に合わせてもらわないと」
不意に奈都が私の服の袖をつまんでそう言った。先程からファッションの話が多い。奈都とはずっとそういう話をして来なかったので違和感はあるが、もちろん大歓迎だ。
「今なら奈都もスカートとか似合うと思うけど」
中学時代、短かった髪もだいぶ伸びた。さらっとした髪に指を滑らせると、奈都は恥ずかしそうに俯いた。
「スカートは、なんだか落ち着かない」
「毎日穿いてるじゃん」
「制服はまた別」
「制服ってペアルックだね。制服デートする?」
「そういうのじゃない。いや、制服デート自体はいいけど」
奈都がころころ表情を変えてから、釈然としないように眉をゆがめた。
太陽が西の地平に沈もうとしている。風が冷たくなってきて、奈都が寒そうに身を震わせた。
元々今日は三寒の日だったので、私は暖かい格好をしてきたが、奈都は若干薄着だ。首が温かいとだいぶ違うだろうと思い、静かに両手で首を掴むと、奈都が目を丸くして私の手を取った。
「何? 殺される?」
「奈都の首を温めてあげようと思って」
「人を絞め殺す職人みたいな動きだったよ?」
どんな職人だ。せっかくなので両手で首を撫で回すと、奈都がなんとも言えない顔で私を見つめた。
遊園地はすでに電飾が灯り、キラキラと光るスインガーやメリーゴーランドがグルグル回っていた。もちろん、観覧車も回っている。
特に列もなかったので、チケットを買うとすぐに観覧車の中に入った。ドアが閉められ、ゆっくりと動き出す。
「元々動いてるけどね」
自分の思考に声を出して突っ込むと、奈都が怪訝そうに首を傾げた。そんな奈都の隣に移動して、体を寄せると、奈都が裏返った声を上げた。
「な、何?」
「何って、恋人ごっこみたいなのがしたかったんじゃないの?」
観覧車に乗りたいと言うから、てっきりそうなのだと思ったが、もしかしたら単に夜景が見たかっただけなのだろうか。
至近距離でじっと見つめていると、奈都は恥ずかしそうに俯いてから、そっと私の肩を抱き寄せた。
奈都の体にもたれかかって、ゴンドラの窓から外を眺める。街の方は光が海のように広がり、海の方は高速道路の巨大な橋が綺麗だった。
奈都の腰に手を回して、うっとりした眼差しで奈都を見上げる。奈都はしばらく私を見つめてから、わかりやすく息を呑んで、瞳を閉じて顔を近付けた。
唇が触れ合う。柔らかな唇の感触を楽しんでから、舌を絡め合う。奈都が私の体を両腕で抱きしめて、荒い息を吐きながら私の口の中を舐め回した。息が苦しい。
「せっかくの観覧車なのに、外見なくていいの?」
いたずらっぽくそう言うと、奈都はキスをしたまま目を開けた。
数センチの距離で見つめ合う。奈都の向こう側に、焦点の合わない街明かりがぼんやりと見える。
「もったいない」
奈都が熱っぽく呟いた。何のことを言っているのかわからないが、奈都のしたいようにさせよう。
頂上付近までキスを続けて、奈都は顔を離して、私を抱きしめたまま外の景色に目をやった。温もりが気持ちいい。奈都の背中に手を這わせながら、私も奈都の肩越しに夜景を見つめる。
同じ場所にいながら違う景色を見ているのが、いかにも私たちらしいが、それもまたいいだろう。なんとなく服の中に手を入れて胸を揉むと、奈都が変な悲鳴を上げた。
ゆっくりとゴンドラが地上に近付く。最後にもう一度キスをして、二人きりの心地良い15分が終わった。
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