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第49話 沖縄 6
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ホテルからゆいレールの最寄りの駅まで一キロほど、そこから国際通りまでさらにあるから、もし歩きだったらうんざりしていただろう。
「これは明日も自転車だね」
絢音が声を弾ませると、涼夏がそのつもりだと頷いた。
国際通りは人でごった返していた。自転車で走れなくもないが、店をじっくり見ようと思ったら邪魔かもしれない。ただ、県庁側から牧志駅まで、一・五キロもある。この人混みと気温の中往復したら大変そうだが、せっかくここまで自転車で頑張っているのに、ゆいレールで戻ってくるのももったいない。
「まあ、歩いて考えよう」
我らがリーダーが気楽にそう言って、通りを歩き始めた。奈都が微笑みながら私の隣に並ぶ。
「何か沖縄っぽい小物を、四人お揃いで買いたいね」
「奈都が女の子っぽいこと言ってる」
「前世の影響かも」
実にテキトーな返事をしながら、奈都がキョロキョロと辺りを見回す。国際通りには六百にも及ぶ店があるらしく、店の種類も様々だが、やはり食べ物屋と土産物屋が多そうだ。
首里石鹸なる美味しそうな泡を見たり、ブルーシールの前で写真を撮っているグループがいたので、後から真似して撮ってみたり、のんびりと通りの半ばくらいまで進んだところで、涼夏が沖縄料理の店を指差した。
「ご飯にしよう」
「いきなりだね。この店を目指してたの?」
なかなか大きな店だが、有名店なのだろうか。私の言葉に、涼夏は首を横に振った。
「全然。大きそうだし、お腹空いたし、大体どんな店があるかわかったから、頃合いかなって」
「涼夏が勢いで決めたことは、大抵いい感じになるから、私は賛成」
絢音がそう言って手を伸ばすと、奈都が「いい感じになるんだ」と困惑気味に呟いた。
入ってみると、通りに面した入口の印象よりさらに広く、丁度夕食時だったが待たずにテーブルに案内された。
定番のゴーヤチャンプルーから、ラフテーという豚肉の角煮、あぐーの餃子、何かわからない地魚の刺身、海ぶどう、もずくの天ぷら、沖縄塩焼きそばなど、いかにも沖縄っぽい料理を注文する。
明日の涼夏のプランを聞きながら待っていたら、テーブルに料理が並んだ。写真を撮ってから食べ始める。
「沖縄料理って、普段っていうか、全然食べないよね」
私が何気なくそう言うと、奈都が「そりゃ、そうじゃない?」と首を傾げた。
「でも、イタリア料理は食べるじゃん」
「ああ、そういうこと?」
「やっぱり食材じゃない? 沖縄料理って、調理法っていうより、沖縄の食材を使った料理って感じがする」
元料理部員がそう言いながら、何かわからない刺身を口の中に放り込んだ。この子が言うと説得力がある。そう言われると、中華やイタリアンは、食材よりも調理法という感じがする。
初めて食べるゴーヤチャンプルーは苦く、海ぶどうは不思議な食感がした。もずくの天ぷらは美味しかったが、塩気に口の中が渇いて、大量に水を飲んだ。まあ、今日は大量に汗をかいたので丁度いいだろう。
店を出ると、北の端までは行かずに県庁の方に引き返した。すでに二十時近かったし、涼夏のプランだと明日の夜も国際通りになりそうだ。今日頑張る必要はない。
ブルーシールのアイスを食べながら自転車に戻り、ホテルを目指す。ホテルにもレンタサイクルのステーションがあるが、四台分もないため、その手前のステーションに何台か返却して、最終的に宿泊ホテルのステーションも使って四台とも返却した。
返却も、ステーションに駐めて返却ボタンを押すと、恐らくGPSを使って返却が完了する。つくづく文明はヤバイ。
「じゃあ、明日は七時にバイキングね。夜更かしは明日の夜にして、今日は早く寝ようね」
これは部長命令だと告げると、絢音が可笑しそうに頬を緩めた。
「私とナツはたぶん早く寝るよ。だけど、千紗都と涼夏はどうかなぁ」
「寝るから。ねえ」
涼夏に同意を求めたが、涼夏はじっと私を見つめるだけで、口を開かなかった。その反応に、絢音が肩を震わせる。
「明日も暑いだろうし、寝不足は体調を崩す一番の原因だから」
そう念を押して、二人と別れて部屋に戻った。とにかくシャワーを浴びて、メイクを落として、歯さえ磨けばこっちのものだ。勢いで済ませて、バスルームを涼夏に譲ってベッドの上に転がった。
なんだかウミカジテラスにいたのが、随分前のような気がする。今日撮った写真を眺めていると、涼夏がバスルームから出てきて、全裸にバスタオルを首からかけた格好で私のベッドの端に座った。
「外にいると遅い時間って感じがするけど、ホテルに戻ると、まだ早い時間って感じがするね」
そう言いながら、涼夏が何の脈絡もなく私のお尻を撫でた。時計を見ると、まだ二十一時半で、いつもならもちろんまだ起きている時間である。
「まあそうだね。明日は四人で遊ぼう」
「修学旅行感ある」
「私は中学の修学旅行はずっと奈都にくっついてたから、みんなでワイワイしたとか全然ないし、今回の旅行もすごく新鮮」
「千紗都と一緒に色んな経験をしたいね。私も、飛行機も沖縄も初めてだし、言うほど何もしてない組」
私は友達的な理由で、涼夏は家庭的な理由で、お互い人より経験が少ない。
確か去年、絢音が私の色々な初体験の場に居合わせたいみたいなことを言っていた。絢音や奈都も、それほどたくさんの経験を積んでいるわけではない。このメンバーでこれからも色々なことに挑戦していきたいし、それこそが帰宅部の活動の原点である。
涼夏がパジャマを着て、「おやすみ」と言って隣のベッドに入った。旅行の時は大抵私と一緒に寝たがる涼夏にしては珍しい。
電気を消して部屋は真っ暗だ。少し目が慣れてくると、物の輪郭が見えるようになったので、置き上がって涼夏のベッドに潜り込んだ。
「えっ? なんだ? どうした?」
涼夏が慌てた声を上げる。包み込むように抱きしめると、温もりが心地良かった。エアコンが少し強いので、丁度いい熱さだ。
「いつもなら、ほっといても涼夏の方から来るのに、今日は来なかったから」
「部長命令でさっさと寝ろって」
「さっさと寝るけど?」
チェックインした時は汗と潮の香りがしていた涼夏も、今はいい匂いがする。しっかりと抱きしめてキスしていると、だんだん涼夏の鼻息が荒くなってきた。
「興奮してきた」
「いや、寝るから」
「明らかに寝かせないための行動に見える」
「気のせいだから。涼夏を抱いてると寝やすいことが、歴史的に証明されてる」
もちろん、絢音も奈都も気持ちいいが、二人ともわずかながら私より背が高く、やはり涼夏のサイズ感が丁度良い。それに、絢音は少し細いし、奈都は運動部員らしい逞しさがある。涼夏の柔らかさが良いのだと、キスをしながら囁くと、涼夏が時々喉を鳴らしながら、私の背中を強く引き寄せた。
「生殺しだ」
「何も殺してないから。っていうか、何がしたいの?」
「そう言われると困るけど」
私を仰向けに寝かせて、涼夏が横から抱き付きながら体中を撫で回した。首筋に顔を押し付けて舌を這わせる。犬か。
「千紗都、美味しい」
「ベッドを二人ずつで使ったら、明日、四人で寝れるね」
「千紗都……」
涼夏の手がするりと服の中に入って来る。まったく人の話を聞いていない。
しかしまあ、涼夏と奈都の組み合わせで寝るのは現実的ではないし、明日は絢音と同じ部屋という約束をしているので、それを変えるのも申し訳ない。
ちょっと落ち着きがないのが玉に瑕だが、涼夏の抱き心地は最高だ。毎度のごとく、飽きるまで好きにさせて、私は明日に備えて寝ることにした。
「これは明日も自転車だね」
絢音が声を弾ませると、涼夏がそのつもりだと頷いた。
国際通りは人でごった返していた。自転車で走れなくもないが、店をじっくり見ようと思ったら邪魔かもしれない。ただ、県庁側から牧志駅まで、一・五キロもある。この人混みと気温の中往復したら大変そうだが、せっかくここまで自転車で頑張っているのに、ゆいレールで戻ってくるのももったいない。
「まあ、歩いて考えよう」
我らがリーダーが気楽にそう言って、通りを歩き始めた。奈都が微笑みながら私の隣に並ぶ。
「何か沖縄っぽい小物を、四人お揃いで買いたいね」
「奈都が女の子っぽいこと言ってる」
「前世の影響かも」
実にテキトーな返事をしながら、奈都がキョロキョロと辺りを見回す。国際通りには六百にも及ぶ店があるらしく、店の種類も様々だが、やはり食べ物屋と土産物屋が多そうだ。
首里石鹸なる美味しそうな泡を見たり、ブルーシールの前で写真を撮っているグループがいたので、後から真似して撮ってみたり、のんびりと通りの半ばくらいまで進んだところで、涼夏が沖縄料理の店を指差した。
「ご飯にしよう」
「いきなりだね。この店を目指してたの?」
なかなか大きな店だが、有名店なのだろうか。私の言葉に、涼夏は首を横に振った。
「全然。大きそうだし、お腹空いたし、大体どんな店があるかわかったから、頃合いかなって」
「涼夏が勢いで決めたことは、大抵いい感じになるから、私は賛成」
絢音がそう言って手を伸ばすと、奈都が「いい感じになるんだ」と困惑気味に呟いた。
入ってみると、通りに面した入口の印象よりさらに広く、丁度夕食時だったが待たずにテーブルに案内された。
定番のゴーヤチャンプルーから、ラフテーという豚肉の角煮、あぐーの餃子、何かわからない地魚の刺身、海ぶどう、もずくの天ぷら、沖縄塩焼きそばなど、いかにも沖縄っぽい料理を注文する。
明日の涼夏のプランを聞きながら待っていたら、テーブルに料理が並んだ。写真を撮ってから食べ始める。
「沖縄料理って、普段っていうか、全然食べないよね」
私が何気なくそう言うと、奈都が「そりゃ、そうじゃない?」と首を傾げた。
「でも、イタリア料理は食べるじゃん」
「ああ、そういうこと?」
「やっぱり食材じゃない? 沖縄料理って、調理法っていうより、沖縄の食材を使った料理って感じがする」
元料理部員がそう言いながら、何かわからない刺身を口の中に放り込んだ。この子が言うと説得力がある。そう言われると、中華やイタリアンは、食材よりも調理法という感じがする。
初めて食べるゴーヤチャンプルーは苦く、海ぶどうは不思議な食感がした。もずくの天ぷらは美味しかったが、塩気に口の中が渇いて、大量に水を飲んだ。まあ、今日は大量に汗をかいたので丁度いいだろう。
店を出ると、北の端までは行かずに県庁の方に引き返した。すでに二十時近かったし、涼夏のプランだと明日の夜も国際通りになりそうだ。今日頑張る必要はない。
ブルーシールのアイスを食べながら自転車に戻り、ホテルを目指す。ホテルにもレンタサイクルのステーションがあるが、四台分もないため、その手前のステーションに何台か返却して、最終的に宿泊ホテルのステーションも使って四台とも返却した。
返却も、ステーションに駐めて返却ボタンを押すと、恐らくGPSを使って返却が完了する。つくづく文明はヤバイ。
「じゃあ、明日は七時にバイキングね。夜更かしは明日の夜にして、今日は早く寝ようね」
これは部長命令だと告げると、絢音が可笑しそうに頬を緩めた。
「私とナツはたぶん早く寝るよ。だけど、千紗都と涼夏はどうかなぁ」
「寝るから。ねえ」
涼夏に同意を求めたが、涼夏はじっと私を見つめるだけで、口を開かなかった。その反応に、絢音が肩を震わせる。
「明日も暑いだろうし、寝不足は体調を崩す一番の原因だから」
そう念を押して、二人と別れて部屋に戻った。とにかくシャワーを浴びて、メイクを落として、歯さえ磨けばこっちのものだ。勢いで済ませて、バスルームを涼夏に譲ってベッドの上に転がった。
なんだかウミカジテラスにいたのが、随分前のような気がする。今日撮った写真を眺めていると、涼夏がバスルームから出てきて、全裸にバスタオルを首からかけた格好で私のベッドの端に座った。
「外にいると遅い時間って感じがするけど、ホテルに戻ると、まだ早い時間って感じがするね」
そう言いながら、涼夏が何の脈絡もなく私のお尻を撫でた。時計を見ると、まだ二十一時半で、いつもならもちろんまだ起きている時間である。
「まあそうだね。明日は四人で遊ぼう」
「修学旅行感ある」
「私は中学の修学旅行はずっと奈都にくっついてたから、みんなでワイワイしたとか全然ないし、今回の旅行もすごく新鮮」
「千紗都と一緒に色んな経験をしたいね。私も、飛行機も沖縄も初めてだし、言うほど何もしてない組」
私は友達的な理由で、涼夏は家庭的な理由で、お互い人より経験が少ない。
確か去年、絢音が私の色々な初体験の場に居合わせたいみたいなことを言っていた。絢音や奈都も、それほどたくさんの経験を積んでいるわけではない。このメンバーでこれからも色々なことに挑戦していきたいし、それこそが帰宅部の活動の原点である。
涼夏がパジャマを着て、「おやすみ」と言って隣のベッドに入った。旅行の時は大抵私と一緒に寝たがる涼夏にしては珍しい。
電気を消して部屋は真っ暗だ。少し目が慣れてくると、物の輪郭が見えるようになったので、置き上がって涼夏のベッドに潜り込んだ。
「えっ? なんだ? どうした?」
涼夏が慌てた声を上げる。包み込むように抱きしめると、温もりが心地良かった。エアコンが少し強いので、丁度いい熱さだ。
「いつもなら、ほっといても涼夏の方から来るのに、今日は来なかったから」
「部長命令でさっさと寝ろって」
「さっさと寝るけど?」
チェックインした時は汗と潮の香りがしていた涼夏も、今はいい匂いがする。しっかりと抱きしめてキスしていると、だんだん涼夏の鼻息が荒くなってきた。
「興奮してきた」
「いや、寝るから」
「明らかに寝かせないための行動に見える」
「気のせいだから。涼夏を抱いてると寝やすいことが、歴史的に証明されてる」
もちろん、絢音も奈都も気持ちいいが、二人ともわずかながら私より背が高く、やはり涼夏のサイズ感が丁度良い。それに、絢音は少し細いし、奈都は運動部員らしい逞しさがある。涼夏の柔らかさが良いのだと、キスをしながら囁くと、涼夏が時々喉を鳴らしながら、私の背中を強く引き寄せた。
「生殺しだ」
「何も殺してないから。っていうか、何がしたいの?」
「そう言われると困るけど」
私を仰向けに寝かせて、涼夏が横から抱き付きながら体中を撫で回した。首筋に顔を押し付けて舌を這わせる。犬か。
「千紗都、美味しい」
「ベッドを二人ずつで使ったら、明日、四人で寝れるね」
「千紗都……」
涼夏の手がするりと服の中に入って来る。まったく人の話を聞いていない。
しかしまあ、涼夏と奈都の組み合わせで寝るのは現実的ではないし、明日は絢音と同じ部屋という約束をしているので、それを変えるのも申し訳ない。
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