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第52話 怪談(4)
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自分の番が終わったので、後は気楽である。未成年じゃなければビールの一杯でも飲みたくなるであろう達成感だが、生憎まだ高校生だ。
大人になったらカクテルとか作るのも面白そうだと思っているが、一度飲んでみないとわからない。微笑みを浮かべて眺めていると、絢音が呆れたように言った。
「とてもこれから怪談を聞くって顔じゃないね」
「期待してるよ? オチを」
「オチない。じゃあ、私の塾であった話をするね。タイトルは『悲劇の五人』」
「紙芝居っぽい始まりだ」
奈都が興味深そうにそう言ったが、果たしてこの子は紙芝居を見たことがあるのだろうか。私が奈都の横顔を見つめていると、絢音が一段声のトーンを落として話し始めた。
「あの悲劇から数日経って、塾も表面上は平静を取り戻したかのようだった」
「待って。どの悲劇? 一人の悲劇はもう終わっちゃったの?」
慌てたように涼夏が口を挟む。確かに、みんなが知っている事実か、前回の続きみたいなノリで始まった。絢音が神妙な顔つきで頷いた。
「塾に通ってた女の子が、用水路に落ちて溺死しちゃったの」
「事件? 事故?」
「事件と事故の両面で捜査してるね。落ちるような場所じゃない上、出られないように蓋をされてたけど、多分事故だと思う」
「いや、どう考えても事件だから」
私が冷静に突っ込むと、絢音は真顔で頷いて続けた。
「やっぱり知ってる顔が突然いなくなるのは寂しいし、不可解な死だけに怖いよね。でも、日常を取り戻そうと、みんな気持ちを奮い立たせてたら、次の悲劇が起きた。別の子が屋上から飛び降りて死んじゃったの」
「後追いだね。一人目の子と友達だったのかな」
奈都が悲しそうに眉をゆがめた。実にポジティブな解釈だ。
「二人は特に友達ってわけじゃなかったね。不可解な事件が続いて、名探偵の絢音さんは、ある一つの事実に気が付いた」
「それは?」
「二人は塾で成績トップの子と2位の子だったの!」
「うわー、誰でも気付きそう」
涼夏が棒読みでそう言って、私は思わず笑いながら尋ねた。
「名探偵は何位なの?」
「6位だね。でも、2人いなくなって4位になった」
犯人はコイツだなと思ったが、推理小説の途中で真相を言うのは野暮というものだ。
続きを促すと、絢音が三人目の悲劇の話を始めた。
「塾の模試の少し前だったかな。学年3位、今や1位になった子が塾に来なくなったの。行方不明になって、捜索願いが出されたって」
「今頃海か森だな」
涼夏が自信たっぷりに頷いた。奈都が拉致の可能性を訴える。
「オスマン帝国に連れ去られたとか」
有り得ない国名を挙げたのは、具体的な国を言うのを避けたのだろうか。言うまでもないが、オスマン帝国はとっくの昔に消滅している。
「悲劇が続くね」
私が同調するようにそう言うと、絢音が切ないため息をついた。
「偶然って重なるよね」
「偶然。偶然ね」
苦笑いを浮かべながら悲劇の連鎖は止まったのか聞くと、絢音は静かに首を振った。
「学年4位の子、今や1位になった子が、塾を辞めちゃった。どう考えても次は自分だって思ったんだろうね。頭のいい子だったから、成績上位者から順番にいなくなってることに気が付いたんだと思う」
絢音が深刻そうにそう言うと、涼夏が「頭の悪い私でも気付く」と笑った。絢音が静かに首を振る。
「それは頭がいいんだよ。新しく1位になった子と怖いねって話してたら、模試の直前にまた悲劇が起きたの」
「とうとうタイトルを回収する日が来た」
「そう。学年5位の子、今や1位になった子が警察に連れて行かれたの」
「犯人じゃん!」
3人の声が綺麗に重なって、絢音がもはやドヤ顔と言っていいくらい満足そうに微笑んだ。
「こうして悲劇は終わりを告げ、次の模試で絢音さんは1位になりました」
「うわー。真犯人はコイツっぽい」
涼夏が低い声でそう言うと、奈都が同意するように首を縦に振った。絢音ならやりかねない。そういう負の信頼感が、この子にはある。
結局オチたじゃんとからかうと、絢音はとても悲しそうに涙を拭う真似をした。
「知り合いが5人もいなくなって、とても悲しいよ」
「冷静に1位を取る絢音が怖い」
「絶対真犯人。私にはわかる」
しばらくいかに絢音が怪しいか話していたが、絢音はずっとにこにこしながら聞いていた。果たしてホラーだったかはわからないが、なかなか良いオチだった。
大人になったらカクテルとか作るのも面白そうだと思っているが、一度飲んでみないとわからない。微笑みを浮かべて眺めていると、絢音が呆れたように言った。
「とてもこれから怪談を聞くって顔じゃないね」
「期待してるよ? オチを」
「オチない。じゃあ、私の塾であった話をするね。タイトルは『悲劇の五人』」
「紙芝居っぽい始まりだ」
奈都が興味深そうにそう言ったが、果たしてこの子は紙芝居を見たことがあるのだろうか。私が奈都の横顔を見つめていると、絢音が一段声のトーンを落として話し始めた。
「あの悲劇から数日経って、塾も表面上は平静を取り戻したかのようだった」
「待って。どの悲劇? 一人の悲劇はもう終わっちゃったの?」
慌てたように涼夏が口を挟む。確かに、みんなが知っている事実か、前回の続きみたいなノリで始まった。絢音が神妙な顔つきで頷いた。
「塾に通ってた女の子が、用水路に落ちて溺死しちゃったの」
「事件? 事故?」
「事件と事故の両面で捜査してるね。落ちるような場所じゃない上、出られないように蓋をされてたけど、多分事故だと思う」
「いや、どう考えても事件だから」
私が冷静に突っ込むと、絢音は真顔で頷いて続けた。
「やっぱり知ってる顔が突然いなくなるのは寂しいし、不可解な死だけに怖いよね。でも、日常を取り戻そうと、みんな気持ちを奮い立たせてたら、次の悲劇が起きた。別の子が屋上から飛び降りて死んじゃったの」
「後追いだね。一人目の子と友達だったのかな」
奈都が悲しそうに眉をゆがめた。実にポジティブな解釈だ。
「二人は特に友達ってわけじゃなかったね。不可解な事件が続いて、名探偵の絢音さんは、ある一つの事実に気が付いた」
「それは?」
「二人は塾で成績トップの子と2位の子だったの!」
「うわー、誰でも気付きそう」
涼夏が棒読みでそう言って、私は思わず笑いながら尋ねた。
「名探偵は何位なの?」
「6位だね。でも、2人いなくなって4位になった」
犯人はコイツだなと思ったが、推理小説の途中で真相を言うのは野暮というものだ。
続きを促すと、絢音が三人目の悲劇の話を始めた。
「塾の模試の少し前だったかな。学年3位、今や1位になった子が塾に来なくなったの。行方不明になって、捜索願いが出されたって」
「今頃海か森だな」
涼夏が自信たっぷりに頷いた。奈都が拉致の可能性を訴える。
「オスマン帝国に連れ去られたとか」
有り得ない国名を挙げたのは、具体的な国を言うのを避けたのだろうか。言うまでもないが、オスマン帝国はとっくの昔に消滅している。
「悲劇が続くね」
私が同調するようにそう言うと、絢音が切ないため息をついた。
「偶然って重なるよね」
「偶然。偶然ね」
苦笑いを浮かべながら悲劇の連鎖は止まったのか聞くと、絢音は静かに首を振った。
「学年4位の子、今や1位になった子が、塾を辞めちゃった。どう考えても次は自分だって思ったんだろうね。頭のいい子だったから、成績上位者から順番にいなくなってることに気が付いたんだと思う」
絢音が深刻そうにそう言うと、涼夏が「頭の悪い私でも気付く」と笑った。絢音が静かに首を振る。
「それは頭がいいんだよ。新しく1位になった子と怖いねって話してたら、模試の直前にまた悲劇が起きたの」
「とうとうタイトルを回収する日が来た」
「そう。学年5位の子、今や1位になった子が警察に連れて行かれたの」
「犯人じゃん!」
3人の声が綺麗に重なって、絢音がもはやドヤ顔と言っていいくらい満足そうに微笑んだ。
「こうして悲劇は終わりを告げ、次の模試で絢音さんは1位になりました」
「うわー。真犯人はコイツっぽい」
涼夏が低い声でそう言うと、奈都が同意するように首を縦に振った。絢音ならやりかねない。そういう負の信頼感が、この子にはある。
結局オチたじゃんとからかうと、絢音はとても悲しそうに涙を拭う真似をした。
「知り合いが5人もいなくなって、とても悲しいよ」
「冷静に1位を取る絢音が怖い」
「絶対真犯人。私にはわかる」
しばらくいかに絢音が怪しいか話していたが、絢音はずっとにこにこしながら聞いていた。果たしてホラーだったかはわからないが、なかなか良いオチだった。
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