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第52話 怪談(6)
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夏の夜はまだまだ暑い。もう数日で9月だが、しばらく寝苦しい夜が続きそうだ。
涼夏の家からの帰り道を、奈都と二人で歩いている。絢音は泊まっていきたい、涼夏と寝たいと必死に訴えた結果、承諾された。そういうことなら私としてもお泊まり会に変更したかったが、ベッドは一つしかないし、私は明日バイトがある。奈都も連勤だ。
「今日は楽しかったね。夕方からでも、結構遊べるね。焼きそば美味しかったし」
奈都が明るい声でそう言いながら、私の手をギュッと握った。
「怪談っていうか、漫才みたいだったね。奈都のは怖かったけど」
「そう言ってもらえたら、頑張って考えた甲斐があるよ」
「やっぱり実体験が一番怖い」
私が怯えながらそう言うと、奈都がわかりやすく声を大きくした。
「実体験じゃないから!」
「どこまでが作り話だったの?」
「全部! 初期設定以外!」
ドールも買ってないし、録音もしてないし、髪の毛を集めてもいないと、奈都は慌てた様子で言った。その後、不満げに唇を尖らせる。
「アヤの話と同じレベルで、明らかに作り話だったよね?」
「涼夏の話より本当っぽかったけど」
「そんなわけないでしょ。チサの話は普通だったね」
奈都が自分の話はもういいと言わんばかりに話題を振ってきた。私としては、もう少しバラバラにされたドールの話がしたかったが、一旦脱線しよう。
「一番王道だったでしょ? 怪談って、お化けとか幽霊とか出てくるものじゃないの?」
「確かに、怪しい話であって、怖い話じゃないね」
「奈都の話は怪談的な怖さがあったよ。話してる時、ずっと笑ってるのも怖かった」
声の抑揚も表情も完璧だった。私も喋り方一つで、もう少し怖い話に出来たかもしれない。
奈都が満足そうに笑った。
「猟奇的なキャラを演じてたから、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「素だったね」
「違うから!」
反応が可愛い。それにしても、ああいう話を思い付く時点でなかなか普通ではないと思うが、奈都は様々なフィクションによるインプットが多いから、引き出しの幅が広いのだろう。そうだと思いたい。
「猟奇的な奈都も可愛いよ。嘘。言ってて無理があった」
「可愛くなくていいよ。別に猟奇的じゃないし」
「中学時代の奈都が知れて良かった」
「今日は私のことは何も話してない」
にわかには信じ難いが、まあそういうことにしておこう。
しきりにチューとおっぱいの話をしていたので、最寄り駅で降りると人気のない場所に連れ込んでキスをした。薄着なので押し付けられる肉感が生々しい。
「おっぱい触りたいの?」
髪に手を這わせて、舌を絡めながら吐息だけで聞いてみた。奈都は譫言のようにうんと頷いた。
「じゃあ、帰ったらチサ2のおっぱいたくさん揉んであげてね」
「それもう、可燃ゴミで捨てたから」
「凄惨な殺人事件の様相」
呆れながらそう言うと、許可していないのに奈都が私の胸に指を埋めた。荒い息が顔にかかって汗ばんでくる。
だんだんここが外であることを忘れたように興奮してきたので、適当なところでやめさせて体を離した。奈都がうっとりした目で私を見つめる。唾液で湿った唇が艶かしい。
「幸せ。所詮、チサ2は人形だった」
「単純な人だ。飽きられないように、揉ませるのは3回に1回くらいにしよう」
ずれたブラジャーを直しながらそう告げると、奈都が悲鳴を上げた。
「飽きないから。大丈夫。日課にしてもいい」
「自分の胸と感触変わらないでしょ」
「誰のものかが大事なの! チサも大人になればわかるから!」
奈都が必死に訴えるが、生憎何年経ってもわからない気がする。3人のことは大好きだが、胸を揉みたいとは全然思わない。
奈都とはまた明日も会うので、遅くならない内に切り上げた。
夏と言えば怪談。去年は一文字もそんな話は出なかったし、大して好きなジャンルでもないが、今日は楽しかった。苦手と思っているものでも、帰宅部でやればまた違ったふうに感じるかも知れない。
秋に向けて、私もさらにアンテナを広く張ろう。世の中にはまだ、面白いことがたくさんあるはずだ。
涼夏の家からの帰り道を、奈都と二人で歩いている。絢音は泊まっていきたい、涼夏と寝たいと必死に訴えた結果、承諾された。そういうことなら私としてもお泊まり会に変更したかったが、ベッドは一つしかないし、私は明日バイトがある。奈都も連勤だ。
「今日は楽しかったね。夕方からでも、結構遊べるね。焼きそば美味しかったし」
奈都が明るい声でそう言いながら、私の手をギュッと握った。
「怪談っていうか、漫才みたいだったね。奈都のは怖かったけど」
「そう言ってもらえたら、頑張って考えた甲斐があるよ」
「やっぱり実体験が一番怖い」
私が怯えながらそう言うと、奈都がわかりやすく声を大きくした。
「実体験じゃないから!」
「どこまでが作り話だったの?」
「全部! 初期設定以外!」
ドールも買ってないし、録音もしてないし、髪の毛を集めてもいないと、奈都は慌てた様子で言った。その後、不満げに唇を尖らせる。
「アヤの話と同じレベルで、明らかに作り話だったよね?」
「涼夏の話より本当っぽかったけど」
「そんなわけないでしょ。チサの話は普通だったね」
奈都が自分の話はもういいと言わんばかりに話題を振ってきた。私としては、もう少しバラバラにされたドールの話がしたかったが、一旦脱線しよう。
「一番王道だったでしょ? 怪談って、お化けとか幽霊とか出てくるものじゃないの?」
「確かに、怪しい話であって、怖い話じゃないね」
「奈都の話は怪談的な怖さがあったよ。話してる時、ずっと笑ってるのも怖かった」
声の抑揚も表情も完璧だった。私も喋り方一つで、もう少し怖い話に出来たかもしれない。
奈都が満足そうに笑った。
「猟奇的なキャラを演じてたから、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「素だったね」
「違うから!」
反応が可愛い。それにしても、ああいう話を思い付く時点でなかなか普通ではないと思うが、奈都は様々なフィクションによるインプットが多いから、引き出しの幅が広いのだろう。そうだと思いたい。
「猟奇的な奈都も可愛いよ。嘘。言ってて無理があった」
「可愛くなくていいよ。別に猟奇的じゃないし」
「中学時代の奈都が知れて良かった」
「今日は私のことは何も話してない」
にわかには信じ難いが、まあそういうことにしておこう。
しきりにチューとおっぱいの話をしていたので、最寄り駅で降りると人気のない場所に連れ込んでキスをした。薄着なので押し付けられる肉感が生々しい。
「おっぱい触りたいの?」
髪に手を這わせて、舌を絡めながら吐息だけで聞いてみた。奈都は譫言のようにうんと頷いた。
「じゃあ、帰ったらチサ2のおっぱいたくさん揉んであげてね」
「それもう、可燃ゴミで捨てたから」
「凄惨な殺人事件の様相」
呆れながらそう言うと、許可していないのに奈都が私の胸に指を埋めた。荒い息が顔にかかって汗ばんでくる。
だんだんここが外であることを忘れたように興奮してきたので、適当なところでやめさせて体を離した。奈都がうっとりした目で私を見つめる。唾液で湿った唇が艶かしい。
「幸せ。所詮、チサ2は人形だった」
「単純な人だ。飽きられないように、揉ませるのは3回に1回くらいにしよう」
ずれたブラジャーを直しながらそう告げると、奈都が悲鳴を上げた。
「飽きないから。大丈夫。日課にしてもいい」
「自分の胸と感触変わらないでしょ」
「誰のものかが大事なの! チサも大人になればわかるから!」
奈都が必死に訴えるが、生憎何年経ってもわからない気がする。3人のことは大好きだが、胸を揉みたいとは全然思わない。
奈都とはまた明日も会うので、遅くならない内に切り上げた。
夏と言えば怪談。去年は一文字もそんな話は出なかったし、大して好きなジャンルでもないが、今日は楽しかった。苦手と思っているものでも、帰宅部でやればまた違ったふうに感じるかも知れない。
秋に向けて、私もさらにアンテナを広く張ろう。世の中にはまだ、面白いことがたくさんあるはずだ。
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