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第54話 文化祭2 6(1)
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私が糸織から川波君のことをどう思っているか聞かれた話は、絢音にはもちろん、奈都にもすぐに展開した。私しか知らないことを何でも友達に話すつもりはないが、少なくとも涼夏が知っていることは、絢音と奈都にも知っておいてほしい。3人の中で知っている情報が異なるという状況は、人間レベルの低い私には難しすぎる。
奈都は私の話を聞くと、何故か得意げに笑った。
「チサが男子が苦手で、基本的には女友達のことも信用してないっていうのは、私とアヤと涼夏しか知らない情報なんだね?」
「そんなどうでもいいことに優越感を覚えないで」
幼稚すぎてため息が出るが、奈都とはお子様同盟を結んでいるので許容しよう。この子は私の特別であることが嬉しくて、そういう気持ちは私にも少なからずある。
「でも、男子からの好意が迷惑っていうのは、いかにもモテる人間の発言だね。理解はできるけど、あんまり言わない方がいい」
奈都が苦笑いを浮かべてそう忠告した。奈都から恋愛の指南を受けるというのはなかなか興味深い。高校に上がり、何度か告白される内に、奈都にも恋愛の知識がついたのだろう。
「『フォアグラ飽きた』と同じ感じ?」
「それはとてもいい喩えだね」
奈都が明るく笑って私の手を引いた。
今の話は情報共有であって、別に恋愛トークがしたいわけではない。すぐに文化祭の話に戻すと、奈都がそう言えばと指を立てた。
「今年の前夜祭は一緒に見るから」
「あー、涼夏と見るからちょっと……。ごめんね」
「3人でいいでしょ!」
私が申し訳なさそうに手を合わせると、奈都がわかりやすく声を大きくした。
去年友達が捕まらずに川波君と見たことで、涼夏はだいぶ前から前夜祭を含む文化祭期間中、バイトの休みを申請したらしい。
もし奈都も同じ理由で私のことが心配なだけなら、涼夏がいるから問題ないという意味だったが、どうやら普通に私と過ごしたいようだ。
絢音は去年同様、塾はないがバンド仲間と過ごすらしい。涼夏に任せたと言っていたが、感覚や経験を共有しているのだろうか。私はどれだけ涼夏といても絢音分は満たされないので、文化祭が終わったら1時間チャレンジを3セットくらいお願いしたい。
今年は川波君から前夜祭のお誘いはなかった。早い段階で涼夏が牽制していたせいかもしれないし、もしかしたら糸織が誘ってそれにOKしたのかもしれない。一応友達として、糸織の恋は実ってほしい。
そんな話を帰宅部でしたら、絢音が「そうしたらまた3人だけになれるね」と笑っていた。そこまで薄情ではないが、糸織が一緒だとスキンシップが減るのは確かなので、また1年の頃のような帰宅部が恋しい気持ちはある。
前夜祭までの最後の一週間、実行委員はひたすら当日のシフト作りに勤しみ、クラスメイトには内装や小物作りを頑張ってもらった。景品はすでに揃い、文房具からアクセサリー、キーホルダー、お菓子、インテリア小物、コスメ、スマホグッズといった、多彩なラインナップになった。
若干女子寄りなのは、川波君と岩崎君が大して欲しいものがないと言ったのと、笹部君が男子はチップが尽きるまで遊ぶと断言したことによる。遊び続けるというのは私たち帰宅部でも同じ結論に至ったので、一理あるかもしれない。
事前の準備が整うと、みんなでディーラー役とお客さん役を入れ替えて当日の流れを確認した。ちなみに、全員がディーラーをやるわけではなく、私もやらないメンバーの一人である。涼夏と絢音は積極的にやりたがり、他にもそういう人が何人もいたので、やりたくない人がやるような事態にはならなかった。
シフトは相変わらず一筋縄では決まらなかったが、私は常に涼夏と絢音と一緒にいられるようになった。なったというか、実行委員特権で勝手にそうしたのだが、さすがに一部からズルいと言われ、涼夏に適当になだめてもらった。
結構他の人たちも希望通りにしたはずなのに、どうしてそんな声が出るのかと愚痴を零すと、絢音が可笑しそうに言った。
「涼夏狙いの男子とか千紗都狙いの男子がいて、二人がずっと一緒にいると声がかけられないとか」
「千紗都といられなくても、男子とは回らんぞ?」
「まあ、私たちはそれをわかってるけど、一人で暇してたらもしかしたらって思うのは不思議じゃない。去年、男子と前夜祭見た人もいるし」
絢音が何やら目で訴えてきて、私は小さくため息をついた。
「それ、ずっと言われるの?」
「嫌なら言わないけど、あの話それなりに広まってて、千紗都とはワンチャンあるって思ってる男の子が結構いるんだよ。私も時々千紗都を紹介してって言われる」
絢音がやれやれと首を振って、私は思わず涼夏と顔を見合わせた。
「絢音、そんな面倒くさいことに対応してくれてるの?」
「そうだね。涼夏もだよ。紹介どころか、二人に声をかけたかったら、むしろ私を倒してから行けって突っぱねてるけど」
「うわぁ。それはなんかごめんだ」
あまりそういう迷惑を友達にかけたくなかったが、こればかりは止めようがない。絢音が楽しそうに対応してくれているのがせめてもの救いだ。
涼夏もガッカリしたように息を吐きながら、「直接言ってこいって」とぼやいた。別のコミュニティーの相手にならわかるが、同じクラスにいるのだから、絢音に声をかけれるなら、直接言ってこいというのはわかる。
「私としては、この人猪谷組なんだとか、色々わかって面白いけど。むしろ全部私を通して」
「マネージャーか!」
涼夏にも突っ込まれて、絢音がくすくすと笑った。本当に大丈夫そうなので良かったが、出来れば友達は巻き込まないで欲しいし、私のこともそっとしておいてくれたら嬉しい。
奈都は私の話を聞くと、何故か得意げに笑った。
「チサが男子が苦手で、基本的には女友達のことも信用してないっていうのは、私とアヤと涼夏しか知らない情報なんだね?」
「そんなどうでもいいことに優越感を覚えないで」
幼稚すぎてため息が出るが、奈都とはお子様同盟を結んでいるので許容しよう。この子は私の特別であることが嬉しくて、そういう気持ちは私にも少なからずある。
「でも、男子からの好意が迷惑っていうのは、いかにもモテる人間の発言だね。理解はできるけど、あんまり言わない方がいい」
奈都が苦笑いを浮かべてそう忠告した。奈都から恋愛の指南を受けるというのはなかなか興味深い。高校に上がり、何度か告白される内に、奈都にも恋愛の知識がついたのだろう。
「『フォアグラ飽きた』と同じ感じ?」
「それはとてもいい喩えだね」
奈都が明るく笑って私の手を引いた。
今の話は情報共有であって、別に恋愛トークがしたいわけではない。すぐに文化祭の話に戻すと、奈都がそう言えばと指を立てた。
「今年の前夜祭は一緒に見るから」
「あー、涼夏と見るからちょっと……。ごめんね」
「3人でいいでしょ!」
私が申し訳なさそうに手を合わせると、奈都がわかりやすく声を大きくした。
去年友達が捕まらずに川波君と見たことで、涼夏はだいぶ前から前夜祭を含む文化祭期間中、バイトの休みを申請したらしい。
もし奈都も同じ理由で私のことが心配なだけなら、涼夏がいるから問題ないという意味だったが、どうやら普通に私と過ごしたいようだ。
絢音は去年同様、塾はないがバンド仲間と過ごすらしい。涼夏に任せたと言っていたが、感覚や経験を共有しているのだろうか。私はどれだけ涼夏といても絢音分は満たされないので、文化祭が終わったら1時間チャレンジを3セットくらいお願いしたい。
今年は川波君から前夜祭のお誘いはなかった。早い段階で涼夏が牽制していたせいかもしれないし、もしかしたら糸織が誘ってそれにOKしたのかもしれない。一応友達として、糸織の恋は実ってほしい。
そんな話を帰宅部でしたら、絢音が「そうしたらまた3人だけになれるね」と笑っていた。そこまで薄情ではないが、糸織が一緒だとスキンシップが減るのは確かなので、また1年の頃のような帰宅部が恋しい気持ちはある。
前夜祭までの最後の一週間、実行委員はひたすら当日のシフト作りに勤しみ、クラスメイトには内装や小物作りを頑張ってもらった。景品はすでに揃い、文房具からアクセサリー、キーホルダー、お菓子、インテリア小物、コスメ、スマホグッズといった、多彩なラインナップになった。
若干女子寄りなのは、川波君と岩崎君が大して欲しいものがないと言ったのと、笹部君が男子はチップが尽きるまで遊ぶと断言したことによる。遊び続けるというのは私たち帰宅部でも同じ結論に至ったので、一理あるかもしれない。
事前の準備が整うと、みんなでディーラー役とお客さん役を入れ替えて当日の流れを確認した。ちなみに、全員がディーラーをやるわけではなく、私もやらないメンバーの一人である。涼夏と絢音は積極的にやりたがり、他にもそういう人が何人もいたので、やりたくない人がやるような事態にはならなかった。
シフトは相変わらず一筋縄では決まらなかったが、私は常に涼夏と絢音と一緒にいられるようになった。なったというか、実行委員特権で勝手にそうしたのだが、さすがに一部からズルいと言われ、涼夏に適当になだめてもらった。
結構他の人たちも希望通りにしたはずなのに、どうしてそんな声が出るのかと愚痴を零すと、絢音が可笑しそうに言った。
「涼夏狙いの男子とか千紗都狙いの男子がいて、二人がずっと一緒にいると声がかけられないとか」
「千紗都といられなくても、男子とは回らんぞ?」
「まあ、私たちはそれをわかってるけど、一人で暇してたらもしかしたらって思うのは不思議じゃない。去年、男子と前夜祭見た人もいるし」
絢音が何やら目で訴えてきて、私は小さくため息をついた。
「それ、ずっと言われるの?」
「嫌なら言わないけど、あの話それなりに広まってて、千紗都とはワンチャンあるって思ってる男の子が結構いるんだよ。私も時々千紗都を紹介してって言われる」
絢音がやれやれと首を振って、私は思わず涼夏と顔を見合わせた。
「絢音、そんな面倒くさいことに対応してくれてるの?」
「そうだね。涼夏もだよ。紹介どころか、二人に声をかけたかったら、むしろ私を倒してから行けって突っぱねてるけど」
「うわぁ。それはなんかごめんだ」
あまりそういう迷惑を友達にかけたくなかったが、こればかりは止めようがない。絢音が楽しそうに対応してくれているのがせめてもの救いだ。
涼夏もガッカリしたように息を吐きながら、「直接言ってこいって」とぼやいた。別のコミュニティーの相手にならわかるが、同じクラスにいるのだから、絢音に声をかけれるなら、直接言ってこいというのはわかる。
「私としては、この人猪谷組なんだとか、色々わかって面白いけど。むしろ全部私を通して」
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