ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
258 / 381

第55話 誕生日2 3(2)

しおりを挟む
 思ったよりも着せ替えゲームが長くなったのは、女子高生らしいと言ったところか。お腹が空いたのでいよいよケーキを食べようと言うと、涼夏が空腹に甘いものはいかんと、母親のようなことを言い出した。
「じゃあ何か作って、ママ」
「ママー」
 絢音と二人でせがむと、涼夏が秒でカプレーゼを作って食卓に並べた。本人はトマトをスライスしてモッツァレラチーズを挟み、オリーブオイルをかけて胡椒を少し振っただけだと謙遜しているが、手練れにしか作れない料理に違いない。
「cookには火を使う意味が含まれてるから、もはやこれはクッキングですらない。メイキングだ」
 涼夏がトマトとチーズをクラッカーに挟んでかじった。それを見て、奈都が同じように食べて、驚いたように目を見開いた。
「美味しい! 涼夏、天才!」
「いや、トマトを切った以外に、料理らしいことを何もしてないメニューだ」
「お店で食べたら、1,000円はするね。間違いない」
 絢音が深く頷く。実際、お店ではトマトスライスが500円くらいすることは普通にあるので、この料理なら1,000円してもおかしくない。
「やっぱり、ビストロスズカを開くしかないね」
「スズカダイニングには連日大勢のお客さんが!」
「キッチンスズカ」
「スズカブラッスリー」
 みんなでオシャレな店名を提案してみたが、涼夏はただ静かに首を横に振るばかりだった。
 談笑しながらカプレーゼを平らげると、いよいよ涼夏がケーキを持ってきた。シンプルなホールのショートケーキだが、壁面からは様々なフルーツが顔を覗かせ、上に載っているスライスされたイチゴも絞り出されたホイップクリームも綺麗だ。Happy Birthdayと文字の書かれたチョコレートのプレートには、「あやちさ」と添えられているので、これも手作りらしい。
 奈都が思わずという感じで、「買ったの?」と聞いた気持ちはわかる。プロの手品師がタネも仕掛けもバレバレな手品をやった後、サラッとすごい技をやってのけるように、トマトを切っただけのカプレーゼからのこのケーキは感動がある。
 せっかくなのでたくさん写真を撮ってから、絢音と二人で入刀する。涼夏が動画を撮りながら「お幸せに」と言っていたので、幸せになろう。
 ケーキはお店で食べるのと遜色ない味だった。間違いなくスズカカフェの看板メニューになると予見したら、作るのが大変だと一蹴された。ケーキの感想は最初の美味しいの一言で満足したらしく、涼夏が違う話を始めた。
「カタカナ語を当てるクイズを用意した」
「ボブジテン的な?」
 ボブジテンとは、カタカナのお題をカタカナを使わずに説明して当てるゲームで、帰宅部でも時々遊んでいる。涼夏は今回はそうではないと言って説明を始めた。
「昨日、ワードジェネレーターでテキトーなカタカナ語の単語を拾ってきた。それをAIに説明させて、その文章の漢字だけを読むから当てて」
「比較的普通のクイズだね」
 絢音が勝ち気な瞳で頷く。涼夏がクイズを作ってきて私と絢音が答えるのは、教室で不定期に開催される遊びの一つだ。簡単なのからと言って、涼夏がゆっくりと漢字の部分を読み上げる。
「飛行機、航空機、運転席……」
「パイロット」
「違います」
「コックピット」
「それだな」
 私の誤答の後、奈都が静かに正解を持っていった。私と絢音の独壇場になるのではないかと心配したが、どうやら大丈夫そうだ。
「次も簡単なの。水、噴射」
 その2つの単語で絢音がスプリンクラーと誤答し、続く「体、洗浄」でシャワーだとわかったが、これも奈都に持って行かれた。絢音が「押すのが早すぎた……」とため息をついたが、勝つには攻めないといけない。
「3問目ね。体臭、脇汗、臭……」
「にお」
「そこで止めるんだ。フェチかな」
 絢音が攻めるが、さすがに違った。奈都が「すごいフェチだね」と感心するように頷いた。いつもならここで、「チサの体臭を嗅ぎたい」とか「脇汗を舐めたい」とか訳のわからないことを言うので身構えていたが、何もなかった。涼夏の前だから我慢したのかもしれない。この子は未だにどこか、涼夏を恐れている節がある。わからないでもないが。
 その後、「抑、製品、化粧品」と続き、奈都が制汗スプレーと言うもカタカナ語ではなく、私も出て来ずに終わった。誤答した絢音がデオドラントと当てた後、「早過ぎてもダメだね」と自戒するように首を振った。
 涼夏が「後2問ね」と言って続ける。
「日本神話、登場」
「また違う感じのが来たね。アマテラスオオミカミで攻めたいけど我慢する」
 絢音が思案げにそう言った。奈都が「ヌカタノオオキミかもしれない」と知的なことを言ったが、絢音に日本神話ではないと優しく教えられていた。
 私はヤマタノオロチ一点張りで、「伝説上、巨大」で勝負して正解した。ようやく1つ取ったが、残りはもう1問しかない。
 涼夏が最後は3点だと言って、2問取っていた奈都が悲鳴を上げた。わかりやすい展開だ。
「日本発祥」
「広っ!」
 涼夏がゆっくり区切った一つ目に、思わず笑いが起きた。一応オセロを張ることにしたが、さすがに自信がない。
 次の「一種」でも何も絞り込まれず、さらに「あつ」と続いて一旦問い読みを止めてもらった。
「圧か熱か厚か」
「日本発祥の気象用語の一種」
「それだと、気象用語も問題文で読まれるね」
 もっともだ。絢音が一度天を仰いでから口を開いた。
「ここで当てたらカッコイイから攻める。日本発祥のパスタの一種でしょ。ナポリタン!」
 この回答に、奈都と二人で思わず「おー」と唸った。持っていかれたと思ったが、涼夏が冷静に違うと言って、絢音がガックリと肩を落とした。
「日本発祥、一種、あつ、とん、はさ」
 混沌だ。「はさ」はさすがに「挟む」だろう。「とん」は色々考えられるが、「整頓」とか「蜻蛉」とか「水遁」とかだと、「とん」だけ読まれることはない。なかなか思い付かないが、まずは「熱いものを挟むトング」という、どうでもいい間違いを頭から追い出したい。
 私がトングと戦っていると、絢音が「あー」と手を打って、奈都も続けていいと涼夏に促した。答えの当たりがついている顔だ。
 最後の単語は「料理」だった。私が考えたいと言うと、奈都がスマホに答えをタイプして涼夏に見せた。涼夏が「それだな」と頷き、隣から覗き込んだ絢音も「だよねー」と満足そうに言った。
「日本発祥、一種、あつ、とん、挟んだ料理」
 何度か繰り返すと、ようやく形が浮かんできた。
「カツサンドか」
「そっすね。一応ファクトチェックもしたけど、本当に日本発祥みたいだよ」
 AIが真顔で嘘をつくのを、私たちは何度も目にしてきたので、大事なことは本当かどうかを確認することにしている。私もカツサンドについて調べてみたが、昭和初期に東京のお店で作られたのが発祥らしい。素晴らしい食べ物を生み出してくれた。
 ゲームは結局、奈都が5点取って終わった。まるで全問正解したかのような響きなので、いっそ最終問題も1点にすれば良かった。
 人間、欲を出すとこんなものだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...