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第55話 誕生日2 5(1)
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宅配ピザはMサイズ3枚とLサイズ2枚のどちらがいいか、検討を重ねた結果、Mサイズ3枚になった。お得なキャンペーンもやっていたので、その範囲で注文する。値段は気にしなくていいと言われているとはいえ、特にこだわりはないし、安く済むに越したことはない。
百均で買った、ピザのピースを集めて並べるゲームをやりながらピザを待ち、到着するや否や開封して、冷蔵庫で冷やしたコーラをグラスに注いだ。
足りなければケーキの残りもあると、涼夏が冷蔵庫を指差しながら笑ったが、サイドメニューも頼んだし、足りないということはないだろう。ケーキを食べてからそれほど時間も経っていないし、動いてもいない。
奈都だけ一人、「お腹空いた!」と歓喜の声を上げたので、代謝が違うのだろう。運動部だし、私より基礎代謝が100キロカロリー以上多そうだ。
「それで、どうした? 今日は千紗都と絢音の誕生日会という、実にハッピーなお祝いの席であることをくれぐれも理解した上で喋ってくれ」
涼夏がわざとらしく手を広げると、妹氏はピザを頬張りながら「喋りにくいなぁ」とぼやいた。
「今、彼氏がいて付き合ってるんだけど、付き合ってまだひと月でキスされた」
「それはおめでとう。お姉ちゃんはファーストキスは高1だったから、随分早いな。マセ妹め」
涼夏がグラスを置いて小さく拍手した。まったくおめでたいと思ってなさそうな口調だ。絢音が「ファーストキスだったの?」と聞くと、妹氏は首を振って否定した。
「それはもっと前」
「マセ妹め」
さっきより幾分本気の声で涼夏が言った。羨ましいと言うよりは、親心的な心配だろう。
「お姉ちゃんこそ、男に全然興味なさそうなのに、キスとかするんだ」
「恋愛イコール男と女だと思っている内はまだまだだな。それで、それは妹にとってそんなにハッピーなことじゃなかったと解釈すればいい?」
「なんか、喋り方がキモいんだけど」
妹氏が半眼になりながら、「まあそう」と頷いた。友達がいると反応が変わるのは、私も親がいる時に奈都が遊びに来ると、変に意識してしまうからわかる。
「軽い女になる気はないけど、そういうふうに見られてるんじゃないかってモヤった」
「そうか。お姉ちゃんには、秋歩はとても軽い女に見えるぞ?」
真顔でそう言いながら、涼夏がピザにかじりついた。随分素っ気ない言い方なので、また戦争が起きるのではないかと心配したが、妹氏はさらっと流して私たちを見回した。
発言を求められた気がしたので、何か言おうと思ったら、先に奈都が口を開いた。
「望んだキスとは違ったってこと? 無理矢理されたなら、その男はホームから突き落とした方がいいと思う」
「身内から犯罪者が出るのは勘弁してくれ」
涼夏がそっと首を振る。妹氏は「無理矢理ではないけど」と前置きしてから、自分でもわからないとため息をついた。
「なんか違うんだよね」
「唇から愛を感じなかったんだね」
絢音がわかるわかると頷いた。さすが帰宅部一のわかり手だ。
「男は80%が性欲で出来てるから、妥協が必要だな」
涼夏が顔も上げずにそう言ってから、「私は100%、愛で出来ている」と胸に手を当ててうっとりと微笑んだ。割とそうではないという前提があってこその冗談だろう。
「お姉ちゃんは男に対して辛辣すぎ」
「秋歩はどうして彼氏が欲しいのか、一度しっかり考えた方がいい。周りがみんな彼氏持ちだからとか、逆に彼氏がいないからとか、そういう理由はとてもくだらないことだ」
涼夏が正論を吐く。私から見ても彼氏をステータスに感じている妹氏には耳が痛い話だろう。
妹氏はムッとした顔で唇を尖らせた。
「友達と話合わせるの、大事じゃん? みんな彼氏とか恋愛の話ばっかりだし」
「女子はみんな恋バナ好きだよね。バトン部も割とそう」
奈都が妹氏を援護するようにそう言ったが、涼夏があっさりと自分側に取り込んだ。
「バトン部がみんなそうでも、ナッちゃんは違うでしょ。合わせるのと染まるのは違う」
「お姉ちゃんは友達に恵まれたからそう言えるんだよ。私も別に、暇だから恋愛してるわけじゃないし」
恋愛感情は自然と湧いてくるものらしいから、その感情をセーブするのは難しいだろう。私にはまったくわからないが。
「恋愛は人生を豊かにするね。両想いなら」
絢音がにこにこしながらそう言って、憧れるように指先を合わせた。涼夏も絢音も奈都も、別に恋愛が嫌いな人間ではない。単にその感情が、何故か私の方を向いているだけだ。私の方でも3人のことは大好きなので、ちゃんと気持ちに応えられていたらと思うが、こればかりは永遠に自信がない。私には感情の区別は難しい。
「絢音さんは、ファーストキスはどんなだった?」
当然済ませている前提で、妹氏が身を乗り出した。まあ、恋愛は人生を豊かにするとか言っておいて、恋愛経験がなかったら説得力がない。
「どんなだっけ?」
絢音が可愛らしく首を傾げて私を見る。これがキラーパスというやつか。もちろん私は覚えているし、絢音も忘れてはいないだろう。
「夕日に赤く染まる校舎裏だった。グラウンドからは運動部の声がして、人が来ないかドキドキしながらキスをした」
テキトーにそう言うと、絢音が「私の記憶と違うなぁ」と不思議そうに呟いた。妹氏が呆れたように言った。
「千紗都さんのファーストキスはそういうのだったんだね?」
「今のは絢音のファーストキスの話をしただけ。私は夕日に赤く染まる帰り道だった。家路を急ぐサラリーマンの波に逆らうように、歩道の真ん中でキスをした」
「すっごい迷惑だな」
涼夏が呆れたように首を振った。仕草が妹氏と似ている。さすが姉妹だ。
「千紗都さん、夕日大好きだね。お姉ちゃんは?」
「家路を急ぐサラリーマンの波に逆らうように、歩道の真ん中でキスをしたらしいぞ?」
涼夏が半笑いでそう言うと、妹氏はしばらく動きを止めてから、怪訝そうに首をひねった。
「お姉ちゃんのファーストキスの相手が千紗都さんってこと?」
「それは界隈では有名な話だ」
「いや、3人くらいしか知らないと思う」
静かに否定したが、涼夏の言う界隈は、私が思うよりずっと狭い範囲なのかもしれない。
ようやく絢音が私にパスした意味に気が付いたようで、妹氏が目を丸くした。
「絢音さんのファーストキスの相手も千紗都さんってこと?」
「そうだね」
「私もだよ」
一応というように、奈都が小さく手を挙げる。驚いたように固まっている妹氏に、涼夏がひらひらと手を振った。
「私たちは愛100%の関係だから気楽にキスとかしてるけど、キミは性欲80%の男たちと、違和感を抱きながら恋愛をしなさい。ちなみにナッちゃんは性欲80%だ」
涼夏が突然パスを投げて、奈都が「違うから!」と慌てたように首を振った。今のは図星だった人間の反応だ。気を付けよう。
私がそっと距離を取ると、奈都がムンクのように叫んだ。ムンクは叫んでないけど。
妹氏が難しそうな顔で唸った。
「お姉ちゃんたち、思ったよりも複雑な人間模様なんだね」
「千紗都が可愛いだけで、別に何も難しくない。要するに、まあキスくらいいいんじゃないかって思うけど、相手が男だとやっぱりダメだな」
涼夏がそう言いながら、絢音に近付いて肩に手をかけた。そして、何をとち狂ったのか絢音にしばらくキスをして、絢音がうっとりした顔で微笑んだ。
「いや、その人、千紗都さんじゃないし」
妹氏がドン引きしたようにそう言ってから、「なんか、色々どうでも良くなった」と息を吐いた。
悩んでいたようなので、それが解消したのなら良かった。私には意味がわからないが、涼夏なりに妹氏を案じてのカミングアウトだったのだろう。
とりあえずピザを食べよう。この世界は私には難しい。
百均で買った、ピザのピースを集めて並べるゲームをやりながらピザを待ち、到着するや否や開封して、冷蔵庫で冷やしたコーラをグラスに注いだ。
足りなければケーキの残りもあると、涼夏が冷蔵庫を指差しながら笑ったが、サイドメニューも頼んだし、足りないということはないだろう。ケーキを食べてからそれほど時間も経っていないし、動いてもいない。
奈都だけ一人、「お腹空いた!」と歓喜の声を上げたので、代謝が違うのだろう。運動部だし、私より基礎代謝が100キロカロリー以上多そうだ。
「それで、どうした? 今日は千紗都と絢音の誕生日会という、実にハッピーなお祝いの席であることをくれぐれも理解した上で喋ってくれ」
涼夏がわざとらしく手を広げると、妹氏はピザを頬張りながら「喋りにくいなぁ」とぼやいた。
「今、彼氏がいて付き合ってるんだけど、付き合ってまだひと月でキスされた」
「それはおめでとう。お姉ちゃんはファーストキスは高1だったから、随分早いな。マセ妹め」
涼夏がグラスを置いて小さく拍手した。まったくおめでたいと思ってなさそうな口調だ。絢音が「ファーストキスだったの?」と聞くと、妹氏は首を振って否定した。
「それはもっと前」
「マセ妹め」
さっきより幾分本気の声で涼夏が言った。羨ましいと言うよりは、親心的な心配だろう。
「お姉ちゃんこそ、男に全然興味なさそうなのに、キスとかするんだ」
「恋愛イコール男と女だと思っている内はまだまだだな。それで、それは妹にとってそんなにハッピーなことじゃなかったと解釈すればいい?」
「なんか、喋り方がキモいんだけど」
妹氏が半眼になりながら、「まあそう」と頷いた。友達がいると反応が変わるのは、私も親がいる時に奈都が遊びに来ると、変に意識してしまうからわかる。
「軽い女になる気はないけど、そういうふうに見られてるんじゃないかってモヤった」
「そうか。お姉ちゃんには、秋歩はとても軽い女に見えるぞ?」
真顔でそう言いながら、涼夏がピザにかじりついた。随分素っ気ない言い方なので、また戦争が起きるのではないかと心配したが、妹氏はさらっと流して私たちを見回した。
発言を求められた気がしたので、何か言おうと思ったら、先に奈都が口を開いた。
「望んだキスとは違ったってこと? 無理矢理されたなら、その男はホームから突き落とした方がいいと思う」
「身内から犯罪者が出るのは勘弁してくれ」
涼夏がそっと首を振る。妹氏は「無理矢理ではないけど」と前置きしてから、自分でもわからないとため息をついた。
「なんか違うんだよね」
「唇から愛を感じなかったんだね」
絢音がわかるわかると頷いた。さすが帰宅部一のわかり手だ。
「男は80%が性欲で出来てるから、妥協が必要だな」
涼夏が顔も上げずにそう言ってから、「私は100%、愛で出来ている」と胸に手を当ててうっとりと微笑んだ。割とそうではないという前提があってこその冗談だろう。
「お姉ちゃんは男に対して辛辣すぎ」
「秋歩はどうして彼氏が欲しいのか、一度しっかり考えた方がいい。周りがみんな彼氏持ちだからとか、逆に彼氏がいないからとか、そういう理由はとてもくだらないことだ」
涼夏が正論を吐く。私から見ても彼氏をステータスに感じている妹氏には耳が痛い話だろう。
妹氏はムッとした顔で唇を尖らせた。
「友達と話合わせるの、大事じゃん? みんな彼氏とか恋愛の話ばっかりだし」
「女子はみんな恋バナ好きだよね。バトン部も割とそう」
奈都が妹氏を援護するようにそう言ったが、涼夏があっさりと自分側に取り込んだ。
「バトン部がみんなそうでも、ナッちゃんは違うでしょ。合わせるのと染まるのは違う」
「お姉ちゃんは友達に恵まれたからそう言えるんだよ。私も別に、暇だから恋愛してるわけじゃないし」
恋愛感情は自然と湧いてくるものらしいから、その感情をセーブするのは難しいだろう。私にはまったくわからないが。
「恋愛は人生を豊かにするね。両想いなら」
絢音がにこにこしながらそう言って、憧れるように指先を合わせた。涼夏も絢音も奈都も、別に恋愛が嫌いな人間ではない。単にその感情が、何故か私の方を向いているだけだ。私の方でも3人のことは大好きなので、ちゃんと気持ちに応えられていたらと思うが、こればかりは永遠に自信がない。私には感情の区別は難しい。
「絢音さんは、ファーストキスはどんなだった?」
当然済ませている前提で、妹氏が身を乗り出した。まあ、恋愛は人生を豊かにするとか言っておいて、恋愛経験がなかったら説得力がない。
「どんなだっけ?」
絢音が可愛らしく首を傾げて私を見る。これがキラーパスというやつか。もちろん私は覚えているし、絢音も忘れてはいないだろう。
「夕日に赤く染まる校舎裏だった。グラウンドからは運動部の声がして、人が来ないかドキドキしながらキスをした」
テキトーにそう言うと、絢音が「私の記憶と違うなぁ」と不思議そうに呟いた。妹氏が呆れたように言った。
「千紗都さんのファーストキスはそういうのだったんだね?」
「今のは絢音のファーストキスの話をしただけ。私は夕日に赤く染まる帰り道だった。家路を急ぐサラリーマンの波に逆らうように、歩道の真ん中でキスをした」
「すっごい迷惑だな」
涼夏が呆れたように首を振った。仕草が妹氏と似ている。さすが姉妹だ。
「千紗都さん、夕日大好きだね。お姉ちゃんは?」
「家路を急ぐサラリーマンの波に逆らうように、歩道の真ん中でキスをしたらしいぞ?」
涼夏が半笑いでそう言うと、妹氏はしばらく動きを止めてから、怪訝そうに首をひねった。
「お姉ちゃんのファーストキスの相手が千紗都さんってこと?」
「それは界隈では有名な話だ」
「いや、3人くらいしか知らないと思う」
静かに否定したが、涼夏の言う界隈は、私が思うよりずっと狭い範囲なのかもしれない。
ようやく絢音が私にパスした意味に気が付いたようで、妹氏が目を丸くした。
「絢音さんのファーストキスの相手も千紗都さんってこと?」
「そうだね」
「私もだよ」
一応というように、奈都が小さく手を挙げる。驚いたように固まっている妹氏に、涼夏がひらひらと手を振った。
「私たちは愛100%の関係だから気楽にキスとかしてるけど、キミは性欲80%の男たちと、違和感を抱きながら恋愛をしなさい。ちなみにナッちゃんは性欲80%だ」
涼夏が突然パスを投げて、奈都が「違うから!」と慌てたように首を振った。今のは図星だった人間の反応だ。気を付けよう。
私がそっと距離を取ると、奈都がムンクのように叫んだ。ムンクは叫んでないけど。
妹氏が難しそうな顔で唸った。
「お姉ちゃんたち、思ったよりも複雑な人間模様なんだね」
「千紗都が可愛いだけで、別に何も難しくない。要するに、まあキスくらいいいんじゃないかって思うけど、相手が男だとやっぱりダメだな」
涼夏がそう言いながら、絢音に近付いて肩に手をかけた。そして、何をとち狂ったのか絢音にしばらくキスをして、絢音がうっとりした顔で微笑んだ。
「いや、その人、千紗都さんじゃないし」
妹氏がドン引きしたようにそう言ってから、「なんか、色々どうでも良くなった」と息を吐いた。
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