ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

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番外編 コースター(1)

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 先日、初めてのユニバで、一人でフライト・オブ・ザ・ヒッポグリフに並びながら、暇つぶしに書いていたもの。
 ユニバは楽しかったけど、おじさん一人で行く場所ではないかな。自分は心の中に女子高生が4人いたから平気だったけど。
 全然平気だったけど!
 Web限定。時期はテキトーだけど、高校は卒業してそう。セルフパロディ的な扱いで。
 自分はホラー・ナイトまでいたけど、小説はフライト・オブ・ザ・ヒッポグリフに乗るシーンだけ。ユニバの一幕。

※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

  *  *  *

 初めての大阪。初めてのユニバーサル・スタジオ・ジャパン。天気は上々、気分も上々。
 とても楽しみにしてはいたが、特に事前に行程を考えたりはしていない。一応どんな乗り物があって、どんなショーがあるのかくらいは調べたが、どこを回るのかは友達任せだ。
 仲間たちの特性上、私の趣味と大きくかけ離れたチョイスはしないだろう。そう思っていたが、奈都はせっかくだから怖いのに乗ろうと張り切っている。任せておいて反対するのも申し訳ないが、私はコースター初心者なのでご勘弁願いたい。
 この提案には、絢音も外で撮影係を務めるとガッツポーズで申し出たが、待ち時間はどれも60分を超えるし、どうせなら一緒に楽しみたい。私も極めて絢音サイドだ。
 ただ私の場合は、厳密に言えば気が乗らないだけで、苦手かどうかはわからない。何せ乗ったことがないのだ。家族ではどこにも行かないし、中学の時もぼっちを極めていたので、友達とこういうところに来た経験がない。もしかしたら、乗ってみたらドハマりする可能性はある。
「わくわくするな」
 涼夏が腕をわくわくさせながら、コースターを見上げて瞳を輝かせた。涼夏は奈都寄りのようだ。一瞬奈都と涼夏、私と絢音に分かれようかと思ったが、私も乗ってみたくないわけではないし、開始早々別行動するのは寂しすぎる。
「一回転したり、後ろ向きに進んだりしないので」
 そう注文をつけると、奈都がフライト・オブ・ザ・ヒッポグリフをチョイスした。ハリー・ポッターのエリアにあるコースターで、スピードもそんなに出ないし、子供でも楽しめる初心者向けのものだ。
「奈都が優しい」
 涙を拭いながら礼を述べると、「いや、別にチサのためじゃないけど」と不思議そうに首を傾げられた。奈都には物足りなそうな乗り物だが、興味がないわけではないようだ。
「それに、私はいつも優しい」
「それはない」
 待ち時間は70分。さっき、入口近くにあったなんとかバックドロップは110分待ちだったので、パーク内のアトラクションではあまり人気がない方なのかも知れない。みんなスリルを求めている。
「これなら私でも楽しめそう。ナツ、ありがとう」
 絢音がうっとりと微笑むと、奈都が居心地悪そうに頭を掻いた。髪の毛の上で、はしゃいだカチューシャが揺れる。ご機嫌な奈都可愛い。とりあえず気持ちを高めるために私もつけているが、なんとなくキャラではない気がしてむず痒い。
「70分というのは、人間の待つ時間じゃないと思ったけど、ここだと普通だな」
 涼夏が私と腕を組んで、コースターを背景に写真を撮った。コースターの向こうに立派な城が見えるが、私は映画を知らないので「すごい」以上の感動はない。3人は普通に見たことがあるそうだ。みんな同い年のはずなのに、私だけ経験値がだいぶ低い。
 みんなわーきゃー言いながら乗っているが、見ている分にはそんなに怖そうではない。あれは気分を盛り上げるためにわざと言っているのかも知れない。
「わー。きゃー」
 ちょっと練習すると、奈都が呆れたように首を傾けた。
「それは?」
「練習。もしかしたら今日はたくさん言うかも知れない」
「それは自然に出るものであって、わざわざ言うものじゃないよ」
 いわゆる声が出ちゃうというやつだろうか。もじもじしながら「声が出ちゃう」と呟くと、涼夏に「誤用だ」とばっさり切り捨てられた。日本語は難しい。
 待ち時間の間に、この次に行く場所を相談する。昼ご飯の前に夕ご飯について話しているような感覚があるが、パーク内ではなるべく待ち時間を減らす必要がある。一つ一つの感想は、次のアトラクションの待ち時間に話せばいい。
「次はフライング・ダイナソーに行くとして、その次だね」
 奈都が当たり前のようにそう言ったが、調べてみたら人間の乗るものではなかった。絢音が静かに首を振り、私も絢音の傍に立って腕を組んだ。
「二人で応援してる」
「いや、私もこれは乗らん」
 涼夏がか弱い女の子のようにふるふると首を振って、奈都が「楽しそうなのに」と残念そうに肩を落とした。一人で楽しんできてくれても構わないが、90分も別行動するのは誰も望んでいないし、乗りもしないのに一緒に並ぶのもご遠慮願いたい。
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