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番外編 コースター(2)
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※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
そうこうしていると、いよいよヒッポグリフの順番がやってきた。余裕そうではあるが、初めてのコースターなのでいささか緊張する。ちなみに、アトラクション名にあるヒッポグリフは、人名ではなく生き物の名前だった。知らないのは私だけのようだったので、こっそり調べた。
この乗り物は定員16人で、各列2人乗り。何故か私と絢音が前で、奈都と涼夏が後ろになった。わーきゃー言っている私たちを後ろから眺めたいそうだ。悪趣味極まりない。
荷物をロッカーに入れてコースターに乗り込む。バーを引いてロックされると、あっという間に動き出した。心の準備時間とかはないようだ。
ヒッポグリフは最高の高さが13メートル、最高速度は50キロ弱、所要時間は2分とのことだが、スピードが出ている時間は30秒くらい。
最高点から落ちる時、意外と風を感じたのと、曲がり方が想像より急で、思ったよりは迫力があった。絢音と二人できゃーきゃー言っていたら、あっという間に元の位置に戻ってきた。
足腰が立たなくなるようなこともなく、普通にコースターから降りて荷物を取ると、出口から出てお城の方に戻った。
「なるほど、コースターというものを理解した」
私が深く頷くと、絢音も胸に手を当てて長い息を吐いた。
「楽しめる範囲の乗り物だった。1時間並んでまで乗りたいかって言われると微妙だけど、人生の糧になる経験だった」
「でも、ショーよりはコースターかなぁ。もうちょっとテーマパークらしい、テーマ性のある乗り物がいい」
コースターに乗るだけならナガシマで十分だと、涼夏が言った。もちろん、ここでしか楽しめないコースターもたくさんあるが、せっかくテーマパークなのだし、普通の遊園地では味わえない体験をしたい気持ちは理解できる。一応さっき乗ったのもテーマはあるが、あまり感じなかった。
「じゃあ、フライング・ダイナソーの後、ジャーニーにしようか。映像とかでハリポタの世界観が楽しめるらしいよ」
奈都が満面の笑みでそう提案した。ジャーニーとはハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニーのことで、FJとも略される。丁度すぐそこにあるお城の中にあるアトラクションで、移動時間の観点からもフライング・ダイナソーを挟む必要はまったくない。
「今、真横にあるのを優先すればいいんじゃないかな」
絢音が城を指差しながら、冷静にそう言った。少し意外ではあるが、FJは体験してみてもいいアトラクションらしい。私と同じで、意外とコースターが平気だったのかも知れない。あと、調べる限りそんなに怖そうではない。
「少しずつ難易度を上げていって、最後にフライング・ダイナソーに挑戦したいっていうアヤの意向は汲み取った。採用する」
「そんなこと言ってないね。あれは人間には早すぎる」
「コースターだけに?」
「ナツの十八番、○○だけにシリーズだね」
「そんなシリーズないから。暴走するプテラノドンに背中を掴まれて空を飛び回るコンセプトだって。楽しそうじゃない?」
「それが楽しそうに感じられるのは、特殊な訓練を受けた人だけだね」
二人が楽しく会話している。城に向かいながら今乗ったヒッポグリフの待ち時間を見ると、120分になっていた。園内が混み始めている。
幸いにもFJは90分だった。ヒッポグリフの方が待つのは意外だが、比較的小さな子供や、絢音みたいにコースターが苦手な人にも楽しめるという点で、需要がありそうだ。
城の外の門をくぐると、待機列がFJとキャッスルウォークに分かれる。後者は城の中を歩いて回ることが出来るコンテンツだが、見える範囲に列はなかった。
「雰囲気のある写真も撮りたいし、ジャーニー乗ったら行ってみよう」
列に並びながら、涼夏が腕をわくわくさせた。上機嫌でとても可愛い。
テーマパークなので、日常では撮れない写真を撮るのも楽しみの一つだが、生憎涼夏の髪についているカチューシャは目玉だ。特に作品が好きというわけでもないのに、何故それを選んだのかは謎だが、涼夏らしいと言えば涼夏らしい。
列にはハリーポッターの特徴的な制服のコスプレをした人が何人かいる。ああいう格好なら写真も映えたが、お高そうだ。
念のためスマホで検索してみたら、今つけているカチューシャより安く売っていた。大量生産しても売れる理由の一つがこのパークなのは間違いないだろう。作品を知らない私でも、ちょっと着てみたい。
「次はコスプレして来るのもいいかもね」
私がそう提案すると、3人はいかかさ驚いた顔をして頷いた。
「賛成だけど、チサらしくない発言だった」
「そう? 私、お祭り好きだけど」
「もっと感情を表に出して」
「わーい、わくわく」
涼夏のように腕をわくわくさせたら、そっと視線を逸らされた。あんまりだ。
初めてのユニバを、もちろん全力で楽しんでいる。どう楽しめばいいのかはまだよくわからず、全員空回りしている感もあるが、4人一緒ならそれもまたいい思い出になるだろう。
次のFJも楽しみだし、もしかしたら奈都に押し切られて、フライング・ダイナソーにも乗ることになるかも知れない。絢音さえ大丈夫なら、私はもう乗ってみてもいい心境になっている。怖くても死ぬことはないだろう。
パークに来て、まだ乗り物一つしか乗っていない。効率よく回るのは素人には難しいかも知れないが、私たちなりに存分に楽しんで帰ろう。
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そうこうしていると、いよいよヒッポグリフの順番がやってきた。余裕そうではあるが、初めてのコースターなのでいささか緊張する。ちなみに、アトラクション名にあるヒッポグリフは、人名ではなく生き物の名前だった。知らないのは私だけのようだったので、こっそり調べた。
この乗り物は定員16人で、各列2人乗り。何故か私と絢音が前で、奈都と涼夏が後ろになった。わーきゃー言っている私たちを後ろから眺めたいそうだ。悪趣味極まりない。
荷物をロッカーに入れてコースターに乗り込む。バーを引いてロックされると、あっという間に動き出した。心の準備時間とかはないようだ。
ヒッポグリフは最高の高さが13メートル、最高速度は50キロ弱、所要時間は2分とのことだが、スピードが出ている時間は30秒くらい。
最高点から落ちる時、意外と風を感じたのと、曲がり方が想像より急で、思ったよりは迫力があった。絢音と二人できゃーきゃー言っていたら、あっという間に元の位置に戻ってきた。
足腰が立たなくなるようなこともなく、普通にコースターから降りて荷物を取ると、出口から出てお城の方に戻った。
「なるほど、コースターというものを理解した」
私が深く頷くと、絢音も胸に手を当てて長い息を吐いた。
「楽しめる範囲の乗り物だった。1時間並んでまで乗りたいかって言われると微妙だけど、人生の糧になる経験だった」
「でも、ショーよりはコースターかなぁ。もうちょっとテーマパークらしい、テーマ性のある乗り物がいい」
コースターに乗るだけならナガシマで十分だと、涼夏が言った。もちろん、ここでしか楽しめないコースターもたくさんあるが、せっかくテーマパークなのだし、普通の遊園地では味わえない体験をしたい気持ちは理解できる。一応さっき乗ったのもテーマはあるが、あまり感じなかった。
「じゃあ、フライング・ダイナソーの後、ジャーニーにしようか。映像とかでハリポタの世界観が楽しめるらしいよ」
奈都が満面の笑みでそう提案した。ジャーニーとはハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニーのことで、FJとも略される。丁度すぐそこにあるお城の中にあるアトラクションで、移動時間の観点からもフライング・ダイナソーを挟む必要はまったくない。
「今、真横にあるのを優先すればいいんじゃないかな」
絢音が城を指差しながら、冷静にそう言った。少し意外ではあるが、FJは体験してみてもいいアトラクションらしい。私と同じで、意外とコースターが平気だったのかも知れない。あと、調べる限りそんなに怖そうではない。
「少しずつ難易度を上げていって、最後にフライング・ダイナソーに挑戦したいっていうアヤの意向は汲み取った。採用する」
「そんなこと言ってないね。あれは人間には早すぎる」
「コースターだけに?」
「ナツの十八番、○○だけにシリーズだね」
「そんなシリーズないから。暴走するプテラノドンに背中を掴まれて空を飛び回るコンセプトだって。楽しそうじゃない?」
「それが楽しそうに感じられるのは、特殊な訓練を受けた人だけだね」
二人が楽しく会話している。城に向かいながら今乗ったヒッポグリフの待ち時間を見ると、120分になっていた。園内が混み始めている。
幸いにもFJは90分だった。ヒッポグリフの方が待つのは意外だが、比較的小さな子供や、絢音みたいにコースターが苦手な人にも楽しめるという点で、需要がありそうだ。
城の外の門をくぐると、待機列がFJとキャッスルウォークに分かれる。後者は城の中を歩いて回ることが出来るコンテンツだが、見える範囲に列はなかった。
「雰囲気のある写真も撮りたいし、ジャーニー乗ったら行ってみよう」
列に並びながら、涼夏が腕をわくわくさせた。上機嫌でとても可愛い。
テーマパークなので、日常では撮れない写真を撮るのも楽しみの一つだが、生憎涼夏の髪についているカチューシャは目玉だ。特に作品が好きというわけでもないのに、何故それを選んだのかは謎だが、涼夏らしいと言えば涼夏らしい。
列にはハリーポッターの特徴的な制服のコスプレをした人が何人かいる。ああいう格好なら写真も映えたが、お高そうだ。
念のためスマホで検索してみたら、今つけているカチューシャより安く売っていた。大量生産しても売れる理由の一つがこのパークなのは間違いないだろう。作品を知らない私でも、ちょっと着てみたい。
「次はコスプレして来るのもいいかもね」
私がそう提案すると、3人はいかかさ驚いた顔をして頷いた。
「賛成だけど、チサらしくない発言だった」
「そう? 私、お祭り好きだけど」
「もっと感情を表に出して」
「わーい、わくわく」
涼夏のように腕をわくわくさせたら、そっと視線を逸らされた。あんまりだ。
初めてのユニバを、もちろん全力で楽しんでいる。どう楽しめばいいのかはまだよくわからず、全員空回りしている感もあるが、4人一緒ならそれもまたいい思い出になるだろう。
次のFJも楽しみだし、もしかしたら奈都に押し切られて、フライング・ダイナソーにも乗ることになるかも知れない。絢音さえ大丈夫なら、私はもう乗ってみてもいい心境になっている。怖くても死ぬことはないだろう。
パークに来て、まだ乗り物一つしか乗っていない。効率よく回るのは素人には難しいかも知れないが、私たちなりに存分に楽しんで帰ろう。
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