ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
312 / 381

第64話 京都 5

しおりを挟む
 当初絢音と、涼夏らしいスポットとはどこかと話していたが、清水坂は私が考えていたより遥かに若者向けのオシャレスポットだった。
 食べ歩き的にはシュークリームやバームクーヘン、いちご飴、フルーツ大福、団子に饅頭、何故かきゅうりと揃っており、ファンシーなキャラクターショップ、多種多様な土産物屋、和菓子の老舗、もちろん八つ橋も買えるし、湯豆腐、蕎麦屋、茶わん坂にもあったような陶磁器の店やお茶屋さんと、新旧入り混じってカオスな状態になっている。
「これはすごいな。お店のテーマパークだ」
 涼夏が目を輝かせるが、お店のテーマパークというのは若干違和感のある表現だ。
「アウトレットモール的な響き」
「大型ショッピングセンターもお店のテーマパークかな」
「行こう、父さんは帰ってきたよ」
 口々に感想を述べると、涼夏が「それはいい」とばっさり切って歩き始めた。
 とにかく何かお腹に入れようと、みたらし団子を買って食べる。普通のみたらしときなこの団子の2本食べたら、それなりにお腹が満たされた。
 さらに生八つ橋を一通り試食して、涼夏がいくつか買うのを見届けてから、抹茶のスムージー的なものを飲み、豆腐的なソフトクリームとバームクーヘンを食べたらお腹がいっぱいになった。
 涼夏はそこにさらに抹茶大福を食べて動けなくなっていた。
「余は満足した。京都を堪能した」
「まだお昼だから。三年坂を降りていくよ」
 絢音が涼夏の手を引きながら、清水坂を右に折れて細い石段を下る。ここも観光客でひしめき合い、通りには京都らしいショップが建ち並んでいた。
「三年坂は転ぶと3年で死ぬみたいな話もあるけど、それは全然関係なくて、産婦さんが安産を祈願しながら登る坂だよ」
 絢音がガイドを再開する。確かに産寧坂と書いてあったので、それっぽい響きだ。
「産婦御社に虫散々闇に鳴くやつだな」
 涼夏がうんうんと頷くと、絢音が「それだね」といかにもテキトーに頷いた。
「三年坂は東山八坂の一つで、八坂神社に坂の神が祭られてる」
「一年坂、二年坂、三年坂、四年坂、五条坂」
 奈都が指折り数える。一年坂と四年坂は聞いたことがない。そもそも本当に8つもあるのだろうか。
「二年坂はこれから行くけど、産寧坂が三年になったから、そこに続く坂ってことで、二年坂になったよ」
「転ぶと2年で死ぬと」
「零年坂は転ぶと即死する」
「暗殺に使えそう」
 くだらない話をしながら二年坂を右手にスルーして、八坂の塔までやってきた。写真でよくみる立派な五重塔だ。拝観するにはお金がかかるが、とても大きいので西側から普通に全景が見られる。
「この塔は聖徳太子の命令を受けて、当時の大工さんが建てたって言われてる」
「聖徳太子って実在したの?」
「諸説あるね」
 諸説あるというのは実に便利な言葉だ。今度奈都に好きか聞かれたら使ってみよう。
 この八坂の塔から西に少し歩くと、目的地の一つである八坂庚申堂がある。境内は広くないが、くくり猿がたくさん吊るされた、フォトスポットとしても有名なお寺だ。
 写真を撮る順番を待つ間に、涼夏がくくり猿とは何かという、根本的な質問をした。私も知らないので絢音を見ると、絢音はもちろん知っていると頷いた。
「手足をくくられた猿だね。私も涼夏の手足をくくりたい」
「くくってどうするの?」
「いたずらする」
「猿に?」
「涼夏に」
 話が噛み合っていない。奈都が何か言いたげに私の方を見たので、そっと距離を置いた。どうもこの世界には、友達の手足をくくりたい人間が多いようだ。
 二年坂に戻り、高台寺へ抜ける。ここまで来ると少し人混みも落ち着いた。若者向けの店も減ったし、お店のテーマパークはここまでだ。
「ここからオールド京都だね。中には入らないけど、高台寺に上がっていくよ」
 絢音が先導して階段を上がる。広い駐車場の右手に、何やら巨大な仏像が顔だけ覗かせていた。
「霊山観音だね。京都で一番大きい観音像とかなんとか」
 絢音がそう言うと、涼夏がせっかくだからと手を合わせた。私も健康祈願をしたが、三人が願い終えてから絢音がにっこりと笑った。
「慰霊施設だから、願い事を言われても困るかもね」
「先に言ってよ!」
 三人の突っ込みが綺麗に重なって、絢音が可笑しそうに顔を綻ばせた。
 高台寺は中に入らないとこれと言って見るものはなかったが、外に牛がいたので撫でておいた。東山路傍の触れ仏という、触れる仏様や仏具の一つらしい。他にも、ねねの道沿いに大黒天や布袋の像などがあるようだ。
 みんなでマニ車を回してから、涼夏が17歳の1年を占うべくおみくじを引いた。随分と期間が長いので悪い内容だったらと心配したら、案の定末吉で涼夏が無念そうに首を横に振った。
「今年はもうおしまいだ。大人しく生きよう」
 悲しそうにそう言ったが、内容は読むとそれほど悪くなかった。願い事も時間はかかるが叶うし、待ち人は遅いけど来る。学問は困難とのことだが、努力しろと書いてあるので、努力すればきっと大丈夫だろう。
「出産が安産だから、今年もイマジナリーベイベーをどんどん産んでいこうと思う!」
 涼夏が元気にそう言った。少し頭がおかしいようだが、病気は気長に養生すれば治るとのことなので、少しずつ快方に向かってくれたらと思う。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...