ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

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番外編 TRPG 序章(1)

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番外編ですが、『沖縄』に匹敵するボリュームで、『キタコミ!』7巻のクライマックスになります。
どうしても4人で剣と魔法のファンタジーがやりたかった作者の趣味全開の話ですが、お楽しみいただければと思います。

※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

  *  *  *

 帰宅部とは、広義には部活動をしていない生徒の総称だが、私たちは放課後の時間に何かしら充実した活動をする集まりと位置付けている。
 奈都には「遊んでるだけじゃん」と揶揄されるが、絢音とは勉強していることも多い。もっとも、大半が遊びなのは否定できない。全力で遊ぶのも大変なのだが、奈都にはまるで理解してもらえない。
 2年になってからは、インドアの遊び、特に私の家で過ごす頻度が増えた。野阪家は元々両親が共働きの上、帰ってくる時間も遅いことが多いので、友達に対していつでも門戸が開かれていたが、たまに1時間チャレンジがしたくなった時くらいにしか使っていなかった。
 回数が増えた理由は大きく3つあって、1つは今さらだが外で何かするより安いこと。カフェに入って使うお金を思えば、交通費を折半して、コンビニでケーキを買ってもまだお釣りが来る。
 それから、動画チャンネルを作ったこと。動画作りはもちろん、自分のチャンネルを作ったことで、他の動画もよく見るようになった。一緒に素材を探したり、あれこれ研究するのも楽しい。
 最後に、部屋で出来る遊びが増えたこと。主にボードゲームだが、オンラインゲームで遊ぶ時もある。涼夏が古いタブレットを入手したのも大きい。親のお古をもらったらしいが、重たい処理を走らせない限り十分実用に足る性能だ。
 ちなみに、母親ではなく、父親からもらったそうだ。両親が離婚して母親と暮らしている涼夏が、父親の話をすることは基本的にはない。私たちも話題に出さないようにしているが、私たちが思うよりは交流があり、関係も良好なようだ。
 他には、1時間チャレンジは継続して行っている。これはもう今さらなので、特に言及すべき点はない。スキンシップは帰宅部の伝統だ。
 その日も絢音と30分ほど1時間チャレンジをしてから、小さなテーブルを挟んでお菓子を開けた。
「30分しかしない1時間チャレンジって、チャレンジ失敗ってこと?」
 私が時計を見ながらそう言うと、絢音はうっとりと目を細めた。
「私はまだまだしててもいいけど。むしろメテオラと入れ替わる」
「あれ、抱いて寝てないし、そもそも月単位で触ってない」
「友達が出来た途端これだ」
 絢音が唇を尖らせる。メテオラ目線かわからないが、中学時代もぬいぐるみに友情を求めたことはない。
 教科書を開いて宿題と予習をしていると、スマホが音を立てた。涼夏かと思って見ると、奈都からだった。待ち受けに「会いたい……」と表示されている。
「なんだこれは」
 困惑しながらテーブルに置くと、絢音がくすくすと笑った。
「わかるよ。私も四六時中千紗都に会いたい」
「友達に会いたい気持ち自体はわかる」
 とりあえず「そうか」と送ると、すぐに「冷たい。氷結美乳だ」と返ってきた。暇なのだろうか。
 部活の合間かと思ったら、早く終わったので、状況確認のメールとのこと。最近はこういうことも増えた。
 少し前まで、私とは毎朝会っているから、学校ではクラスや部活の子と過ごしたいと言っていた。しかし、結局帰宅部員との交流の方が大事という、私からしたら今さらな結論に辿り着いたらしい。
 絢音と部屋で勉強してるから、帰りに寄るよう送ると、「勉強はしたくないけど寄る。着く前に勉強は終わって」と、我が儘な返事が届いた。
 元々そろそろ遊ぼうと思っていたので、教科書を片付ける。絢音がジュースのグラスに手を伸ばしながら言った。
「千紗都さん、テーブルトークはご存知?」
 唐突な振りだが、丁度私も何をして遊ぼうか考えていたところだ。
「名前はもちろん」
 TRPGは文字通りトークを主体としたロールプレイングゲームだ。様々な世界とルールがあり、プレイヤーは自分が作ったキャラクターになり切って、ゲームマスターが用意したシナリオの攻略を目指す。非対称のボードゲームとは異なり、あくまで協力ゲームだ。GMはプレイヤーが楽しくクリア出来ることを目的としているし、プレイヤーもGMを困らせるような行動はするべきではない。
 ボードゲームについて調べていると時々目にして、実に帰宅部向きの遊びだとは思っていたが、GMの負荷が大きいこともあって手を出していなかった。
「とうとうTRPGに挑戦してみる?」
 テーブルの上に無造作に置かれた手に、そっと自分の手を重ねると、何か「私と一緒に住んでみる?」とでも誘ってそうな絵になった。絢音がくすっと笑って頷いた。
「IKOIKOライブも終わったし、次の挑戦をしてみるのもいいなぁと」
「すごいバイタリティだ」
「こっちが主戦場だから」
 絢音が指を絡めながら微笑んだ。
 IKOIKOライブとは、IKOIKOというカフェで開かれたオープンマイクのライブイベントで、自分たちの親世代が多く参加する中、絢音たちも古い曲を引っさげて参加した。色々あって絢音の父親も参加することになり、親の前で微妙に居心地が悪そうな絢音が可愛かった。
 そのライブも無事に終わり、時間も出来たのでTRPGに挑戦してみようということだ。自分から言い出したということは、絢音がルールを読んでGMをする気があるのだろう。
「何かやりたいゲームはあるの?」
「特には。漠然とTRPGに挑戦したくなっただけ。千紗都は?」
「私も詳しくないけど、どうせロールプレイするなら、非日常の方が面白そう」
 タブレットを置いてインターネットでオススメのTRPGを調べると、多くが中世ヨーロッパ風ファンタジーだった。中にはホラーやサイバーパンク、巨人の世界や小人の世界といったものもあるが、初心者4人には敷居が高そうである。他には、アニメや小説を舞台にした作品もあるが、元の作品を知らないと楽しめないだろう。
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