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番外編 TRPG 1(1)
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※今回、話の切れ目ではないところで切っています。
* * *
はじめに少し、私たちの話をしよう。
私とスズカ、ナツ、アヤネの4人は、ユナの村で生まれ育った幼馴染である。
ユナの村はルーファスの北方に位置する「緑の森」という広大な森の中にある。村といっても人口は400人ほどで、なかなかの規模だ。
森は緑に決まっているが、森と遺跡の国ルーファスには特に有名な7つの森があり、「赤の森」や「紫の森」など、色の名前が付けられている。「緑の森」もその一つだ。
ルーファスは森の他に遺跡も多いが、それはルーファスに限らない。例えば隣国ハークゲルトは、水と遺跡の国と呼ばれている。
千年前に栄えた王国の遺跡が各地に点在し、今でもたくさんの宝石や魔宝石が見つかっている。もちろん、今では失われた技術で作られた武器やアイテムも発見され、それらを求めて遺跡に挑む冒険者は多いし、そんな冒険者を狙って待ち構えている山賊や盗賊も同じくらい多い。
特にルーファスでは、5年前から治安が悪化して、賊の類が蔓延るようになった。私たちもここ数年は、せいぜい森の近くのリックターの港町に行くくらいしか、森から出ていなかった。
そんな私たちは今、4人で冒険者のパーティー「キタクブ」を組んで、旅をしている。発端は半年前、16歳になったナツに縁談の話が来たことだった。
これはユナの村の慣習で、16歳までに特定の異性の相手がいなかったら、親親族知人隣人が、どうにかして相手を見つけて連れてくる。ナツはそれを嫌がったし、次は我が身だと相談した結果、4人で村を逃げ出した。
幸いにも、私たちは戦うことができた。森に棲む動物や魔物と戦うために弓や剣を覚え、確執のあるエルフとの戦いに備えて精霊スペルも習得している。ユナの女が全員そうというわけではなかったが、アヤネが幼い頃から武芸を教わっていたこともあり、私たちも一緒に学ばせてもらった。
親としては強くなることを喜んでいたが、こうなった今となっては後悔しているかもしれない。何にしろ、当分村に戻るつもりはない。
そうして私たちは冒険者になった。冒険者は単に宣言すればなれるものではなく、冒険者ギルドで登録する必要がある。そこでまずリックターに行き、必要なお金を支払い、契約をして、冒険者という身分を得た。身分といっても、一般市民にはならず者と大差ないが、一応国から正式に認められている職業である。
冒険者の役目は主に2つ。1つは市民の困り事の解決で、依頼は冒険者ギルドや、ギルドに登録された酒場などに持ち込まれ、貼り出されたり、直接マスターから打診される。
もう1つは遺跡の探索で、危険な遺跡から貴重なアイテムを持ち帰り、国の繁栄に貢献することである。単に遺跡荒らしをして宝物を持ち帰り、売り捌くだけだが、物は言いようだ。何にしろ、国から認められた仕事なので、胸を張って出来るのは有り難い。
冒険者登録をした私たちは、ユナの村から近いリックターの町を早々に出て、「赤の森」を目指した。ここは危険な魔物がおらず、比較的初心者に優しいとされている遺跡がある。
もちろんその分、掘り尽くされてもいるのだが、運が良ければ今でも時々貴重な宝石やアイテムが見つかることがある。どんな仕組みか、一定期間で遺跡の構造が変化することも確認されており、私たちも期待しながら挑戦した結果、大きな魔宝石を見つけることが出来た。まさにビギナーズラックというやつだ。
私たちには魔宝石を扱うスキルはないし、お金も心許なかったので、すぐに売ってお金に変えた。この売買も冒険者ギルドが代行している。若干レートは悪いが、騙される心配がないので、安心を選んだ。
それからひと月ほど「赤の森」を探索したが、そんな幸運は二度は続かなかった。武器を買ったこともあって再びお金が怪しくなり、私たちは次に「紫の森」を目指すことにした。森で生まれ育ったので、全員が森には詳しい。ひとまず7つの森を巡ろうと話しているが、遺跡探索だけで食べていけるほど、冒険者は甘くない。
基本的には依頼を解決し、信頼を得て、名前を売って、遺跡探索はその中で行うのがよい。ギルドでもそう教わったが、小娘4人のパーティーに依頼をくれる依頼者などいるだろうか。
「まあでも、チェスターに着いたら、森に挑む前に依頼を受けたいね」
夕方、前方の空はすでに赤く、右手に広がる森は鬱蒼と茂って、不気味に佇んでいる。私たちには慣れたものだが、普通の旅人なら足を早めたくなるだろう。
もちろん、私たちも出来れば今日中に着きたい。後1時間くらいだろうか。
「まず風呂だ。そろそろお風呂に入らないと、私は死ぬ」
スズカがげんなりした顔でそう言った。前の宿場町を出たのは2日前。昨日は野宿だったが、不幸なことに雨に降られた。全身どろどろで気持ちが悪い。暑すぎる季節ではないが、涼しい季節でもない。歩き続けて汗もひどく、まずお風呂というのは私も同意だ。
「そろそろ宿代も怪しくなってきたし、お金が尽きたら冒険者っておしまい? ユナに戻ってお見合いルート?」
ナツが残念そうに、しかしどこか楽しそうに首を振った。アヤネが穏やかに微笑む。
「女同士で結婚する?」
「求められてるのは子供だからなぁ」
「人類の繁栄には必要だね」
「人類の滅亡が先か、女同士で子供が産めるようになるのが先か」
スズカが真顔で呟いたが、どう考えても前者だろう。
どういう組み合わせで結婚しようか喋っていると、不意に前方から怒声のようなものが聴こえた。私は風と話せるから間違いない。そう訴えると、スズカが「私にも聴こえたから」と呆れたように言った。
内容にもよるが、危険にはまず首を突っ込むのが冒険者の定石だ。名目上は人助けである。
* * *
はじめに少し、私たちの話をしよう。
私とスズカ、ナツ、アヤネの4人は、ユナの村で生まれ育った幼馴染である。
ユナの村はルーファスの北方に位置する「緑の森」という広大な森の中にある。村といっても人口は400人ほどで、なかなかの規模だ。
森は緑に決まっているが、森と遺跡の国ルーファスには特に有名な7つの森があり、「赤の森」や「紫の森」など、色の名前が付けられている。「緑の森」もその一つだ。
ルーファスは森の他に遺跡も多いが、それはルーファスに限らない。例えば隣国ハークゲルトは、水と遺跡の国と呼ばれている。
千年前に栄えた王国の遺跡が各地に点在し、今でもたくさんの宝石や魔宝石が見つかっている。もちろん、今では失われた技術で作られた武器やアイテムも発見され、それらを求めて遺跡に挑む冒険者は多いし、そんな冒険者を狙って待ち構えている山賊や盗賊も同じくらい多い。
特にルーファスでは、5年前から治安が悪化して、賊の類が蔓延るようになった。私たちもここ数年は、せいぜい森の近くのリックターの港町に行くくらいしか、森から出ていなかった。
そんな私たちは今、4人で冒険者のパーティー「キタクブ」を組んで、旅をしている。発端は半年前、16歳になったナツに縁談の話が来たことだった。
これはユナの村の慣習で、16歳までに特定の異性の相手がいなかったら、親親族知人隣人が、どうにかして相手を見つけて連れてくる。ナツはそれを嫌がったし、次は我が身だと相談した結果、4人で村を逃げ出した。
幸いにも、私たちは戦うことができた。森に棲む動物や魔物と戦うために弓や剣を覚え、確執のあるエルフとの戦いに備えて精霊スペルも習得している。ユナの女が全員そうというわけではなかったが、アヤネが幼い頃から武芸を教わっていたこともあり、私たちも一緒に学ばせてもらった。
親としては強くなることを喜んでいたが、こうなった今となっては後悔しているかもしれない。何にしろ、当分村に戻るつもりはない。
そうして私たちは冒険者になった。冒険者は単に宣言すればなれるものではなく、冒険者ギルドで登録する必要がある。そこでまずリックターに行き、必要なお金を支払い、契約をして、冒険者という身分を得た。身分といっても、一般市民にはならず者と大差ないが、一応国から正式に認められている職業である。
冒険者の役目は主に2つ。1つは市民の困り事の解決で、依頼は冒険者ギルドや、ギルドに登録された酒場などに持ち込まれ、貼り出されたり、直接マスターから打診される。
もう1つは遺跡の探索で、危険な遺跡から貴重なアイテムを持ち帰り、国の繁栄に貢献することである。単に遺跡荒らしをして宝物を持ち帰り、売り捌くだけだが、物は言いようだ。何にしろ、国から認められた仕事なので、胸を張って出来るのは有り難い。
冒険者登録をした私たちは、ユナの村から近いリックターの町を早々に出て、「赤の森」を目指した。ここは危険な魔物がおらず、比較的初心者に優しいとされている遺跡がある。
もちろんその分、掘り尽くされてもいるのだが、運が良ければ今でも時々貴重な宝石やアイテムが見つかることがある。どんな仕組みか、一定期間で遺跡の構造が変化することも確認されており、私たちも期待しながら挑戦した結果、大きな魔宝石を見つけることが出来た。まさにビギナーズラックというやつだ。
私たちには魔宝石を扱うスキルはないし、お金も心許なかったので、すぐに売ってお金に変えた。この売買も冒険者ギルドが代行している。若干レートは悪いが、騙される心配がないので、安心を選んだ。
それからひと月ほど「赤の森」を探索したが、そんな幸運は二度は続かなかった。武器を買ったこともあって再びお金が怪しくなり、私たちは次に「紫の森」を目指すことにした。森で生まれ育ったので、全員が森には詳しい。ひとまず7つの森を巡ろうと話しているが、遺跡探索だけで食べていけるほど、冒険者は甘くない。
基本的には依頼を解決し、信頼を得て、名前を売って、遺跡探索はその中で行うのがよい。ギルドでもそう教わったが、小娘4人のパーティーに依頼をくれる依頼者などいるだろうか。
「まあでも、チェスターに着いたら、森に挑む前に依頼を受けたいね」
夕方、前方の空はすでに赤く、右手に広がる森は鬱蒼と茂って、不気味に佇んでいる。私たちには慣れたものだが、普通の旅人なら足を早めたくなるだろう。
もちろん、私たちも出来れば今日中に着きたい。後1時間くらいだろうか。
「まず風呂だ。そろそろお風呂に入らないと、私は死ぬ」
スズカがげんなりした顔でそう言った。前の宿場町を出たのは2日前。昨日は野宿だったが、不幸なことに雨に降られた。全身どろどろで気持ちが悪い。暑すぎる季節ではないが、涼しい季節でもない。歩き続けて汗もひどく、まずお風呂というのは私も同意だ。
「そろそろ宿代も怪しくなってきたし、お金が尽きたら冒険者っておしまい? ユナに戻ってお見合いルート?」
ナツが残念そうに、しかしどこか楽しそうに首を振った。アヤネが穏やかに微笑む。
「女同士で結婚する?」
「求められてるのは子供だからなぁ」
「人類の繁栄には必要だね」
「人類の滅亡が先か、女同士で子供が産めるようになるのが先か」
スズカが真顔で呟いたが、どう考えても前者だろう。
どういう組み合わせで結婚しようか喋っていると、不意に前方から怒声のようなものが聴こえた。私は風と話せるから間違いない。そう訴えると、スズカが「私にも聴こえたから」と呆れたように言った。
内容にもよるが、危険にはまず首を突っ込むのが冒険者の定石だ。名目上は人助けである。
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