ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
322 / 381

番外編 TRPG 1(2)

しおりを挟む
※(1)からそのまま繋がっています。

  *  *  *

 果たして街道の先で、小さな人たちが盗賊らしき6人組に取り囲まれていた。遠目には子供に見えたが、ドワーフのようだ。もちろん、知識としては知っているが、見るのは初めてだ。ユナはもちろん、リックターにもいなかったし、冒険者ギルドでも見たことがなかった。
 盗賊勢はそれほど強くはなさそうで、ドワーフの3人も気丈に武器を掲げている。彼らが戦えるのなら、人数的にもむしろ優位に立てる。
「はいはい、喧嘩はやめて。仲裁に来たよ」
 駆け付けながらスズカが声を上げた。盗賊たちは一瞬怯んだが、私たちを見て余裕そうに笑った。
「若い女が冒険者ごっこか? 生け捕りにして慰めに使わせてもらうか」
「まあ、女だと舐めてもらった方が楽ではある」
「今夜たっぷり舐めさせてもらおう」
 下品な笑みを浮かべて、男たちが向かってくる。ドワーフの3人がかたじけないと言いながら戦線に加わったので、私たちの相手は4人でいいだろうか。
 武器で戦えるアヤネを先頭にして、一応戦える私とナツがその脇を固める。取り囲まれているわけではないのなら、スズカの背後は心配しなくてもいいだろう。
 まずは精霊スペルの一番の基本にして、森の民である私たちが何千回と使っている足止めのスペルを使う。大地の精霊の力を借りて、男たちの足に蔦が絡まり、その動きが鈍る。
「精霊使いか!」
 怒鳴りながら男の一人が剣を振り下ろした。アヤネがそれを受け止めて、返す刀で斬りつける。
 ナツが短剣で応戦する隣で、私は光の精霊の力を借りて魔法攻撃を続けた。スズカのマナスペルで、アヤネの剣が光を帯び、次に私たちの防具が強化される。乱戦なので攻撃魔法は避けたようだ。戦闘後に回復をお願いできるくらい、温存しておいてほしい。
 楽勝かと思ったが、意外とそうでもなかった。むしろ普通に強かった。
「こいつら、賊の動きじゃない!」
 ナツが短剣を振り回しながらそう言ったが、そう言いたかっただけだろう。幸か不幸か、賊の動きを語れるほど、私たちは賊と対峙していない。
 統制された動きと、素人の動きではない剣技に、大苦戦した末、どうにか撤退させることに成功した。もしも相手が捨て身で、殺す気で向かってきていたら、こっちもただでは済まなかったかもしれない。殲滅が目的ではないのなら、退路を残しておくのも大事だ。
 魔法で傷を治して、ドワーフたちにも魔法を使おうとしたら、「いや、結構」と断られた。
「わしらは、この程度の傷ならすぐ癒える。気持ちだけもらっておく」
「それなら」
 ドワーフは魔法が使えない分、身体能力が高く、また回復能力も人間やエルフより格段に高い。実際、傷は大したことなさそうだし、大丈夫だろう。
「ドワーフさんは旅人? それとも、この辺りの人?」
 ナツが尋ねる。荷物の量からして、旅をしている感じではない。チェスターに買い出しに来た帰りに襲われたというところか。
 ドワーフは私の推測通りのことを言ってから、苦々しく吐き捨てた。
「あやつらは、1年ほど前に森に住み着いた連中で、わしらの村はもちろん、チェスターの連中も困っておる」
「討伐隊とかは? 冒険者の出番?」
「町の守備は格段に上げられたが、町の外には及んでおらん。冒険者は依頼がなければ動かない。それに、戦った通り、あやつらなかなか強い。殺してまで奪う気はなさそうだし、ハークゲルトの人間かもしれん」
「あー」
 隣国の名前が出て、私は曖昧な相槌を打った。ドワーフの言う「ハークゲルトの人間」とは、「ハークゲルトの元兵士」という意味だ。
 5年前、ハークゲルトで内乱があり、当時の国王ロイモンが殺されるという事件が起きた。内戦と言ってもいい。
 国は乗っ取られ、ルーファスにはハークゲルトからの難民が溢れ返った。
 ルーファスはハークゲルトと同盟関係にあったが、受け入れには限界があり、結果として治安の悪化を招いた。今は断交して、国境を越えられるのは商人と冒険者だけになっている。
「もしそうなら、悲しいことだ」
 スズカが妙に芝居調にそう言って、無念そうに首を振った。ドワーフが深くため息をついた。
「まあ、そうは言っても、こっちも命を脅かされてはたまらん。そろそろ村をあげて戦う時かと思うが、人間が手伝ってくれたらなぁ」
 通りすがりの私たちに期待する意図はなかったようで、ドワーフたちはすでに日の暮れた空を見上げて、もう一度礼を言って去っていった。
 私たちもチェスターへ急ぐ。とにかくお風呂に入りたい。そして、名物のウサギ鍋が食べたい。まずはそれからだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...