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番外編 TRPG 1(2)
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※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
果たして街道の先で、小さな人たちが盗賊らしき6人組に取り囲まれていた。遠目には子供に見えたが、ドワーフのようだ。もちろん、知識としては知っているが、見るのは初めてだ。ユナはもちろん、リックターにもいなかったし、冒険者ギルドでも見たことがなかった。
盗賊勢はそれほど強くはなさそうで、ドワーフの3人も気丈に武器を掲げている。彼らが戦えるのなら、人数的にもむしろ優位に立てる。
「はいはい、喧嘩はやめて。仲裁に来たよ」
駆け付けながらスズカが声を上げた。盗賊たちは一瞬怯んだが、私たちを見て余裕そうに笑った。
「若い女が冒険者ごっこか? 生け捕りにして慰めに使わせてもらうか」
「まあ、女だと舐めてもらった方が楽ではある」
「今夜たっぷり舐めさせてもらおう」
下品な笑みを浮かべて、男たちが向かってくる。ドワーフの3人がかたじけないと言いながら戦線に加わったので、私たちの相手は4人でいいだろうか。
武器で戦えるアヤネを先頭にして、一応戦える私とナツがその脇を固める。取り囲まれているわけではないのなら、スズカの背後は心配しなくてもいいだろう。
まずは精霊スペルの一番の基本にして、森の民である私たちが何千回と使っている足止めのスペルを使う。大地の精霊の力を借りて、男たちの足に蔦が絡まり、その動きが鈍る。
「精霊使いか!」
怒鳴りながら男の一人が剣を振り下ろした。アヤネがそれを受け止めて、返す刀で斬りつける。
ナツが短剣で応戦する隣で、私は光の精霊の力を借りて魔法攻撃を続けた。スズカのマナスペルで、アヤネの剣が光を帯び、次に私たちの防具が強化される。乱戦なので攻撃魔法は避けたようだ。戦闘後に回復をお願いできるくらい、温存しておいてほしい。
楽勝かと思ったが、意外とそうでもなかった。むしろ普通に強かった。
「こいつら、賊の動きじゃない!」
ナツが短剣を振り回しながらそう言ったが、そう言いたかっただけだろう。幸か不幸か、賊の動きを語れるほど、私たちは賊と対峙していない。
統制された動きと、素人の動きではない剣技に、大苦戦した末、どうにか撤退させることに成功した。もしも相手が捨て身で、殺す気で向かってきていたら、こっちもただでは済まなかったかもしれない。殲滅が目的ではないのなら、退路を残しておくのも大事だ。
魔法で傷を治して、ドワーフたちにも魔法を使おうとしたら、「いや、結構」と断られた。
「わしらは、この程度の傷ならすぐ癒える。気持ちだけもらっておく」
「それなら」
ドワーフは魔法が使えない分、身体能力が高く、また回復能力も人間やエルフより格段に高い。実際、傷は大したことなさそうだし、大丈夫だろう。
「ドワーフさんは旅人? それとも、この辺りの人?」
ナツが尋ねる。荷物の量からして、旅をしている感じではない。チェスターに買い出しに来た帰りに襲われたというところか。
ドワーフは私の推測通りのことを言ってから、苦々しく吐き捨てた。
「あやつらは、1年ほど前に森に住み着いた連中で、わしらの村はもちろん、チェスターの連中も困っておる」
「討伐隊とかは? 冒険者の出番?」
「町の守備は格段に上げられたが、町の外には及んでおらん。冒険者は依頼がなければ動かない。それに、戦った通り、あやつらなかなか強い。殺してまで奪う気はなさそうだし、ハークゲルトの人間かもしれん」
「あー」
隣国の名前が出て、私は曖昧な相槌を打った。ドワーフの言う「ハークゲルトの人間」とは、「ハークゲルトの元兵士」という意味だ。
5年前、ハークゲルトで内乱があり、当時の国王ロイモンが殺されるという事件が起きた。内戦と言ってもいい。
国は乗っ取られ、ルーファスにはハークゲルトからの難民が溢れ返った。
ルーファスはハークゲルトと同盟関係にあったが、受け入れには限界があり、結果として治安の悪化を招いた。今は断交して、国境を越えられるのは商人と冒険者だけになっている。
「もしそうなら、悲しいことだ」
スズカが妙に芝居調にそう言って、無念そうに首を振った。ドワーフが深くため息をついた。
「まあ、そうは言っても、こっちも命を脅かされてはたまらん。そろそろ村をあげて戦う時かと思うが、人間が手伝ってくれたらなぁ」
通りすがりの私たちに期待する意図はなかったようで、ドワーフたちはすでに日の暮れた空を見上げて、もう一度礼を言って去っていった。
私たちもチェスターへ急ぐ。とにかくお風呂に入りたい。そして、名物のウサギ鍋が食べたい。まずはそれからだ。
* * *
果たして街道の先で、小さな人たちが盗賊らしき6人組に取り囲まれていた。遠目には子供に見えたが、ドワーフのようだ。もちろん、知識としては知っているが、見るのは初めてだ。ユナはもちろん、リックターにもいなかったし、冒険者ギルドでも見たことがなかった。
盗賊勢はそれほど強くはなさそうで、ドワーフの3人も気丈に武器を掲げている。彼らが戦えるのなら、人数的にもむしろ優位に立てる。
「はいはい、喧嘩はやめて。仲裁に来たよ」
駆け付けながらスズカが声を上げた。盗賊たちは一瞬怯んだが、私たちを見て余裕そうに笑った。
「若い女が冒険者ごっこか? 生け捕りにして慰めに使わせてもらうか」
「まあ、女だと舐めてもらった方が楽ではある」
「今夜たっぷり舐めさせてもらおう」
下品な笑みを浮かべて、男たちが向かってくる。ドワーフの3人がかたじけないと言いながら戦線に加わったので、私たちの相手は4人でいいだろうか。
武器で戦えるアヤネを先頭にして、一応戦える私とナツがその脇を固める。取り囲まれているわけではないのなら、スズカの背後は心配しなくてもいいだろう。
まずは精霊スペルの一番の基本にして、森の民である私たちが何千回と使っている足止めのスペルを使う。大地の精霊の力を借りて、男たちの足に蔦が絡まり、その動きが鈍る。
「精霊使いか!」
怒鳴りながら男の一人が剣を振り下ろした。アヤネがそれを受け止めて、返す刀で斬りつける。
ナツが短剣で応戦する隣で、私は光の精霊の力を借りて魔法攻撃を続けた。スズカのマナスペルで、アヤネの剣が光を帯び、次に私たちの防具が強化される。乱戦なので攻撃魔法は避けたようだ。戦闘後に回復をお願いできるくらい、温存しておいてほしい。
楽勝かと思ったが、意外とそうでもなかった。むしろ普通に強かった。
「こいつら、賊の動きじゃない!」
ナツが短剣を振り回しながらそう言ったが、そう言いたかっただけだろう。幸か不幸か、賊の動きを語れるほど、私たちは賊と対峙していない。
統制された動きと、素人の動きではない剣技に、大苦戦した末、どうにか撤退させることに成功した。もしも相手が捨て身で、殺す気で向かってきていたら、こっちもただでは済まなかったかもしれない。殲滅が目的ではないのなら、退路を残しておくのも大事だ。
魔法で傷を治して、ドワーフたちにも魔法を使おうとしたら、「いや、結構」と断られた。
「わしらは、この程度の傷ならすぐ癒える。気持ちだけもらっておく」
「それなら」
ドワーフは魔法が使えない分、身体能力が高く、また回復能力も人間やエルフより格段に高い。実際、傷は大したことなさそうだし、大丈夫だろう。
「ドワーフさんは旅人? それとも、この辺りの人?」
ナツが尋ねる。荷物の量からして、旅をしている感じではない。チェスターに買い出しに来た帰りに襲われたというところか。
ドワーフは私の推測通りのことを言ってから、苦々しく吐き捨てた。
「あやつらは、1年ほど前に森に住み着いた連中で、わしらの村はもちろん、チェスターの連中も困っておる」
「討伐隊とかは? 冒険者の出番?」
「町の守備は格段に上げられたが、町の外には及んでおらん。冒険者は依頼がなければ動かない。それに、戦った通り、あやつらなかなか強い。殺してまで奪う気はなさそうだし、ハークゲルトの人間かもしれん」
「あー」
隣国の名前が出て、私は曖昧な相槌を打った。ドワーフの言う「ハークゲルトの人間」とは、「ハークゲルトの元兵士」という意味だ。
5年前、ハークゲルトで内乱があり、当時の国王ロイモンが殺されるという事件が起きた。内戦と言ってもいい。
国は乗っ取られ、ルーファスにはハークゲルトからの難民が溢れ返った。
ルーファスはハークゲルトと同盟関係にあったが、受け入れには限界があり、結果として治安の悪化を招いた。今は断交して、国境を越えられるのは商人と冒険者だけになっている。
「もしそうなら、悲しいことだ」
スズカが妙に芝居調にそう言って、無念そうに首を振った。ドワーフが深くため息をついた。
「まあ、そうは言っても、こっちも命を脅かされてはたまらん。そろそろ村をあげて戦う時かと思うが、人間が手伝ってくれたらなぁ」
通りすがりの私たちに期待する意図はなかったようで、ドワーフたちはすでに日の暮れた空を見上げて、もう一度礼を言って去っていった。
私たちもチェスターへ急ぐ。とにかくお風呂に入りたい。そして、名物のウサギ鍋が食べたい。まずはそれからだ。
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