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番外編 TRPG 2(1)
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チェスターの町は、王都シャイードから、ルーファス最北の港町リックターまで延びる街道に点在する宿場町の一つである。
森に近いこともあって、ぐるっと動物除けの柵で取り囲まれているが、街壁や門扉の類はない。
町に着く頃にはすっかり夜になっていた。人気のない通りを歩き、宿を探す。宿場町なので宿は多いのだが、冒険者向けの宿は限られるし、しかもお風呂に入れそうで、あまり高くない宿となると皆無に等しい。
ひとまず値段は諦めて、お風呂がありそうな活気のある宿に入った。冒険者向けの宿は、行商人向けの宿とは違い、酒場を併設していることが多い。冒険者の情報交換に使われたり、依頼主との交渉や商談にも使われる。
部屋はそれなりに空いていたので、多少狭くても安い部屋を借り、見張りを立てて交互に湯浴みした。それから1階の酒場で食事にする。テーブルを囲んで鍋を食べていたら、赤らんだ顔の若者が二人、笑いながら声をかけてきた。若者といっても、私たちより10歳は上だろうか。
「女の子だけのパーティーなの? どこから?」
「リックターから。二人は冒険者は長いの?」
スズカが気楽な調子で応じる。こういう時、ナツは人見知りだし、アヤネはにこにこしながら私とスズカに任せる。あしらってもいいのだが、情報は欲しいし、人の繋がりは大事だ。同じギルドのメンバーに壁を作ってもいいことはない。
「2年くらい? 椅子持ってきていい?」
「情報交換は歓迎するけど、ナンパならお断りだよ?」
「そこで、じゃあいいとは言えんでしょ」
「それはそうだね」
少し4人だけで喋りたい思いもあったが、それはまた部屋ですればいい。情報は大事だ。
二人は5人組のパーティーのメンバーで、他の3人は部屋にいるらしい。二人で飲んでいたが、声をかけずにはいられない美女の集団が入ってきたので、他の冒険者が絡む前に声をかけたとのこと。やはりナンパだ。
「『紫の森』はどう? 遺跡は行った?」
冒険者としての話以外は一切する気がないように、スズカがそう切り出す。二人は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「一応。ただ、タチの悪い連中が遺跡をアジトにしてるから、下手に近付けない」
「あー、噂は聞いた。アジトの場所はわかってるの?」
「転々としてるらしい。向こうも、一網打尽にされるのは嫌だろうし」
森にある遺跡は1つではない。すっかり木々に埋もれてしまったものもあれば、小さく見えて地下に広がっているものなど、様々だ。
それは「赤の森」もそうだったし、故郷の「緑の森」でも同じだった。私たちは冒険者になる前から「緑の森」の遺跡を遊び場にしていたし、探検ごっこで宝石を見つけたこともあった。
プライベートなことを話したがる二人を制して、チャスターの町の状況や、冒険者ギルドのこと、依頼や森の話を聞いて、鍋がなくなったところで席を立った。
お酒は飲んでいない。16歳なので飲んでもいいのだが、メリットとデメリットを天秤にかけた結果、お酒は飲まないことにした。
一度、どんな状態になるのかを試すために二人ずつ飲んでみたのだが、確かにふわふわと気持ち良くはなるが、危険だと判断した。冒険者は常に危険と隣り合わせの生活をしている。命取りになるようなことはするべきではない。
部屋に戻ると、疲れていたのでさっさと寝ることにした。今日はたくさん歩いたし、戦闘もあった。昨日は野宿で寝不足だったし、ベッドに転がり込むとすぐに深い眠りに落ちた。
森に近いこともあって、ぐるっと動物除けの柵で取り囲まれているが、街壁や門扉の類はない。
町に着く頃にはすっかり夜になっていた。人気のない通りを歩き、宿を探す。宿場町なので宿は多いのだが、冒険者向けの宿は限られるし、しかもお風呂に入れそうで、あまり高くない宿となると皆無に等しい。
ひとまず値段は諦めて、お風呂がありそうな活気のある宿に入った。冒険者向けの宿は、行商人向けの宿とは違い、酒場を併設していることが多い。冒険者の情報交換に使われたり、依頼主との交渉や商談にも使われる。
部屋はそれなりに空いていたので、多少狭くても安い部屋を借り、見張りを立てて交互に湯浴みした。それから1階の酒場で食事にする。テーブルを囲んで鍋を食べていたら、赤らんだ顔の若者が二人、笑いながら声をかけてきた。若者といっても、私たちより10歳は上だろうか。
「女の子だけのパーティーなの? どこから?」
「リックターから。二人は冒険者は長いの?」
スズカが気楽な調子で応じる。こういう時、ナツは人見知りだし、アヤネはにこにこしながら私とスズカに任せる。あしらってもいいのだが、情報は欲しいし、人の繋がりは大事だ。同じギルドのメンバーに壁を作ってもいいことはない。
「2年くらい? 椅子持ってきていい?」
「情報交換は歓迎するけど、ナンパならお断りだよ?」
「そこで、じゃあいいとは言えんでしょ」
「それはそうだね」
少し4人だけで喋りたい思いもあったが、それはまた部屋ですればいい。情報は大事だ。
二人は5人組のパーティーのメンバーで、他の3人は部屋にいるらしい。二人で飲んでいたが、声をかけずにはいられない美女の集団が入ってきたので、他の冒険者が絡む前に声をかけたとのこと。やはりナンパだ。
「『紫の森』はどう? 遺跡は行った?」
冒険者としての話以外は一切する気がないように、スズカがそう切り出す。二人は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「一応。ただ、タチの悪い連中が遺跡をアジトにしてるから、下手に近付けない」
「あー、噂は聞いた。アジトの場所はわかってるの?」
「転々としてるらしい。向こうも、一網打尽にされるのは嫌だろうし」
森にある遺跡は1つではない。すっかり木々に埋もれてしまったものもあれば、小さく見えて地下に広がっているものなど、様々だ。
それは「赤の森」もそうだったし、故郷の「緑の森」でも同じだった。私たちは冒険者になる前から「緑の森」の遺跡を遊び場にしていたし、探検ごっこで宝石を見つけたこともあった。
プライベートなことを話したがる二人を制して、チャスターの町の状況や、冒険者ギルドのこと、依頼や森の話を聞いて、鍋がなくなったところで席を立った。
お酒は飲んでいない。16歳なので飲んでもいいのだが、メリットとデメリットを天秤にかけた結果、お酒は飲まないことにした。
一度、どんな状態になるのかを試すために二人ずつ飲んでみたのだが、確かにふわふわと気持ち良くはなるが、危険だと判断した。冒険者は常に危険と隣り合わせの生活をしている。命取りになるようなことはするべきではない。
部屋に戻ると、疲れていたのでさっさと寝ることにした。今日はたくさん歩いたし、戦闘もあった。昨日は野宿で寝不足だったし、ベッドに転がり込むとすぐに深い眠りに落ちた。
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