330 / 381
番外編 TRPG 5(2)
しおりを挟む
※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
戦うのなら、この配置はよくない。範囲魔法で一網打尽にされる危険を回避するために、すぐにアヤネとナツが斬りかかった。私は壁の上の男に石つぶてを放つ。スペルなので当たり前だが、直撃して男は壁の向こう側に落ちていった。倒してはいないだろうが、戻ってくるまで時間が稼げる。その数十秒が大事だ。
2対2で斬り結ぶ後ろから、マナ使いの両手から強烈な稲妻が私に向かって迸った。スズカがまだ使えない高位の攻撃魔法だ。
かなり痛かったが、どうにか堪えた。こうなると、私に使ってくれたのは有り難い。倒れさえしなければ、スペルで怪我を治せる。しかも精神力も限りなく満タンだ。
スズカはあくまで攻撃魔法は使わずに、アヤネの武器を強化した。ナツが一人を足止めしてくれている間に、アヤネが一人を打ち倒す。今のところ、1対1で戦って勝てるのはアヤネだけだ。もっとも、それもスズカの補助があってのことで、アヤネも後ろに私たちがいるから全力で戦える。
15年を超える付き合いだ。冒険者としての経験不足はチームワークで補う。
壁から落ちた男が戦線に現れたが、再び私の石つぶてとスズカの放ったエネルギーの矢を受けて動かなくなった。ほとんど同時にアヤネが斬り結んでいた相手を打ち倒したが、それによって前に壁がなくなり、マナ使いの稲妻をまともに浴びる。
アヤネが地面に倒れたが、スズカの魔法の防御もあるので命は大丈夫だろう。
私は剣を引き抜いて走った。ナツの隣をすり抜けて、マナ使いに斬りかかる。
手応えはあったが、マナ使いは踏みとどまって、三度目の稲妻を放った。ギリギリ堪えたが、私ももう限界だ。ただ、さすがにもうマナ使いもスペルは使えまい。
スズカの放ったエネルギーの矢がナツの相手に突き刺さり、前向きに倒れ込んだ。ナツがすぐにマナ使いに斬りかかる。
これで勝ったと思ったが、剣を振り下ろした先に使い魔の猫が躍り出て、ナツは寸前で剣を止めた。男がニヤッと笑って、四度目の稲妻を放った。
いくらなんでも、そんなに精神力がもつはずがない。魔宝石か何かを使っていたに違いない。誤算だ。
既に斬り合いで怪我をしていたナツは、アヤネ同様完全にやられてしまった。無傷のスズカが私に回復魔法をかける。
マナ使いも私の貧弱な一撃を受けただけで、ほとんど無傷だ。もし私が倒されたら、マナスキルの低いスズカでは勝てない。
剣を掲げて走る。男が余裕の表情で両手を突き出す。まさかの5回目。それを使われたら、命まで危ない。
相手の方が一瞬速い。諦めかけた刹那、男の足に魔法的な蔦が絡み付き、私の切っ先が男の胸を深々と貫いた。
どうにか勝ちを収めると、まずはただの猫に戻ったトリノアのペットを確保する。魔法で眠らせたいが、それに精神力を使う余裕はない。
無理矢理袋に押し込むと、仲間のもとに急いだ。最後に死力を振り絞って精霊スペルを使ってくれたアヤネが、もうダメだと大の字になって倒れている。
まずはナツを回復させて、スズカがアヤネの傷を癒した。
マナ使いの腰に提げられた袋を漁ると、魔宝石がごろごろ出てきた。魔宝石はその名の通り、普通の宝石とは異なり、魔力を帯びている。効果は様々だが、それがどういうもので、どのように使うかは勉強したマナ使いにしかわからない。
恐らくこの中には、精神力を回復するようなものもあるのだろうが、生憎私たちにはその知識がなかった。
「ちょっと、帰ったらちゃんと魔宝石の勉強する」
スズカが無念そうに言った。高値で売れるし、そんな高価なものを戦闘や冒険のワンシーンで使うことを想定していなかったが、命には代えられない。今だって、もし精神力を回復させる魔宝石があったら、たとえそれが1万ツェルで売れるものだったとしても、ここで使いたい。
周囲では戦闘が続いている。どうやらこの男がこの集団のボスというわけではなかったらしい。
ひとまず戦利品として魔宝石をいただくと、これからどうするか相談した。
「まあ、行きたいけど無理でしょ」
スズカが苦笑いを浮かべる。目を覚ましたナツも、疲れた表情で頷いた。
本当はドワーフたちにも会って、お礼を言うとともに、確かに私たちもここにいたということを証明したい。この盗賊たちの持つ宝石類も気にはなる。それらがすべてあの5人組に持っていかれるのは悔しい。
ただ、そもそも私たちの受けた依頼は猫探しだし、あのエルフが助けてくれなければ、私たちは今頃くまなく舐められていたか、あるいは殺されていただろう。
今こうして袋に入れた魔宝石だけでも、トリノアのお小遣いでくれる依頼料の数倍は価値がある。実力相応に、これ以上欲を出すべきではない。すでに全員満身創痍で、これ以上の戦闘は無理だ。
それに、猫のこともある。もし何らかのミスをして猫を逃がしたり死なせてしまったら、信頼を得るチャンスを失ってしまう。私たちの初めての依頼を、失敗で終わらせるわけにはいかない。
「退こう」
この遺跡にはまた戻ってくる。「赤の森」同様、しばらくはチェスターを拠点にして「紫の森」を探索するつもりだ。焦ることはない。元々この盗賊退治は予定になかったものだ。
夜陰に乗じて、私たちは遺跡を出て森に戻った。背後ではまだ戦いの音や声がしている。
どうかあの5人もドワーフたちも無事でいてほしい。そう願いながら、私たちは静かに遺跡を後にした。
* * *
戦うのなら、この配置はよくない。範囲魔法で一網打尽にされる危険を回避するために、すぐにアヤネとナツが斬りかかった。私は壁の上の男に石つぶてを放つ。スペルなので当たり前だが、直撃して男は壁の向こう側に落ちていった。倒してはいないだろうが、戻ってくるまで時間が稼げる。その数十秒が大事だ。
2対2で斬り結ぶ後ろから、マナ使いの両手から強烈な稲妻が私に向かって迸った。スズカがまだ使えない高位の攻撃魔法だ。
かなり痛かったが、どうにか堪えた。こうなると、私に使ってくれたのは有り難い。倒れさえしなければ、スペルで怪我を治せる。しかも精神力も限りなく満タンだ。
スズカはあくまで攻撃魔法は使わずに、アヤネの武器を強化した。ナツが一人を足止めしてくれている間に、アヤネが一人を打ち倒す。今のところ、1対1で戦って勝てるのはアヤネだけだ。もっとも、それもスズカの補助があってのことで、アヤネも後ろに私たちがいるから全力で戦える。
15年を超える付き合いだ。冒険者としての経験不足はチームワークで補う。
壁から落ちた男が戦線に現れたが、再び私の石つぶてとスズカの放ったエネルギーの矢を受けて動かなくなった。ほとんど同時にアヤネが斬り結んでいた相手を打ち倒したが、それによって前に壁がなくなり、マナ使いの稲妻をまともに浴びる。
アヤネが地面に倒れたが、スズカの魔法の防御もあるので命は大丈夫だろう。
私は剣を引き抜いて走った。ナツの隣をすり抜けて、マナ使いに斬りかかる。
手応えはあったが、マナ使いは踏みとどまって、三度目の稲妻を放った。ギリギリ堪えたが、私ももう限界だ。ただ、さすがにもうマナ使いもスペルは使えまい。
スズカの放ったエネルギーの矢がナツの相手に突き刺さり、前向きに倒れ込んだ。ナツがすぐにマナ使いに斬りかかる。
これで勝ったと思ったが、剣を振り下ろした先に使い魔の猫が躍り出て、ナツは寸前で剣を止めた。男がニヤッと笑って、四度目の稲妻を放った。
いくらなんでも、そんなに精神力がもつはずがない。魔宝石か何かを使っていたに違いない。誤算だ。
既に斬り合いで怪我をしていたナツは、アヤネ同様完全にやられてしまった。無傷のスズカが私に回復魔法をかける。
マナ使いも私の貧弱な一撃を受けただけで、ほとんど無傷だ。もし私が倒されたら、マナスキルの低いスズカでは勝てない。
剣を掲げて走る。男が余裕の表情で両手を突き出す。まさかの5回目。それを使われたら、命まで危ない。
相手の方が一瞬速い。諦めかけた刹那、男の足に魔法的な蔦が絡み付き、私の切っ先が男の胸を深々と貫いた。
どうにか勝ちを収めると、まずはただの猫に戻ったトリノアのペットを確保する。魔法で眠らせたいが、それに精神力を使う余裕はない。
無理矢理袋に押し込むと、仲間のもとに急いだ。最後に死力を振り絞って精霊スペルを使ってくれたアヤネが、もうダメだと大の字になって倒れている。
まずはナツを回復させて、スズカがアヤネの傷を癒した。
マナ使いの腰に提げられた袋を漁ると、魔宝石がごろごろ出てきた。魔宝石はその名の通り、普通の宝石とは異なり、魔力を帯びている。効果は様々だが、それがどういうもので、どのように使うかは勉強したマナ使いにしかわからない。
恐らくこの中には、精神力を回復するようなものもあるのだろうが、生憎私たちにはその知識がなかった。
「ちょっと、帰ったらちゃんと魔宝石の勉強する」
スズカが無念そうに言った。高値で売れるし、そんな高価なものを戦闘や冒険のワンシーンで使うことを想定していなかったが、命には代えられない。今だって、もし精神力を回復させる魔宝石があったら、たとえそれが1万ツェルで売れるものだったとしても、ここで使いたい。
周囲では戦闘が続いている。どうやらこの男がこの集団のボスというわけではなかったらしい。
ひとまず戦利品として魔宝石をいただくと、これからどうするか相談した。
「まあ、行きたいけど無理でしょ」
スズカが苦笑いを浮かべる。目を覚ましたナツも、疲れた表情で頷いた。
本当はドワーフたちにも会って、お礼を言うとともに、確かに私たちもここにいたということを証明したい。この盗賊たちの持つ宝石類も気にはなる。それらがすべてあの5人組に持っていかれるのは悔しい。
ただ、そもそも私たちの受けた依頼は猫探しだし、あのエルフが助けてくれなければ、私たちは今頃くまなく舐められていたか、あるいは殺されていただろう。
今こうして袋に入れた魔宝石だけでも、トリノアのお小遣いでくれる依頼料の数倍は価値がある。実力相応に、これ以上欲を出すべきではない。すでに全員満身創痍で、これ以上の戦闘は無理だ。
それに、猫のこともある。もし何らかのミスをして猫を逃がしたり死なせてしまったら、信頼を得るチャンスを失ってしまう。私たちの初めての依頼を、失敗で終わらせるわけにはいかない。
「退こう」
この遺跡にはまた戻ってくる。「赤の森」同様、しばらくはチェスターを拠点にして「紫の森」を探索するつもりだ。焦ることはない。元々この盗賊退治は予定になかったものだ。
夜陰に乗じて、私たちは遺跡を出て森に戻った。背後ではまだ戦いの音や声がしている。
どうかあの5人もドワーフたちも無事でいてほしい。そう願いながら、私たちは静かに遺跡を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる