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番外編 十五夜(2)
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翌日、無念にも曇っていて、朝から涼夏がしょんぼりしていた。背景に縦線が見える。
「こんなに落ち込んでる涼夏は見たことがない」
「うん。きっと人生で一番残念がってる」
絢音と二人でどう声をかけたものかと話していたら、涼夏が顔を上げて呆れた様子で言った。
「どんなけ落ち込むことがない人生なの、それ」
「名月はなくてもチューチューしようね」
私が慰めるようにそう言うと、絢音が可愛らしく唇を突き出した。
「私もする」
「ここでするわけじゃない」
「もうなんか、そろそろみんなの前でもしていい気がしてきた」
「して来ない。職員室案件だから」
いつも通り一日を過ごしていると、お昼を過ぎた辺りから窓の外が明るくなってきた。元々予報でも曇のち晴れだったが、予定よりも早く晴れそうだ。
帰りには雲一つない天気になり、涼夏も完全復活して元気にガッツポーズをした。
「勝った。チューチューの名月する」
「奇妙な動詞」
「二人がチューチューの名月してる写真、グループに流してね」
今日は帰らなくてはならない絢音が、無念そうにそう言った。他人のキス写真をもらって何が楽しいのかさっぱりわからないが、前から収集しているので送ってあげよう。
絢音と別れてから、涼夏に今日のプランを聞くと、涼夏が「お月見と言えば?」と逆に質問してきた。
「お団子かな?」
「月見バーガーだな」
「お団子が入ってる」
「それはちょっと美味しくなさそうだ」
月見バーガーとは、目玉焼きの入ったハンバーガーで、ハンバーガーショップはもちろん、チェーンのカフェなどでも限定で提供されている。どこかに食べに行くのかと思ったら、涼夏は自分たちで作ると言い出した。
「夜まで時間あるし、夕ご飯がてら自作しよう」
「悪くない試みだね」
今日は遅くなることが約束されていたので、家には夕ご飯は要らないと宣言して出てきた。私の都合だが、千円札が提供されたので、交通費や材料費に充てよう。
恵坂をスルーして久間で乗り換え、涼夏の家の最寄り駅までやってくる。スーパーに寄ってから涼夏の家にお邪魔すると、まだ誰も帰っていなかった。大体いつも、妹、涼夏、母親の順に帰ってくるらしい。涼夏がバイトの日は涼夏が最後だ。
涼夏の部屋に荷物を置くと、まだ時間があるからと、1時間チャレンジをすることにした。いつもは私の部屋でしているので、今日は出張版だ。スカートだけ脱いでベッドの上でごろごろする。
抱き付いてくる涼夏を受け止めて、膝を太ももの間に割り込ませる。肌がすべすべして気持ちいい。
しばらくキスしていたら、涼夏が鼻息を荒くしながら服の中に手を入れてきた。奈都もそうだが、この人たちはベッドの上だと豹変する。私は特に何も変わらないが、二人に言わせると私の方がおかしいらしい。
「でも、絢音も割と平常心を保っている」
制服の上も脱ぎながらそう言うと、涼夏が「何のことだ?」と首を傾げた。
「ベッドの上でも理性的に行動してる」
「内心滾ってるに違いない」
「それを表に出すか出さないかが大事だから。ところで、妹は帰ってこないの?」
「帰ってきたら諦める」
そう言って、涼夏が下着姿で覆いかぶさってきた。諦めるというのは、この1時間チャレンジを諦めるという意味か、それとも姉としての矜持を諦めるという意味か。さすがに前者だろう。
幸いにも妹が帰ってくることはなく、丁度1時間イチャイチャしてから、そろそろハンバーガーを作ろうとベッドを降りた。涼夏は顔を赤くして転がっている。とりあえず写真を撮って、「事後」と添えて絢音に送った。すぐに消してくれると思うが、最悪全世界に公開されても顔は見えないから大丈夫だろう。
「千紗都に写真を撮られた。リベンジポルノに使われる」
涼夏がくすんと鼻をすすりながら、転がっている制服を手に取った。どうかこれからも、何のリベンジも必要のない関係のままでいたい。願掛けするように、そっと涼夏のお尻を撫でた。
「こんなに落ち込んでる涼夏は見たことがない」
「うん。きっと人生で一番残念がってる」
絢音と二人でどう声をかけたものかと話していたら、涼夏が顔を上げて呆れた様子で言った。
「どんなけ落ち込むことがない人生なの、それ」
「名月はなくてもチューチューしようね」
私が慰めるようにそう言うと、絢音が可愛らしく唇を突き出した。
「私もする」
「ここでするわけじゃない」
「もうなんか、そろそろみんなの前でもしていい気がしてきた」
「して来ない。職員室案件だから」
いつも通り一日を過ごしていると、お昼を過ぎた辺りから窓の外が明るくなってきた。元々予報でも曇のち晴れだったが、予定よりも早く晴れそうだ。
帰りには雲一つない天気になり、涼夏も完全復活して元気にガッツポーズをした。
「勝った。チューチューの名月する」
「奇妙な動詞」
「二人がチューチューの名月してる写真、グループに流してね」
今日は帰らなくてはならない絢音が、無念そうにそう言った。他人のキス写真をもらって何が楽しいのかさっぱりわからないが、前から収集しているので送ってあげよう。
絢音と別れてから、涼夏に今日のプランを聞くと、涼夏が「お月見と言えば?」と逆に質問してきた。
「お団子かな?」
「月見バーガーだな」
「お団子が入ってる」
「それはちょっと美味しくなさそうだ」
月見バーガーとは、目玉焼きの入ったハンバーガーで、ハンバーガーショップはもちろん、チェーンのカフェなどでも限定で提供されている。どこかに食べに行くのかと思ったら、涼夏は自分たちで作ると言い出した。
「夜まで時間あるし、夕ご飯がてら自作しよう」
「悪くない試みだね」
今日は遅くなることが約束されていたので、家には夕ご飯は要らないと宣言して出てきた。私の都合だが、千円札が提供されたので、交通費や材料費に充てよう。
恵坂をスルーして久間で乗り換え、涼夏の家の最寄り駅までやってくる。スーパーに寄ってから涼夏の家にお邪魔すると、まだ誰も帰っていなかった。大体いつも、妹、涼夏、母親の順に帰ってくるらしい。涼夏がバイトの日は涼夏が最後だ。
涼夏の部屋に荷物を置くと、まだ時間があるからと、1時間チャレンジをすることにした。いつもは私の部屋でしているので、今日は出張版だ。スカートだけ脱いでベッドの上でごろごろする。
抱き付いてくる涼夏を受け止めて、膝を太ももの間に割り込ませる。肌がすべすべして気持ちいい。
しばらくキスしていたら、涼夏が鼻息を荒くしながら服の中に手を入れてきた。奈都もそうだが、この人たちはベッドの上だと豹変する。私は特に何も変わらないが、二人に言わせると私の方がおかしいらしい。
「でも、絢音も割と平常心を保っている」
制服の上も脱ぎながらそう言うと、涼夏が「何のことだ?」と首を傾げた。
「ベッドの上でも理性的に行動してる」
「内心滾ってるに違いない」
「それを表に出すか出さないかが大事だから。ところで、妹は帰ってこないの?」
「帰ってきたら諦める」
そう言って、涼夏が下着姿で覆いかぶさってきた。諦めるというのは、この1時間チャレンジを諦めるという意味か、それとも姉としての矜持を諦めるという意味か。さすがに前者だろう。
幸いにも妹が帰ってくることはなく、丁度1時間イチャイチャしてから、そろそろハンバーガーを作ろうとベッドを降りた。涼夏は顔を赤くして転がっている。とりあえず写真を撮って、「事後」と添えて絢音に送った。すぐに消してくれると思うが、最悪全世界に公開されても顔は見えないから大丈夫だろう。
「千紗都に写真を撮られた。リベンジポルノに使われる」
涼夏がくすんと鼻をすすりながら、転がっている制服を手に取った。どうかこれからも、何のリベンジも必要のない関係のままでいたい。願掛けするように、そっと涼夏のお尻を撫でた。
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