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番外編 十五夜(3)
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月見バーガーである。
材料はハンバーグにレタス、トマト、チーズ、卵。もちろんハンバーグは自作して、これをスーパーで買ったバンズで挟む。
「親子丼が鶏肉と鶏卵を使うように、月見バーガーは牛の玉子を使います」
エプロン姿の涼夏が、材料を並べながら得意げに言った。私は牛の玉子というものを知らないが、料理は涼夏の得意分野なので任せよう。
ちなみに、私はポテト担当だ。油で揚げるなどという高度なことは無理だと言ったら、フライパンで作るレシピを用意してくれた。
それによると、ジャガイモを棒状に切った後、水に浸して水気を切り、薄力粉をまぶしてフライパンで焼くようだ。
「ジャガイモは普通にくし切りでいい」
「知らない単語が出た」
「ジャガイモは、コロッケやポテチなんかに使われる根菜類だな」
「へー」
「今日の千紗都は全然突っ込んでくれない」
楽しく会話しながら、皮を剥いてジャガイモを切る。くし切りとは、要するに普通の切り方だった。確かに、棒状ではないポテトは、こういう形をしている。
切ったジャガイモはしばらく水でさらす。その間に涼夏を眺めると、もうハンバーグが完成しそうだった。
「ハンバーグの方が先に出来る」
「そんなわけないな。手際が良くても焼く時間は変わらない」
涼夏と出会ってからこういうお料理のシーンは何度かあるが、ハンバーグの率が高い。私も好きだし、やはり家庭料理の定番なのだろう。
水に浸したポテトを取り出して、キッチンペーパーの上に並べた。ちなみに水に浸した理由は、でんぷん質を取り除くためらしい。
「涼夏は料理に関することは詳しい」
「他にも色々詳しいぞ?」
「ダムとか? 日本に6基しかない、なんとかレスダム」
「全然詳しくないな。ダムカレー作りたい。結波ダム」
薄力粉やらオリーブオイルやら塩やら、混ぜたり入れたり焼いたりして、ポテトが完成した。涼夏の方もハンバーガーが完成して、並べて写真を撮った。マヨネーズ、ケチャップ、マスタード、ピクルスなど、色々混ぜて作ったソースが美味しいらしい。
「涼夏と結婚して良かった」
「してないな」
「毎日涼夏の手料理が食べられる」
「キミたちも作ってね」
たちというのは、絢音も含まれているようだが、あの子には涼夏の母親のように、バリバリ働いて稼いできて欲しい。
外はだいぶ暗くなっている。料理をしている間に一瞬妹が顔を出したが、それっきり部屋に引きこもっている。時々笑い声がするので、どうやら友達か彼氏と電話をしているようだ。ちなみに、ハンバーガーは妹と母親の分もあり、そのおかげで私の材料費負担は免除された。
月は涼夏の部屋からでも見えそうだったので、ハンバーガーとポテトを持って移動した。ドリンクは葡萄ジュースと辛口のジンジャーエールを混ぜて、ライムを絞ったノンアルコールの謎カクテルだ。正直、甘口のジンジャーエールをそのまま飲んだ方が美味しいとは思うが、変化は大事である。
部屋から見える月を撮ってみたが、ただぼんやりした白い丸が写っただけだった。これをスマホで綺麗に撮るのは、私には出来そうにない。
月を背景に自分たちやハンバーガー、後は食べる前にチューチューの名月の写真を撮ってからハンバーガーにナイフを入れた。かぶりつくにはちょっとボリュームがある。
「中秋の名月、確かに丸いけど、眩しくてよく見えないな」
涼夏が月を見ながら言った。本来であればウサギとかティコとかが見れるはずだが、真っ白だ。
涼夏がそう言えばと、いつぞやオシドリ観察の時に使った双眼鏡を持ってきた。覗いてみると、特徴的な月の表面が見れた。なかなか感動する。
「月って、いつ見ても大体同じ顔をしてる」
「地形の話をしてるなら、大体じゃなくて、完全に同じだな」
「パラグアイとかから見ないと、変化しないか」
「パラグアイがどこにあるか知らないけど、たぶんパラグアイから見ても同じだな」
「宇宙の神秘だね」
月も自転しているはずなのに、奇妙なものだ。たまには裏側が見えてもいいはずなのにそうはならない。
端の方が僅かに欠けている。本当に満月は明日のようだ。
ハンバーガーは意外とボリュームがあり、お腹いっぱいになった。ポテトも美味しかったので、今度家でも作ってみよう。
あまり遅くなると迷惑だし、夜道も怖いので、涼夏ママが帰ってくる前にお暇した。腹ごなしだと言って涼夏が駅まで送ってくれたので、今日はどうだったかと聞くと、涼夏は満足そうに頷いた。
「濃密な1時間チャレンジが出来た。どんどん布が減っている」
「そこは全然重要じゃないから」
「チューチューの名月の写真も撮った。絢音からも、大変ご満悦な返事が来た」
絢音さんは、今夜チューチューの名月と涼夏の事後の写真を使うと送ってきた。何に使うのかは聞いていないが、とりあえず楽しそうだ。
明日は満月である。中秋の名月ではないが、ハーベストムーンと呼ばれる綺麗な月が見られるのは間違いないので、晴れていたら絢音と楽しむことにしよう。
材料はハンバーグにレタス、トマト、チーズ、卵。もちろんハンバーグは自作して、これをスーパーで買ったバンズで挟む。
「親子丼が鶏肉と鶏卵を使うように、月見バーガーは牛の玉子を使います」
エプロン姿の涼夏が、材料を並べながら得意げに言った。私は牛の玉子というものを知らないが、料理は涼夏の得意分野なので任せよう。
ちなみに、私はポテト担当だ。油で揚げるなどという高度なことは無理だと言ったら、フライパンで作るレシピを用意してくれた。
それによると、ジャガイモを棒状に切った後、水に浸して水気を切り、薄力粉をまぶしてフライパンで焼くようだ。
「ジャガイモは普通にくし切りでいい」
「知らない単語が出た」
「ジャガイモは、コロッケやポテチなんかに使われる根菜類だな」
「へー」
「今日の千紗都は全然突っ込んでくれない」
楽しく会話しながら、皮を剥いてジャガイモを切る。くし切りとは、要するに普通の切り方だった。確かに、棒状ではないポテトは、こういう形をしている。
切ったジャガイモはしばらく水でさらす。その間に涼夏を眺めると、もうハンバーグが完成しそうだった。
「ハンバーグの方が先に出来る」
「そんなわけないな。手際が良くても焼く時間は変わらない」
涼夏と出会ってからこういうお料理のシーンは何度かあるが、ハンバーグの率が高い。私も好きだし、やはり家庭料理の定番なのだろう。
水に浸したポテトを取り出して、キッチンペーパーの上に並べた。ちなみに水に浸した理由は、でんぷん質を取り除くためらしい。
「涼夏は料理に関することは詳しい」
「他にも色々詳しいぞ?」
「ダムとか? 日本に6基しかない、なんとかレスダム」
「全然詳しくないな。ダムカレー作りたい。結波ダム」
薄力粉やらオリーブオイルやら塩やら、混ぜたり入れたり焼いたりして、ポテトが完成した。涼夏の方もハンバーガーが完成して、並べて写真を撮った。マヨネーズ、ケチャップ、マスタード、ピクルスなど、色々混ぜて作ったソースが美味しいらしい。
「涼夏と結婚して良かった」
「してないな」
「毎日涼夏の手料理が食べられる」
「キミたちも作ってね」
たちというのは、絢音も含まれているようだが、あの子には涼夏の母親のように、バリバリ働いて稼いできて欲しい。
外はだいぶ暗くなっている。料理をしている間に一瞬妹が顔を出したが、それっきり部屋に引きこもっている。時々笑い声がするので、どうやら友達か彼氏と電話をしているようだ。ちなみに、ハンバーガーは妹と母親の分もあり、そのおかげで私の材料費負担は免除された。
月は涼夏の部屋からでも見えそうだったので、ハンバーガーとポテトを持って移動した。ドリンクは葡萄ジュースと辛口のジンジャーエールを混ぜて、ライムを絞ったノンアルコールの謎カクテルだ。正直、甘口のジンジャーエールをそのまま飲んだ方が美味しいとは思うが、変化は大事である。
部屋から見える月を撮ってみたが、ただぼんやりした白い丸が写っただけだった。これをスマホで綺麗に撮るのは、私には出来そうにない。
月を背景に自分たちやハンバーガー、後は食べる前にチューチューの名月の写真を撮ってからハンバーガーにナイフを入れた。かぶりつくにはちょっとボリュームがある。
「中秋の名月、確かに丸いけど、眩しくてよく見えないな」
涼夏が月を見ながら言った。本来であればウサギとかティコとかが見れるはずだが、真っ白だ。
涼夏がそう言えばと、いつぞやオシドリ観察の時に使った双眼鏡を持ってきた。覗いてみると、特徴的な月の表面が見れた。なかなか感動する。
「月って、いつ見ても大体同じ顔をしてる」
「地形の話をしてるなら、大体じゃなくて、完全に同じだな」
「パラグアイとかから見ないと、変化しないか」
「パラグアイがどこにあるか知らないけど、たぶんパラグアイから見ても同じだな」
「宇宙の神秘だね」
月も自転しているはずなのに、奇妙なものだ。たまには裏側が見えてもいいはずなのにそうはならない。
端の方が僅かに欠けている。本当に満月は明日のようだ。
ハンバーガーは意外とボリュームがあり、お腹いっぱいになった。ポテトも美味しかったので、今度家でも作ってみよう。
あまり遅くなると迷惑だし、夜道も怖いので、涼夏ママが帰ってくる前にお暇した。腹ごなしだと言って涼夏が駅まで送ってくれたので、今日はどうだったかと聞くと、涼夏は満足そうに頷いた。
「濃密な1時間チャレンジが出来た。どんどん布が減っている」
「そこは全然重要じゃないから」
「チューチューの名月の写真も撮った。絢音からも、大変ご満悦な返事が来た」
絢音さんは、今夜チューチューの名月と涼夏の事後の写真を使うと送ってきた。何に使うのかは聞いていないが、とりあえず楽しそうだ。
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