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16 グレンの覚悟
しおりを挟む機嫌がよくなったレティシアが去っていくのを見送って、グレンは思わずためをついた。これから先もずっとレティシアが隣にいるのかと思うと気が滅入ってしまう。
「殿下……」
咎めるような声音を受けて、グレンは宰相を見遣った。
レティシアとグレンが話している間、一歩下がって様子をみていたようだ。
表情ではレティシアへの嫌悪を一瞬でも見せていたというのに、グレンのあからさまなため息は咎める気らしい。グレンの方こそ、宰相を咎めるように視線をやった。
「レティシア王女殿下は未来の王妃となられるお方……王女殿下と親しくしておくことは、今後の生活を考えると必要なことですぞ」
まさしくグレンが気を揉んでいた事を告げられて、グレンは無言で眉を寄せる。
共にある時間が増えほど、こういった疲れは溜まるというから、今のうちに慣れておいたほうがいいのはわかっている。そのためにも一緒にいる時間はある程度確保したほうがいいのだろう。
しかし、だからあの癇癪持ちを愛せと言われても、そうすぐには愛せない。
頭の中には常に、別の人の姿がある。
それは、レティシアにも、ルーラにも失礼にあたる。それはわかっていたが、気持ちはそうそう変えられないものだ。
グレンがルーラの姿を思い浮かべようとすれば、舞踏会で踊った時の悲しそうな表情ばかり思い浮かぶ。
それもグレンを憂鬱にする。
不意に、宰相が「そういえば」と明るく声をあげた。
「どうした」
「実は先日の舞踏会の日、使節団との会議の後で、ハードヴァード公爵令嬢とニーデルベア伯爵の御子息とのご婚約はどうかという話になりまして。お二人ともお年も近いですし……」
グレンは思わず立ち尽くした。
手にグラスでも持っていたら、間違いなく落としていただろう。
それほどの衝撃だった。
「殿下?」
「ニーデルベア伯爵の……ジョエルか……」
「ええ、そうですそうです」
「それは……」
その続きは言葉にならなかった。
親友と愛する人が婚約……。
しかしおかしな話ではない。2人は婚約者がいないのだ。
ジョエルは次男ということや、伯爵が恋愛結婚をしたこともあって、自由に青春を桜花しているが、ルーラに関してはグレンとの婚約が破談になる時点で、次の婚約者を探すのは急務になってくる。
地位も、年齢も、そしてきっと相性も悪くない。
悪くないのに……。
グレンはここにきて、ようやく自分が他者と結婚するということが、ルーラにどれだけの衝撃を与えているのかを悟った。
――彼女が誰かのものになる……。
それがグレンには何よりも苦しいことに感じられた。それはルーラとて同じだったはずなのだ。彼女がどれだけ苦しんでいるか……。想像するのも烏滸がましいことだった。
グレンはレティシアとの婚約に頷けずにいた。
エルマル側の使節団の態度に疑問があったからだ。何かを隠している。そんな気配がしてならない。それでグレンは時間を先延ばしにしていた。
何か調査結果がでるやもしれない。そう思って秘密裏に調査をさせているが、使節団できている貴族たち文官たちにやましいことがある。という話はよくある派閥の話程で、目ぼしい話題はあまり入ってこない。
怪しいから先延ばしにした。
そうずっと思っていた。
けれど。
――国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ。
なんと愚かな……。グレンは自分が矮小な存在であることを自覚せざるを得なかった。
グレンにはルーラを縛る権利はない。人の人生を縛る権利など誰にもないはずだ。
かつてかわした約束を思い出す。
自分から反故にするなど、考えたこともなかった。
でもきっと、ルーラはこの約束が必ず果たされるものだとは思っていなかったかもしれない。彼女は聡い人だから、可能性は考えていたかも知れなくて。そしてきっと強い人だから、覚悟を決めたら迷わないだろう。
グレンのようにウジウジと悩まない。きっと。
「宰相」
「は」
「次の会議で終わりにしよう」
宰相の顔に喜色が浮かぶ。
これで会議は進むのだ。皆が望んでいたことだ。
そして自分も。
覚悟は決まった。
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