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光の入らない部屋と笑わない少女
召喚です
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目を丸くし口を開けているその様は異様と以外に何で表現すればよいのか。
丸く開かれた口の中は漆黒の闇で、そこから何かが這い出てくるのではないかという錯覚に襲われた。
抑揚もなく一定のボリュームで放たれ続けるその音になんの意味があるのか。初めてちゃんと聞いたリナちゃんの声が、こんな形だなんて。
「行きます」
九条さんはそう短く言うと立ち上がる。彼の袖を強く握っていた私は慌てて離して自分も立つ。
素早く部屋から出、すぐ前にある寝室の扉を開けた。そこからはやはりリナちゃんの声が聞こえて来る。
部屋は真っ暗だった。暗闇に目が慣れていない私達は、廊下から漏れる光でぼんやりその姿を認識した。
ベッドには未だうなされた続けている岩田さんの唸り声。設置されたカメラを握りしめてそこに叫ぶリナちゃんの姿。
そして、
「……何が目的ですか」
九条さんの声が響いた。
リナちゃんがピタリと声を止める。そしてゆっくりこちらを見た。
少女の背後には女が立っていた。やはり、真っ白な着物を着て赤い紅をさしている。背筋をしゃんと伸ばし上品に見えた。
「何が目的でここにいますか」
九条さんが再度尋ねる。リナちゃんは何も反応なく動かない。ただその背後で、女がわずかに頭を揺らした。
「強い恨みや悲しみを持っているように見えない。なにゆえこの少女のそばにいるのですか、目的は?」
私には何も聞こえない。ただ立って女を見つめる事しか出来ない。
彼女はすっと目を細めた。その微々たる変化が、恐ろしくもあり美しいとも思えた。ドキドキしながらそれを見つめる。
九条さんは少ししたあと、首を傾げた。
「何です? 何を、ですか?」
聞き返す九条さんに、女は鋭い視線を送りながらすっと手を動かした。その手は、目の前にいるリナちゃんの肩に置かれる。無論リナちゃんは気づいていないようで、ただ黙って立っていた。
私は九条さんの横顔を見上げる。九条さんは困ったように小さく首を振った。
「なぜ、そんな」
そう聞いた瞬間、突如女は消えた。残されたのは暗闇の中立つリナちゃんのみだ。
「う……ん、リナ……?」
気がつけば、岩田さんも目を覚ましたらしく上半身を起こしていた。私たちの姿を見、思い出したように反応する。
「ああ、九条さん……! なにか、なにか分かりましたでしょうか?」
寝起きの乱れた髪を振り乱しながら、岩田さんが尋ねる。
九条さんはそれに対してすぐには答えなかった。じっと考え込むようにリナちゃんを見つめている。私は口を挟むことも出来るはずがなく、ただオロオロとそれを見上げていた。
「……明日また報告します。リナさんも起きていますから。とりあえず睡眠の続きを」
九条さんはそう一息に言うと、くるりと踵を返し部屋から出て行ってしまった。私は岩田さんに頭を下げ、リナちゃんに軽く手を振ると、急いでその背中を追う。
控え室に戻った九条さんは置いてあったペットボトルの水を一気に飲んでいた。私はしっかり部屋のドアを閉め、すぐに聞く。
「なんて言ってました!? あの人!」
水を飲み、蓋をした九条さんはそれを適当に置くと、ふうと息を吐いて天井を見上げる。
「……真意までは分かりませんでしたが……」
「は、はい」
「声は聞こえました。比較的ハッキリとした迷いのない声で」
「なんて?」
「 "出せ"」
私は首を傾げる。
果たして、何を……?
九条さんは困ったように続けた。
「 "この子を 出せ" 」
「……リナちゃん?」
この子と呼ばれるのはリナちゃんしかいない。いつだって女はリナちゃんの背後にいるのだし。
「この子ってリナちゃんですよね?」
「でしょうね」
「出せ、って、外に出せってことですか?」
「そう考えるのか普通です」
リナちゃんを外に出せ?
私は頭の中が疑問でいっぱいになる。
「でも外を怖がってるのはリナちゃんですよね? 光すら嫌がるから部屋もこんなんだし、時々出ても叫んで暴れて手につけられないって岩田さんが言ってたから……」
そのため岩田さんは外にも全く出ない生活を送っていると言っていた。病院も暴れて中々連れていけないと。
「ええ、何のためにあの子を外に出せと言っているのか……」
九条さんも分からない、というように天井を仰ぐ。
女はリナちゃんを外に出せと言っている。
リナちゃんは外を頑なに拒んでいる。
ううんと考えながら、どこかのホラー小説のようなストーリーぐらいしか頭に浮かばない。
「例えば、ですけど。外に出るとあの女の人の力が増すとか! リナちゃんも本能的にそれを察しているから外を怖がっているんじゃ……」
言いながら、自信を無くして語尾が小さくなっていくのを自覚する。外に出ると力が増すなんて、ここはただのマンションで寺や神社でもあるまいし。
それでも九条さんは私の話を比較的真剣に聞いてくれたようだ、頷いて同意した。
「スムーズに考えればそれが一番納得はいきます。まあ多くの疑問は残りますがね。なぜ外に出ると力が強まるのか、そもそも力をだしてリナさんをどうするつもりなのかサッパリです」
「で、すね……」
「どちらにせよあの子に危害が及ぶ可能性があるならば迂闊に外には出せません。どうしたものか……」
考え込み悩む九条さんを眺めながら、私もあまり自信のない脳みそをフル回転させてみるがまるで分からない。
そうしばらくした時、ふと九条さんが思い出したように言った。
「そういえば、彼女、いつも同じおもちゃを持っていますね。さっきもカメラの前で持ちながら立ってました」
「え? ああ、犬のぬいぐるみですよ。そういえば昨日の朝、私がぬいぐるみについて聞こうとしたら凄い反応してました。珍しく焦っていて……」
「なんですって?」
九条さんの目が丸くなり、こちらを見た。
「あれだけ何に対しても無反応なあの子がそんな反応を?」
「え、ええ……そういえば不自然ですよね。すみません、早く言えばよかったですね」
「いえ、それはいいですが」
九条さんはゆっくり部屋を見渡す。数々のおもちゃにモニター、コードの山が部屋にはある。
「あの子はあれ以外のおもちゃで遊ぶところを見た事はないですし、子供らしさのかけらもないのにあのぬいぐるみだけ執着しているのは違和感を感じます」
「それもそうですね……」
「もしやあれに何か……?」
話しながら反省した。確かに九条さんの言う通りだ、あのリナちゃんが唯一反応した物なのに、ちゃんと気付いて報告するべきだった。
九条さんはそんな私を責める事は無く、決意したように言う。
「調べましょう」
「それがいいですけど……多分簡単には触らせてもらえなさそうですよ」
「寝ている隙に」
「ああ、そうか……」
「ですが今夜はまだやめておきましょう、色々準備をしておかねば」
「準備?」
「黒島さん裁縫は出来ますか?」
なるほど、九条さんが言う『調べる』はかなり細かく見るようだ。調べたあと元通りにしておかねばリナちゃんが可哀想だ、針と糸を用意せねばならない。
私は頷く。
「まあ、人並みに」
「決定です。それとやはり、違う方面からも岩田リナと接触をはかりましょう」
「え、ということは」
私が聞くと、九条さんは仕方ない、とばかりに息を吐いた。
「甘いお菓子と、子供ウケしそうな彼を召喚です」
丸く開かれた口の中は漆黒の闇で、そこから何かが這い出てくるのではないかという錯覚に襲われた。
抑揚もなく一定のボリュームで放たれ続けるその音になんの意味があるのか。初めてちゃんと聞いたリナちゃんの声が、こんな形だなんて。
「行きます」
九条さんはそう短く言うと立ち上がる。彼の袖を強く握っていた私は慌てて離して自分も立つ。
素早く部屋から出、すぐ前にある寝室の扉を開けた。そこからはやはりリナちゃんの声が聞こえて来る。
部屋は真っ暗だった。暗闇に目が慣れていない私達は、廊下から漏れる光でぼんやりその姿を認識した。
ベッドには未だうなされた続けている岩田さんの唸り声。設置されたカメラを握りしめてそこに叫ぶリナちゃんの姿。
そして、
「……何が目的ですか」
九条さんの声が響いた。
リナちゃんがピタリと声を止める。そしてゆっくりこちらを見た。
少女の背後には女が立っていた。やはり、真っ白な着物を着て赤い紅をさしている。背筋をしゃんと伸ばし上品に見えた。
「何が目的でここにいますか」
九条さんが再度尋ねる。リナちゃんは何も反応なく動かない。ただその背後で、女がわずかに頭を揺らした。
「強い恨みや悲しみを持っているように見えない。なにゆえこの少女のそばにいるのですか、目的は?」
私には何も聞こえない。ただ立って女を見つめる事しか出来ない。
彼女はすっと目を細めた。その微々たる変化が、恐ろしくもあり美しいとも思えた。ドキドキしながらそれを見つめる。
九条さんは少ししたあと、首を傾げた。
「何です? 何を、ですか?」
聞き返す九条さんに、女は鋭い視線を送りながらすっと手を動かした。その手は、目の前にいるリナちゃんの肩に置かれる。無論リナちゃんは気づいていないようで、ただ黙って立っていた。
私は九条さんの横顔を見上げる。九条さんは困ったように小さく首を振った。
「なぜ、そんな」
そう聞いた瞬間、突如女は消えた。残されたのは暗闇の中立つリナちゃんのみだ。
「う……ん、リナ……?」
気がつけば、岩田さんも目を覚ましたらしく上半身を起こしていた。私たちの姿を見、思い出したように反応する。
「ああ、九条さん……! なにか、なにか分かりましたでしょうか?」
寝起きの乱れた髪を振り乱しながら、岩田さんが尋ねる。
九条さんはそれに対してすぐには答えなかった。じっと考え込むようにリナちゃんを見つめている。私は口を挟むことも出来るはずがなく、ただオロオロとそれを見上げていた。
「……明日また報告します。リナさんも起きていますから。とりあえず睡眠の続きを」
九条さんはそう一息に言うと、くるりと踵を返し部屋から出て行ってしまった。私は岩田さんに頭を下げ、リナちゃんに軽く手を振ると、急いでその背中を追う。
控え室に戻った九条さんは置いてあったペットボトルの水を一気に飲んでいた。私はしっかり部屋のドアを閉め、すぐに聞く。
「なんて言ってました!? あの人!」
水を飲み、蓋をした九条さんはそれを適当に置くと、ふうと息を吐いて天井を見上げる。
「……真意までは分かりませんでしたが……」
「は、はい」
「声は聞こえました。比較的ハッキリとした迷いのない声で」
「なんて?」
「 "出せ"」
私は首を傾げる。
果たして、何を……?
九条さんは困ったように続けた。
「 "この子を 出せ" 」
「……リナちゃん?」
この子と呼ばれるのはリナちゃんしかいない。いつだって女はリナちゃんの背後にいるのだし。
「この子ってリナちゃんですよね?」
「でしょうね」
「出せ、って、外に出せってことですか?」
「そう考えるのか普通です」
リナちゃんを外に出せ?
私は頭の中が疑問でいっぱいになる。
「でも外を怖がってるのはリナちゃんですよね? 光すら嫌がるから部屋もこんなんだし、時々出ても叫んで暴れて手につけられないって岩田さんが言ってたから……」
そのため岩田さんは外にも全く出ない生活を送っていると言っていた。病院も暴れて中々連れていけないと。
「ええ、何のためにあの子を外に出せと言っているのか……」
九条さんも分からない、というように天井を仰ぐ。
女はリナちゃんを外に出せと言っている。
リナちゃんは外を頑なに拒んでいる。
ううんと考えながら、どこかのホラー小説のようなストーリーぐらいしか頭に浮かばない。
「例えば、ですけど。外に出るとあの女の人の力が増すとか! リナちゃんも本能的にそれを察しているから外を怖がっているんじゃ……」
言いながら、自信を無くして語尾が小さくなっていくのを自覚する。外に出ると力が増すなんて、ここはただのマンションで寺や神社でもあるまいし。
それでも九条さんは私の話を比較的真剣に聞いてくれたようだ、頷いて同意した。
「スムーズに考えればそれが一番納得はいきます。まあ多くの疑問は残りますがね。なぜ外に出ると力が強まるのか、そもそも力をだしてリナさんをどうするつもりなのかサッパリです」
「で、すね……」
「どちらにせよあの子に危害が及ぶ可能性があるならば迂闊に外には出せません。どうしたものか……」
考え込み悩む九条さんを眺めながら、私もあまり自信のない脳みそをフル回転させてみるがまるで分からない。
そうしばらくした時、ふと九条さんが思い出したように言った。
「そういえば、彼女、いつも同じおもちゃを持っていますね。さっきもカメラの前で持ちながら立ってました」
「え? ああ、犬のぬいぐるみですよ。そういえば昨日の朝、私がぬいぐるみについて聞こうとしたら凄い反応してました。珍しく焦っていて……」
「なんですって?」
九条さんの目が丸くなり、こちらを見た。
「あれだけ何に対しても無反応なあの子がそんな反応を?」
「え、ええ……そういえば不自然ですよね。すみません、早く言えばよかったですね」
「いえ、それはいいですが」
九条さんはゆっくり部屋を見渡す。数々のおもちゃにモニター、コードの山が部屋にはある。
「あの子はあれ以外のおもちゃで遊ぶところを見た事はないですし、子供らしさのかけらもないのにあのぬいぐるみだけ執着しているのは違和感を感じます」
「それもそうですね……」
「もしやあれに何か……?」
話しながら反省した。確かに九条さんの言う通りだ、あのリナちゃんが唯一反応した物なのに、ちゃんと気付いて報告するべきだった。
九条さんはそんな私を責める事は無く、決意したように言う。
「調べましょう」
「それがいいですけど……多分簡単には触らせてもらえなさそうですよ」
「寝ている隙に」
「ああ、そうか……」
「ですが今夜はまだやめておきましょう、色々準備をしておかねば」
「準備?」
「黒島さん裁縫は出来ますか?」
なるほど、九条さんが言う『調べる』はかなり細かく見るようだ。調べたあと元通りにしておかねばリナちゃんが可哀想だ、針と糸を用意せねばならない。
私は頷く。
「まあ、人並みに」
「決定です。それとやはり、違う方面からも岩田リナと接触をはかりましょう」
「え、ということは」
私が聞くと、九条さんは仕方ない、とばかりに息を吐いた。
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