視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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光の入らない部屋と笑わない少女

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「おはようございます! ねえ、昨日久々にうなされずに朝までグッスリ寝れたんです……! 九条さんと黒島さんのおかげかしら!」

 朝起きたあとリビングに入ると、嬉しそうに岩田さんが話しかけてきた。それに笑顔を見せる。

「それはよかったです、まだ解決はしていませんが」

「こんなことずっとなかったから嬉しくて。頭がスッキリしています」

 そう話す通り、岩田さんの表情はいつもより晴れやかで顔色も良い気がした。毎晩あんな風にうなされていたら普通体を壊すと思う。この人は丈夫な人だ。

 岩田さんはキョロキョロと私の背後を見た。

「九条さんは? 朝食をご一緒しようかと」

「あ、えっと。少し外に出てます。今日は朝食は結構です」

「あらそうなの……」

 残念そうに言った岩田さんの隣の扉から、まだ眠そうなリナちゃんが現れた。手には例のぬいぐるみを持っているが、特にお腹を裂かれた事は気づいていないらしい。正直、少し歪に仕上がってしまった犬のお腹を見て騒がれたらどうしようかと思っていた。

「リナちゃん、おはよう」

 私の挨拶に彼女は何も答えずただこちらを見上げた。やっぱり伊藤さんいなきゃダメみたいだ。

 リナちゃんはトコトコと歩きテレビの前に移動していく。その光景を見守ったあと、私は思い出したように岩田さんに尋ねた。

「そういえばリナちゃんのいつも持ってるぬいぐるみ、かなりお気に入りみたいですね?」

「ああ、あれ? もう汚いし捨てたいんだけど、やたら気に入ってるみたいで取り上げると暴れるから……」

「どこで買ったんですか?」

「さあどこだったかしら? そこいらのおもちゃ屋さんですよ」

「そうなんですか、代わりの物というわけにもいかないんですね」

「多分無理ね、ほんと気に入ってるから」

 諦めたようにため息をつく岩田さんを横目で見ながら、私はリナちゃんの横顔を見つめた。

 相変わらず笑顔はなく、無の表情。

(もし……九条さんや伊藤さんが調べてる事が当たってたら……)

 私は大きな勘違いをしていたことになる。

 少し震えそうになる手をなんとか押さえ、私は平然を装った。つつつとリナちゃんの隣に移動し、ソファに腰掛ける。

「伊藤さんは今日は来ないんだー。昨日せっかく仲良くなったから、また会えるといいね?」

 笑って話しかけてみるも、リナちゃんはちらりと見ただけで何も答えない。

 でも今は、それに対して私も悲しみは沸かなかった。伊藤さんが凄いだけで、これが普通なんだよ。

 私は彼女の手の中の汚れたぬいぐるみを見る。

「黒島さんは朝食いかが?」

「あ、では頂きます」

 話しかけられた声に答える。機嫌のいい岩田さんは、鼻歌を歌いながらパンを焼いていた。



 そして昼過ぎ。

 ようやく九条さんが戻ってきた。

 非常に厳しい顔をしていた。彼の口から調べられた内容が明かされ、あの着物の人が何者なのかという九条さんの仮説も聞かされた。まだ調べ物は全て終了したわけではないが、十中八九間違いないようだった。

 私は言葉もなくそれをただ聞いていた。覚悟していたが、やはり決定事項となればあまりの衝撃に頭が真っ白になってしまった。

 それでも九条さんは冷静に淡々と話し、リナちゃんから言葉を取り戻すため、そして岩田さんがうなされる原因の解明のため行動を起こすと話した。

 それは、

 リナちゃんを外に出すという事だった。

 私は驚かなかった。むしろ、それ以外何をしようかと言うぐらいだった。

 ただ、タイミングや方法は限られる。私たちだけの力では出来ない。

 九条さんはそう言って、これからの計画を細かく私に説明してくれた。

 未だ調べ途中の情報の結果を待ち、しっかり確定してから動く事。それまで決して悟られないよう今まで通り調査を続行すること。

「正直なところ、こんな展開は私も初めてなので色々と戸惑っています。それでも解決のためには強行的にしなくてはならない」

 九条さんは真剣な瞳で告げた。私は決意を固め、ぐっと彼を見据える。

「私も出来る事はやります」

 そう宣言した自分の声は、震えていた。





 
 二日後。

 全ての調べ物が終了し、綿密な話し合いを重ね計画は立てられた。

 その間、夜中岩田さんがうなされることは一度もなかった。リナちゃんを外に出す事をあの女が待っているためだろうか、岩田さんは非常に喜んでいたが。

 前日の夜から伊藤さんもマンションに泊まり込んでもらい、計画に参加した。今回は伊藤さんの存在は必須なのだ。

 この二日間、伊藤さんはここに通いリナちゃんと更に親しくなっていた。伊藤さんの呼びかけに対してだけは、リナちゃんは反応をしてくれる。今回の結末にとても重要な事だった。

 そして夜三時。まだ岩田さんもリナちゃんも夢の中にいる頃。

 私たちは動き出す。




「行きます」

 九条さんが呟いた。私と伊藤さんは顔を合わせて頷く。
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