視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
99 / 450
真夜中に来る女

自分にできることをやるしかない

しおりを挟む
 布団のひんやりした感覚に包まれる。仮眠とは言っても、事務所でも寝る事はできたのであまり眠気はないのだが……。

「黒島さん入ってどれくらい?」

「え! えっと、一ヶ月ちょっと……ですかね」

「そうなの、そりゃまだ慣れないわね」

「麗香さんはその、いつから祓えるように?」

「んー高校生の頃から商売にしだしたかしら。それまではみるばかりだったけど、やってみたら祓えちゃったから」

 考えるようにして答える彼女の横顔を驚いて見る。

「え、やってみたら出来ちゃったって。こう、修行とかしてないんですか?」

「完全に自己流よ。あ、でも途中少し他の先輩について現場はみたけど。祓うって人それぞれやり方あって面白いのよね」

 ほうっとため息を漏らした。才能、というやつか。そういえばいつだったか九条さんも、祓うのはまた違った才能だって言ってたっけ。

 視るだけじゃなくて祓えたらなあ。私の人生ももう少し違っただろうか。

「成人する頃にはもうそこそこ依頼をもらうようになってたわね。しばらくしたらあの事務所立ち上げてすぐの頃のナオと出会って」

 突然出てきた名前にぐっと息をのんだ。隣の麗香さんはうつ伏せになって何やら携帯電話を見ている。私のこのコミュニケーション能力で、世間話として続けていけるだろうか。

「あ、古くからのお知り合い……なんですね」

「あいつは昔から何も変わらないけどね! いい意味でも悪い意味でも。ポッキー何年かじってんのよ、ポッキーの売り上げ貢献しすぎ」

「はは、ちょっと変わった人、ですよねえ。えっと、付き合ってたんでした、っけ」

 やっぱり自分はあまり世間話とかが得意ではないことを今更痛感した。言い終えてから後悔する。もう少し自然とスムーズに聞けないものか。

 それでも麗香さんは特に気にしてなさそうに答えた。

「そうねー。そんな時期もあったねー」

「……あ、どうして別れちゃったんですか……」

「んーナオっていい人だけどやっぱり変わってるから。恋人には向かないのよね。別れる時散々嫌だって言われたんだけど」

 これが臥床した状態でなければ私は倒れ込んでいたかもしれない。それくらいの衝撃で、目の前が真っ白になった。

 つまりは麗香さんが振ったんだ。それで、九条さんが別れたくないって言ったんだ。あの九条さんがそんなことを言っている姿なんて想像つかない。

 ああでも、そんなに好きだったんだ、麗香さんのこと……。

 急に泣き出しそうになってしまったのを隠すように枕に顔を埋めた。

 ダメだ、マイナスな思考ばかりになっている。

 もういい大人の九条さんに色んな過去があるのは当然のことで、外見は文句の付けようがない彼が美人と付き合っていたのはむしろ納得の出来事じゃないか。誰がどう見ても二人はお似合いだ。

 だからってここで拗ねてどうする。今も信頼関係は厚いようだけど、それでも復縁とかしそうではない。悩んでいてもしょうがない。今私に出来ることは、早く一人前になって九条さんの役に立てるようになることだ。

 そう、まずはそこから。九条さんに信頼してもらえるようになって、初めてスタートラインに立てるんだから。

 溢れそうになった涙をぐっと堪えて顔を上げた。よしっと気合いを入れる。

 未だ携帯で遊んでいる麗香さんに尋ねた。

「あの、最初にあったあの匂いって?」

「ああ、あれ? んーうまく言えないけど、その女の残り香みたいな感じ? 私はこう言う場面、鼻で感じ取ることが多いの。ほら、ナオはシルエットで見えたりするし、その人それぞれだから。黒島さんも分かったのは私とちょっと似てる部分があるのかも」

「除霊ってどうやるんですか?」

「状況によるわ。雑魚ならさっきの塩水かけておしまいのことだってあるし。叩いたり自分の中に入れてみたりよ」

「じゃあ……」

「急に質問攻めね?」

 麗香さんが携帯から目線を上げて笑う。綺麗な笑顔に見惚れてしまいそうになった。

「勉強させて頂きたくて。早く一人前になりたいんです!」

 鼻息荒くしてそういうと、彼女は大きな声で笑った。再び持っている携帯をいじり出しながら言う。

「素直ね。いい心がけだわ。でも無理は禁物よ。現場は数をこなすのが一番。ナオが私に持ってきた案件なんだから相当やばいやつだろうし、とにかく心を落ち着けて行動することよ。焦りは相手にも伝わる」

「は、はい」

 返事をした私を再び小さく笑うと、麗香さんはそれ以上何も言わずに布団を肩までかけて反対側を向いてしまった。栗毛色の髪をじっと見つめながら、私も掛け布団を深くかぶる。

 焦りは禁物、か。留守番するはずだったのにここまで連れてきたもらったんだし、足手まといにだけはならないようにしないと。

 心に強く誓い、私は天井を見つめた。




しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。