視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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真夜中に来る女

留守番

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 翌朝、大川さんたちに許可を得てシャワーを借りたあと、(というか麗香さんが許可も取らずに使っていた)九条さんも無理矢理浴室に押し込み、私たちは五人で味気ない朝食を取った。

 特に八重さんはほとんど口をつけることはなかった。誰かが自分を呪っているのだと知れば、そりゃ食欲も無くなってしまう。

 まさこさんも顔色が優れずほとんど寝ていないのだろうなと予測できた。

 そんな中パクパクとパンを頬張った麗香さんは、変わらぬテンションで話した。

「食べたらちょっと買い出しに行ってくるわ。ナオ、車よろしくね」

 買い出しとは、例の身代わりを作るのに必要なものなのだろう。九条さんは静かに頷いて言った。

「光さん、昼間は何もないとは思いますがあなたは念のため八重さんと留守番しててもらえますか。何か変わったことがあればすぐ連絡を」

「あ……はい分かりました」

 麗香さんと九条さんが二人きりか、とか昨日なら思っていたかもしれないが、流石に今日はそんなことを考えている余裕はなかった。私は素直に返事をする。

 朝起きた後、再び麗香さんが家を祓ってくれていたので、昨日女がきた時に淀んだ空気はまた変わっていた。今のところ変な匂いも感じない。昼間は今までも変わったことはなかったのでよほど大丈夫だろう。

 各々朝食を取り終えた後、九条さん達は早速外へと出かけて行った。私は控え室に一人残り、やることもないので意味もなく監視カメラの映像を再度見直したりしていた。

 それにしても、だ。

 ぼんやりと家を映す映像を見ながら考える。

 人を呪いたいほど憎むってどういう思考回路してるんだろう。

 私だって一人の人間なので、誰かを恨んだことはある。それは他人だったり時には家族だったりする。それでも相手を陥れたいとか、不幸にさせたいだなんて思いつきもしなかった。さらにはその方法が呪詛だなんて。

 この現代にそんなものをやろうとする人がいるだなんて、その人の顔を拝んでみたいと思った。

「あの……黒島さん、いらっしゃいますか」

 和室の襖の向こうから、弱々しい声が響いてきた。八重さんの声だった。はっとして慌てて立ち上がり戸を開ける。そこには少し顔色の悪い八重さんが立っていた。

 初めて事務所にきたときもすでに疲労感がひしひしと伝わってきたが、今はそれよりもさらにげっそりとしてしまっている。

「はい、八重さん何かありました!?」

「い、いいえ。特に何もないんですけど……。
 あの、一緒にお茶でも飲みませんか? 母は今日用品を買いに出てて。私は外に出ない方がいいって置いて行かれてしまって……」

 申し訳なさそうに言ってくる八重さんに、自分の気配りの足りなさを責めた。こんな状況、心細いのは至極真っ当なことだ。彼女のそばにいてあげればよかった。

「はい、もちろんです! リビングへ行きましょう!」

 私がそう答えると、八重さんはほっとしたように表情を緩めた。その顔は見ていて痛々しくなるほどだ。

 私たちはそのままリビングへ移動し、八重さんはキッチンへ立った。冷蔵庫を開けながら私に言う。

「何飲まれますか? コーヒーや紅茶、オレンジジュースとかもありますけど……」

「えっと、コーヒーをいいですか?」

「はい」

 あまり熟睡できていないせいか時折訪れる眠気のためにコーヒーを頼む。しばらくしていい香りが鼻を刺激した。私はダイニングテーブルに腰掛け、そこへ八重さんが運んでくれる。

「すみません、ありがとうございます」

「黒島さんはコーヒー飲まれるんですね。九条さんは飲めないとおっしゃってたから」

「ああ、そうみたいです。九条さんは多分苦味が苦手なだけだと思います、あの人甘党なので」

「ふふ、そういえば調査の最中も時折お菓子を食べている様子見かけます。よっぽどお好きなんですね」

 そう笑いながら私の正面に座った八重さんはオレンジジュースを持っていた。誰かと二人きりで向き合って話すだなんて九条さんや伊藤さん以来久し振りな気がする。

 八重さんは一緒に持ってきてくれたクッキーも差し出してくれる。お言葉に甘えて一つ頂いた。

「そういえば、八重さんご結婚されるんですよね? なかなかお話できませんでしたけど、おめでとうございます」

 私が言うと、彼女は嬉しそうに、けれど寂しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます」

「結婚式の準備とかしてたんですか?」

「いいえ、式とかはもともと挙げないつもりだったので。でも入籍についてや今後についても全然話が進んでいません」

 眉を下げて困ったように言う八重さんに、深く話を掘り下げていいものか悩むが私はあえて尋ねた。

「その、お相手は今回のこと知ってらっしゃるんですか?」

 私の質問に、彼女は俯いて小さく首を振った。オレンジジュースを一口飲むと、困ったように息を吐く。

「その。彼は優しい人だから、こんな話も信じてくれるとは思うんです。でもやっぱり、普通じゃないじゃないですか。話して大丈夫なのか分からなくて……それにもしかしたら彼にも害が及ぶかもと思うと」

「……分かります」

 ポツンと小さくつぶやいた。八重さんの心の葛藤、私には痛いほどに分かった。私も以前婚約者に、視える能力のことをなかなか言い出せずにいたのだ。
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