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真夜中に来る女
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「光さんがそうして欲しいならしますよ」
「ええそうですか。ポッキーのカス布団に落ちそうなんでやめてください」
「ポッキーはあまりカス落ちませんよ」
「たまに落としてますよ、伊藤さんが掃除してます」
「…………」
「添い寝より子守唄歌ってもらえますか」
「私某ネコ型ロボットが出てくる漫画のガキ大将並に音痴ですがよろしいですか」
「ぶはっ、九条さん音痴なんです? 初耳でした!」
「学生時代の合唱はちゃんと口パクしてました」
「そもそも九条さんが合唱とかしてる姿全然想像つかない」
九条さんが学生だった姿さえ思う浮かべられない。私は一人で笑ってしまう。九条さんが音痴だなんて、初めて知った情報だ、そもそも彼が歌うってもうそれさえ信じられない。
布団の中でひとしきり笑い顔を上げる。その時こちらを見ていた九条さんとばちっと目が合う。彼は優しく微笑んでこちらを見ていた。その顔を見て慌てて俯き目を逸らす。もしかして、怖がってる私の気分を和ますためにあんな話をしてくれたんだろうか。
「麗香のいうこと、気にしないでください」
彼の声が聞こえ、顔を上げる。先ほどの発言だろう、とすぐに理解できた。
「あ、いいえ……私も確かにでしゃばって……」
「いいえあなたは間違えたことを言っていませんし、あの状況でよく冷静に判断できたと思います。期間は短いですがこれだけ私と現場をこなしてきたのですし、素人だなんて思っていませんよ」
淡々と言った言葉にむず痒くなった。いつだって九条さんが調査を進めて私はついていくのに必死だったけど、本当に少しでも成長できているのなら嬉しいと思う。
九条さんは私から視線を逸らし、どこか一点を見つめたまま言う。
「麗香は自信家なところがあるので。事実実力がありますし、強い相手に臨むには自信がないといけないので必要なことだと思ってます」
「……はい」
「あまりない展開なので彼女自身も戸惑っているようです。あなたも間に受けず流してください」
「……はい、大丈夫です。麗香さんも余裕ないって分かってますから」
普段マイペースで人のことなんてお構いなしの九条さんが、誰かのフォローを入れている姿は珍しいと思った。
麗華さんをちゃんと理解して、気遣ってるんだなあ、なんて。
硬い枕に頭を乗せてぼんやりと言う。
「それにしても、なんで女は身代わりに気づいたんでしょう……やっぱりそれくらい凄い霊なんでしょうか」
「そればかりは私も不可解で仕方ないです。麗香は自分でも言ってましたがもっと凶悪な霊と戦うことは頻繁にあるはず。素人が送ってきた不完全な呪詛相手に失敗するとは考えにくいんです。女はこちらが招き入れないと入れないくらい不完全なんですよ」
「ですね、ちゃんとノックして律儀っちゃ律儀ですよね」
「我々はまだ何か大事なことを知らずにいるのでは。もしくは勘違いをしているか……」
それだけ言うと九条さんは黙り込んだ。必死に考えているようだった。そんな彼にそれ以上声をかけるわけにもいかず、私は布団を深く被る。
これからあの女をどうするのだろう、と考えながら。
朝になり九条さんと2人リビングへ向かうと、すでに起きていた八重さんたちがダイニングテーブルに座ってぼんやりとしていた。八重さんはあまり眠れなかったのか、目の下にクマを作ってぼんやりとしている。まさこさんも同様だ。
その隣りで麗香さんも眠そうにあくびをしていた。
「おはようございます」
私が声をかけると、麗香さんがチラリとこちらを見る。が、何も言わずに目を逸らされてしまった。
あからさまに避けられている……言わずもがな昨日の夜が原因だろう。
気にするなと九条さんは言ったけれど、ううん、ちょっと困ったことになった。
まさこさんが力なく立ち上がった。
「おはようございます、今何かパンでも」
「あ、いいですよ座っててください! 自分たちでなんとかしますから」
「ああ……ありがとうございます」
疲労困憊な親娘を気の毒に思う。昨日あんなことがあったんじゃな……クマを作ってしまうのも無理はない。
九条さんは座っている麗香さんに話しかけた。
「麗香、少し寝ては。何かあればおこしますから」
「まあ、そうね……離れるのはよくないから、そこのソファにでも横になろうかしら」
茶色の髪をかき上げながら言った。私は九条さんに小声で言う。
「そういう九条さんも眠っていないので、よければ休んでください。私八重さんのそばにいますから」
「そうですか、では少し」
麗香さんはリビングにあるソファにごろりと横になり、九条さんはその下で横になった。私は慌てて和室から布団を持ち、2人にそっと掛ける。
二人ともすぐに眠りについたようだった。それもそうだ、ここ最近ゆっくり出来ていないし徹夜明け。体が心配になる程だ。
私はそんな九条さんたちからそっと離れ、八重さんが座る椅子の正面に腰掛けた。いつもにこやかに笑顔を見せてくれる彼女は今日はそんな余裕もないようで、どこか一点を見つめながらぼんやりしていた。
……こう言う時、何か声をかけた方がいいのだろうか。でも自分のコミュニケーション能力で八重さんを癒せる自信がない。
伊藤さんのパワーが欲しいと思った。あの人みたいにすんなり誰かの心に入って癒せたら。
「ええそうですか。ポッキーのカス布団に落ちそうなんでやめてください」
「ポッキーはあまりカス落ちませんよ」
「たまに落としてますよ、伊藤さんが掃除してます」
「…………」
「添い寝より子守唄歌ってもらえますか」
「私某ネコ型ロボットが出てくる漫画のガキ大将並に音痴ですがよろしいですか」
「ぶはっ、九条さん音痴なんです? 初耳でした!」
「学生時代の合唱はちゃんと口パクしてました」
「そもそも九条さんが合唱とかしてる姿全然想像つかない」
九条さんが学生だった姿さえ思う浮かべられない。私は一人で笑ってしまう。九条さんが音痴だなんて、初めて知った情報だ、そもそも彼が歌うってもうそれさえ信じられない。
布団の中でひとしきり笑い顔を上げる。その時こちらを見ていた九条さんとばちっと目が合う。彼は優しく微笑んでこちらを見ていた。その顔を見て慌てて俯き目を逸らす。もしかして、怖がってる私の気分を和ますためにあんな話をしてくれたんだろうか。
「麗香のいうこと、気にしないでください」
彼の声が聞こえ、顔を上げる。先ほどの発言だろう、とすぐに理解できた。
「あ、いいえ……私も確かにでしゃばって……」
「いいえあなたは間違えたことを言っていませんし、あの状況でよく冷静に判断できたと思います。期間は短いですがこれだけ私と現場をこなしてきたのですし、素人だなんて思っていませんよ」
淡々と言った言葉にむず痒くなった。いつだって九条さんが調査を進めて私はついていくのに必死だったけど、本当に少しでも成長できているのなら嬉しいと思う。
九条さんは私から視線を逸らし、どこか一点を見つめたまま言う。
「麗香は自信家なところがあるので。事実実力がありますし、強い相手に臨むには自信がないといけないので必要なことだと思ってます」
「……はい」
「あまりない展開なので彼女自身も戸惑っているようです。あなたも間に受けず流してください」
「……はい、大丈夫です。麗香さんも余裕ないって分かってますから」
普段マイペースで人のことなんてお構いなしの九条さんが、誰かのフォローを入れている姿は珍しいと思った。
麗華さんをちゃんと理解して、気遣ってるんだなあ、なんて。
硬い枕に頭を乗せてぼんやりと言う。
「それにしても、なんで女は身代わりに気づいたんでしょう……やっぱりそれくらい凄い霊なんでしょうか」
「そればかりは私も不可解で仕方ないです。麗香は自分でも言ってましたがもっと凶悪な霊と戦うことは頻繁にあるはず。素人が送ってきた不完全な呪詛相手に失敗するとは考えにくいんです。女はこちらが招き入れないと入れないくらい不完全なんですよ」
「ですね、ちゃんとノックして律儀っちゃ律儀ですよね」
「我々はまだ何か大事なことを知らずにいるのでは。もしくは勘違いをしているか……」
それだけ言うと九条さんは黙り込んだ。必死に考えているようだった。そんな彼にそれ以上声をかけるわけにもいかず、私は布団を深く被る。
これからあの女をどうするのだろう、と考えながら。
朝になり九条さんと2人リビングへ向かうと、すでに起きていた八重さんたちがダイニングテーブルに座ってぼんやりとしていた。八重さんはあまり眠れなかったのか、目の下にクマを作ってぼんやりとしている。まさこさんも同様だ。
その隣りで麗香さんも眠そうにあくびをしていた。
「おはようございます」
私が声をかけると、麗香さんがチラリとこちらを見る。が、何も言わずに目を逸らされてしまった。
あからさまに避けられている……言わずもがな昨日の夜が原因だろう。
気にするなと九条さんは言ったけれど、ううん、ちょっと困ったことになった。
まさこさんが力なく立ち上がった。
「おはようございます、今何かパンでも」
「あ、いいですよ座っててください! 自分たちでなんとかしますから」
「ああ……ありがとうございます」
疲労困憊な親娘を気の毒に思う。昨日あんなことがあったんじゃな……クマを作ってしまうのも無理はない。
九条さんは座っている麗香さんに話しかけた。
「麗香、少し寝ては。何かあればおこしますから」
「まあ、そうね……離れるのはよくないから、そこのソファにでも横になろうかしら」
茶色の髪をかき上げながら言った。私は九条さんに小声で言う。
「そういう九条さんも眠っていないので、よければ休んでください。私八重さんのそばにいますから」
「そうですか、では少し」
麗香さんはリビングにあるソファにごろりと横になり、九条さんはその下で横になった。私は慌てて和室から布団を持ち、2人にそっと掛ける。
二人ともすぐに眠りについたようだった。それもそうだ、ここ最近ゆっくり出来ていないし徹夜明け。体が心配になる程だ。
私はそんな九条さんたちからそっと離れ、八重さんが座る椅子の正面に腰掛けた。いつもにこやかに笑顔を見せてくれる彼女は今日はそんな余裕もないようで、どこか一点を見つめながらぼんやりしていた。
……こう言う時、何か声をかけた方がいいのだろうか。でも自分のコミュニケーション能力で八重さんを癒せる自信がない。
伊藤さんのパワーが欲しいと思った。あの人みたいにすんなり誰かの心に入って癒せたら。
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