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オフィスに潜む狂気
知らなかった過去
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「ただいま戻りましたーっと」
事務所の扉が突然開き、明るい声がしたのだ。伊藤さんだった。郵便局から仕事を終えて帰ってきた彼は、暑そうに顔を片手で扇ぎながら中へ入ってくる。
が、しかし。すぐに来客に気づく。
「あ、すみません依頼の方……」
「……伊藤さん!?」
花田さんのそんな驚いた声が響いた。呼ばれた瞬間、伊藤さんも目を丸くして驚く。
「……あれ、花田さんじゃないですか!」
私はただ二人を交互に見るしかできなかった。九条さんは未だ困ったように眉を下げてもらった名刺をつまみ上げて見つめていた。
うそ、伊藤さんの知り合いなの?
花田さんは立ち上がって伊藤さんに駆け寄る。
「い、伊藤さんここで何を!?」
「え? 何をって、働いてるんですよ~久しぶりですね花田さん、元気でしたか?」
ニコニコ笑う伊藤さんに気が抜けたのか、花田さんははあーと長くため息をついた。私は何がなんだかよく分からず呆然と二人を眺めた。
伊藤さんは花田さんの顔を覗き込んで尋ねる。
「あれ、依頼で来たんですか花田さん? うちの事務所はちゃんとしてますよ、僕が胸はっておすすめできます!」
伊藤さんがそうキッパリ断言したのを聞き、花田さんが顔を上げた。
「まさか伊藤さんがそういったものが視える人だったなんて……」
「あ、いや僕は全然」
「ぜひ! ぜひここでお願いします。伊藤さんがいると聞けばみんな安心して頼めるし、心強いから……!」
「は、はあ……?」
伊藤さんも訳がわからないとばかりに首を傾げた。だめだ、みんながみんな話が噛み合ってない。
ずっと黙っていた九条さんがようやく声を上げる。持っていた名刺を机の上にポイっと置いた。
「花田さん、まずは落ち着いて。話を整理しましょう」
「あ、は、はい、すみません……!」
「伊藤さんもこちらに腰掛けて」
「あ、はーい」
二人は素直に私たちの前に腰掛けた。そこで不思議そうにしている私の顔を見た伊藤さんが、すぐに笑顔で説明してくれた。
「あ、僕ここに勤める前、花田さんと同じ職場だったんだよね」
「…………え、えええ!」
私は驚いて隣の九条さんを見た。彼は黙って前を向いたままだ。
まさか、こんな大手の営業部を辞めてうちの事務所に? 信じられない……いやでも、伊藤さんが営業部っていうのは非常に納得がいくけども……。
「まあ、二年ちょっとしか働いてないんだけどさー」
あっけらかんと笑う伊藤さんに、花田さんが続けて話した。
「いや、伊藤さんが辞めるってなって一波乱起きましたからね……なんせ二年目なのに結構大きな案件も任されてた凄いルーキーだったし」
(うわあ……漫画に出てくる人みたい)
「仕事だけじゃなくて職場の気遣いとかもできる人だったからマスコットとしてもいなくなったら困ったっていうか」
(ほらみんな拝みたくなる人じゃないか……)
「辞めたあとどうしてたんだろうって思ってたんです。まさかこんなところで再会するとは」
花田さんは嬉しそうに笑った。なるほど、職場からの人望もそれなりにある人がきたとなれば、怪しげな心霊調査も多少は信じられるかも、っていうことか。
九条さんが伊藤さんにことのあらましをざっくり説明した。伊藤さんは驚いたように目を丸くする。
「ええ、僕がいた頃そんな怪奇現象全然なかったのに」
「ここ最近なんだよ、ほんと」
「そりゃ仕事にも関わってきますねえ。でもあれ、部長が反対って、そんな反対するような人じゃあ」
「ああ、伊藤さんが辞めてから変わったんだよ……違う支店から移動してきた人で、その」
花田さんが口籠る。伊藤さんは何かを察したのかそれ以上は聞かなかった。
少し沈黙が流れた後、花田さんが話を切るようにして顔を上げる。
「では、すぐにでもお願いします! 職場の仲間にも伊藤さんが来ると伝えて……部長の許可は、みんなで何とか勝ち取りますから!」
「あ、あの花田さん! 僕は視えない人間なんですよ。現場は行かなくて、基本この事務所の留守番です」
慌てて言った伊藤さんを、花田さんはぎょっとして見た。すぐに縋るような目で伊藤さんに言う。
「では来るだけでも……!」
「そう言われましても……」
困ったような顔をして伊藤さんは九条さんを見た。九条さんは九条さんで、これまた困ったように小さくため息をついた。
なるほど。やけにさっきから九条さんも戸惑っているなと思っていたけど、こうなる事態を予測していたのか。
伊藤さんは視えないがめちゃくちゃ寄せ付けやすい。その体質を仕事上利用することもあるが、危険がありそうな霊の時は、九条さんは絶対に伊藤さんを現場に近寄らせなかった。
今回の場合、怪我人が出ているとのことで、攻撃的な霊かもしれない。だから伊藤さんの現場に、九条さんは難色を示しているのだ。
何も考えてなさそうに見えて、九条さんはちゃんとこういうことはしっかりしている。
事務所の扉が突然開き、明るい声がしたのだ。伊藤さんだった。郵便局から仕事を終えて帰ってきた彼は、暑そうに顔を片手で扇ぎながら中へ入ってくる。
が、しかし。すぐに来客に気づく。
「あ、すみません依頼の方……」
「……伊藤さん!?」
花田さんのそんな驚いた声が響いた。呼ばれた瞬間、伊藤さんも目を丸くして驚く。
「……あれ、花田さんじゃないですか!」
私はただ二人を交互に見るしかできなかった。九条さんは未だ困ったように眉を下げてもらった名刺をつまみ上げて見つめていた。
うそ、伊藤さんの知り合いなの?
花田さんは立ち上がって伊藤さんに駆け寄る。
「い、伊藤さんここで何を!?」
「え? 何をって、働いてるんですよ~久しぶりですね花田さん、元気でしたか?」
ニコニコ笑う伊藤さんに気が抜けたのか、花田さんははあーと長くため息をついた。私は何がなんだかよく分からず呆然と二人を眺めた。
伊藤さんは花田さんの顔を覗き込んで尋ねる。
「あれ、依頼で来たんですか花田さん? うちの事務所はちゃんとしてますよ、僕が胸はっておすすめできます!」
伊藤さんがそうキッパリ断言したのを聞き、花田さんが顔を上げた。
「まさか伊藤さんがそういったものが視える人だったなんて……」
「あ、いや僕は全然」
「ぜひ! ぜひここでお願いします。伊藤さんがいると聞けばみんな安心して頼めるし、心強いから……!」
「は、はあ……?」
伊藤さんも訳がわからないとばかりに首を傾げた。だめだ、みんながみんな話が噛み合ってない。
ずっと黙っていた九条さんがようやく声を上げる。持っていた名刺を机の上にポイっと置いた。
「花田さん、まずは落ち着いて。話を整理しましょう」
「あ、は、はい、すみません……!」
「伊藤さんもこちらに腰掛けて」
「あ、はーい」
二人は素直に私たちの前に腰掛けた。そこで不思議そうにしている私の顔を見た伊藤さんが、すぐに笑顔で説明してくれた。
「あ、僕ここに勤める前、花田さんと同じ職場だったんだよね」
「…………え、えええ!」
私は驚いて隣の九条さんを見た。彼は黙って前を向いたままだ。
まさか、こんな大手の営業部を辞めてうちの事務所に? 信じられない……いやでも、伊藤さんが営業部っていうのは非常に納得がいくけども……。
「まあ、二年ちょっとしか働いてないんだけどさー」
あっけらかんと笑う伊藤さんに、花田さんが続けて話した。
「いや、伊藤さんが辞めるってなって一波乱起きましたからね……なんせ二年目なのに結構大きな案件も任されてた凄いルーキーだったし」
(うわあ……漫画に出てくる人みたい)
「仕事だけじゃなくて職場の気遣いとかもできる人だったからマスコットとしてもいなくなったら困ったっていうか」
(ほらみんな拝みたくなる人じゃないか……)
「辞めたあとどうしてたんだろうって思ってたんです。まさかこんなところで再会するとは」
花田さんは嬉しそうに笑った。なるほど、職場からの人望もそれなりにある人がきたとなれば、怪しげな心霊調査も多少は信じられるかも、っていうことか。
九条さんが伊藤さんにことのあらましをざっくり説明した。伊藤さんは驚いたように目を丸くする。
「ええ、僕がいた頃そんな怪奇現象全然なかったのに」
「ここ最近なんだよ、ほんと」
「そりゃ仕事にも関わってきますねえ。でもあれ、部長が反対って、そんな反対するような人じゃあ」
「ああ、伊藤さんが辞めてから変わったんだよ……違う支店から移動してきた人で、その」
花田さんが口籠る。伊藤さんは何かを察したのかそれ以上は聞かなかった。
少し沈黙が流れた後、花田さんが話を切るようにして顔を上げる。
「では、すぐにでもお願いします! 職場の仲間にも伊藤さんが来ると伝えて……部長の許可は、みんなで何とか勝ち取りますから!」
「あ、あの花田さん! 僕は視えない人間なんですよ。現場は行かなくて、基本この事務所の留守番です」
慌てて言った伊藤さんを、花田さんはぎょっとして見た。すぐに縋るような目で伊藤さんに言う。
「では来るだけでも……!」
「そう言われましても……」
困ったような顔をして伊藤さんは九条さんを見た。九条さんは九条さんで、これまた困ったように小さくため息をついた。
なるほど。やけにさっきから九条さんも戸惑っているなと思っていたけど、こうなる事態を予測していたのか。
伊藤さんは視えないがめちゃくちゃ寄せ付けやすい。その体質を仕事上利用することもあるが、危険がありそうな霊の時は、九条さんは絶対に伊藤さんを現場に近寄らせなかった。
今回の場合、怪我人が出ているとのことで、攻撃的な霊かもしれない。だから伊藤さんの現場に、九条さんは難色を示しているのだ。
何も考えてなさそうに見えて、九条さんはちゃんとこういうことはしっかりしている。
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