視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
141 / 450
オフィスに潜む狂気

探索

しおりを挟む
 そして花田さんの申し訳なさそうな小声がした。

「すみません……あの、あんな感じで……みなさまにも失礼を」

 項垂れている彼を不憫に思った。花田さんを責める気なんてまるでない、やはりこの社会上司に中々逆らえない力関係は存在する。その上あのキャラはこちらの戦意を喪失させるだけのレベルだ。

 伊藤さんが微笑んだ。

「大丈夫ですよ花田さん」

「本当に……申し訳ない……情けない……」

 最初に事務所に来た時の様子が蘇る。あれは納得だ、むしろあんな上司がいながらそれでも相談に来た花田さんはすごいと思う。

 九条さんも言った。

「言いましたが我々のクライアントは花田さんや被害に遭っている社員の方々なので。あのようなただ暴言を吐き散らすだけの存在は別に気にしてませんから」

 花田さんはようやく顔を上げて微笑んだ。だがその時、遠くから怒号が飛んできた。

「花田! 仕事しないなら帰りなさい給料泥棒!」

 再び彼の表情は暗くなってしまった。伊藤さんがすかさず話しかける。

「僕たちのことはいいですから。とりあえず花田さんのお仕事を進めてください、何かあれば声かけますから」

「……はい、すみません」

 花田さんは立ち上がってそろそろと自席に戻っていった。それを三人で見送った後、九条さんがアイコンタクをしてくる。答えるように私たちは静かに殺伐とした営業部から一旦出て行った。






「はーーっ。想像以上にやばいキャラでしたね……」

 伊藤さんが自販機に小銭を入れながらため息をつく。すぐ後ろにある椅子に腰掛けた私と九条さんは頷いた。

 あんな人のそばで毎日働くだなんて、気が滅入りそう。私はさっきの場面だけで十分萎縮しちゃったし。

 購入した飲み物を私たちに渡した伊藤さんも腰掛ける。頂いたお茶を手に持ち、私は頭を下げた。

「あの、さっきは止めてくれてありがとうございました……私その、長谷川さんの思惑に気づかずまんまと乗るところでした……」

 もっと冷静にならなければ、と反省する。九条さんも伊藤さんも気づいていたのに。

 伊藤さんが目を細めて笑った。

「ううん、全然。むしろ、僕のために怒ってくれたんでしょ、ありがとう」

「そ、そう言うと響きはいいですが……カッとなっただけで」

「光さんはこう見えて意外と気が強いですからね」

 水を飲みながら九条さんが言う。さらに、「男性相手にビンタをかますこともありますし」と付け加えられて顔を手で覆った。それは別の依頼の話。ちょっと最低な男性と調査中会うことがあり、つい殴ってしまった経験がある。伊藤さんは大きな声で笑った。

 九条さんはペットボトルとテーブルに置くと、表情を引き締めて言った。

「さて、今回は撮影機材の使用は難しそうです、私と光さんが直接探し出すことになりそうです。先ほど聞いた話ですが、共通して中年男性ときている。間違いなくいるのは中年男性でしょう」

 伊藤さんがココアを飲みながら言った。どうでもいいけど伊藤さんにココアが似合いすぎてる。

「霊になりそうな中年男性について聞き込みしたいけど長谷川さんがいる手前就業中は無理ですねえ。帰り際狙ってみんなを捕まえて話を聞くしかないですね、ちょっと時間かかりそうだなあ」

「あとは一応他部署にもこういった事例がないか聞いてみてください」

「はいはーいっと」

「同時に伊藤さん、この会社で最近亡くなった男性を一応調べて頂きます。営業部に限らず。斉木さんたちは面識のない人物と言っていましたが、他の部署の人かもしれない」

 私はお茶を飲みながら考える。他の部署の人物、か。これだけ大きな会社なら知らない人の方が多いだろうし、ありえる。ただそうなるとなぜ営業部で出没するのかという疑問はあるが、それは置いておこう。

 九条さんはどこか一点を見つめながら言う。

「最近亡くなった中年男性をリストアップしたら、楠瀬さんは一瞬とはいえ男性の顔を見てますから写真を見せて確認しましょう。霊の正体が分かればぐっと浄霊に近づけますからね。それでいきましょう。そして光さん」

「は、はい!」

 突然呼ばれて声が少し裏返った。九条さんはいつもの真顔で私に言った。

「我々はひたすら探索です。どこかで霊に会えるように」

「……出た、探索タイプですか……」

 がくりと項垂れた。こういうパターン、体力使うんだよな。いつだったか夜の学校を歩き回って疲れ果てた事案を思い出す。

「まあ会社全体ではなく、とりあえず営業部近くだけ見てまわりましょうか。資料室など」

「分かりました」

 九条さんが立ち上がったのを見て私も続く。伊藤さんはいつのまにか取り出したパソコンを開いて私たちに手を振った。

「僕は情報見てますから~。いってらっしゃーい」

 その笑顔に手をふり返すと、私たちは廊下を歩き出した。



しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。