視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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 変な声をあげてしまった私を、平然とした顔で見てくる。当然でしょう、とばかりに続けた。

「誰かがあなたの部屋の中になんらかの方法ではいりこんで隠れている可能性がないとは言えないでしょう。そうやって襲われた実例は多くあるんですよ」

「たた、確かにそうですけど!」

「では行きましょう。誰も部屋の中に潜んでいないことを確認します」

 九条さんが車のドアを開ける。私は一気に頭の中が大混乱に陥った。

 つまりは九条さんが部屋に入るってこと? 待ってほしい、最近忙しくて部屋は結構散らかってるんだぞ。今日の朝なんて寝坊したから適当に丸めて放ったパジャマ、机の上に置きっぱなしの化粧品たち。どうしてこんな時に!

「光さん行きますよ」
 
 外から九条さんが覗き込んでくる。どう逃げようもなかった。私はフラフラした足取りで車から降り、アパートのエントランスへと向かっていった。

 オートロックを解除して中に入り込む。階段を上がっていく間、私の体内は祭りが繰り広げられているようにどこもかしこもうるさく騒ぎ立て、反対に脳内は真っ白になっていた。

 ついに辿り着いた扉の前で、ノロノロと鍵を取り出す。隣の九条さんがいう。

「今のところ周りに変な人間はいなそうですね」

「は、はあよかったです……」

 カチャンと鍵を開ける。覚悟を決めるしかたなくドアを開けると、ひっくり返った靴が見えた。多分朝、急いで家を出るときに蹴散らかしてしまったんだろう。出だしから終了、御愁傷様です。

 無駄に咳払いをしながら靴を直してみる。でも九条さん自身はまるで足元なんか見ておらず、鋭い目つきで部屋の奥を見つめていた。

「部屋の構造は」

「え、ワンルームです……」

「そうですか。失礼します」

 そういうと九条さんは靴を脱ぎ、まずすぐそばにあるトイレのドアを開けた。待ってくださいとかいう暇もない。彼はすぐに閉めると、今度は洗面室、そしてお風呂場の中までしっかりと観察した。

 くらくら眩暈がして頭を抱えた。いや、今回ばかりは私が悪い。デリカシーがないとか言ってる場合じゃないんだし、九条さんは悪くないんだ。

 でもまさか、ずっと片想いしてた相手にこんな不意打ちで部屋を(しかもトイレやお風呂まで)見られるなんて思ってなかったもん!!

「とりあえずこちらは大丈夫ですね。あとは部屋」

「あ! ちょ、ちょっと待っ」

 九条さんはさっさと部屋へのドアを開ける。慌てて彼の背中を追うも、もうバッチリ中を見られたあとだった。やはり脱ぎっぱなしの服に物が乱雑に置かれたテーブルの上……は!! あれは部屋干ししていた下着たちでは!? 何回下着見られるつもりなんだ! 全種類コンプリートしちゃうよ!

「あああの!」

「クローゼットもみますよ」

(もういっそ殺せ)

 九条さんは私の返事も聞かずにクローゼットを開けた。その隙にとりあえずかけてある洗濯物を乱暴にベッドの中に放り込んで布団をかけて隠しておいた。もう手遅れなのだが。

 中は洋服などがあるだけで、誰かが入った痕跡などはない。

「最後にベランダも」

「は、はい」

 カーテンを開いてしっかり外を確認する。厳しい表情をした九条さんは、そこまで確認してようやくふうと息を吐いた。

「誰もいなさそうですね」

「よ、よかったです」

 カーテンを閉じ、彼が振り返る。私はすっかり小さくなったまま俯いていた。

 ああ、最近忙しかったとはいえ、こんな状態の部屋を見られるなんて。女として終わった。そういえば前、菊池さんの家に訪ねた時は部屋は綺麗に見えてもクローゼットの中は服とかが積み重なってたな……今更ながらあの時の菊池さんの気持ちがちょっとわかった。

「では、私が出たらすぐに鍵を掛けてあとは誰が来ても開けないことですよ。明日朝もまた迎えが来ますから、それまでは一人で外に出ないこと」

「はい」

「外出するなら必ず誰かとですよ」

「私友達もいないから、外出なんてしないです」

「そうですか、では何か用があってどうしても外に出たくなったら私に連絡してください。付き合います」

 一気にそういうと、九条さんはさっさとまた玄関へ戻っていく。慌ててあとを追った。

「あ、九条さん、ありがとうございました、お見苦しいものをすみません」

 靴を履きながら、彼は小さく首を傾げる。

「見苦しい?」

「散らかってたし、色々……」

「そうでしたか? 他の人間がいないかどうかに注目してたので、部屋の状態なんて見てませんでした」

 そう言った彼の言葉は、果たして本音なのか。九条さんなら本当に視界に入ってなかった気もするし、もしかしたら珍しく気遣ってそう言ってくれたのかもしれない。

 彼は最後に私に振り返ると、再び力強く言った。

「私が出たら鍵閉めてくださいね」

「はい」

 九条さんはそのまま部屋から出て行ってしまった。ドアが閉じた瞬間、言われた通りしっかり鍵を掛けてドアガードもしておく。これで戸締りは大丈夫。


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