視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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聞こえない声

頭がいっぱい

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「あ、こんにちは」

「どうしました? なんか叫び声が聞こえた気がして」

「ちょっと、こう……霊が見えちゃって、はは」

「大丈夫ですか、顔真っ青です!」

 慌てふためきながら言ってくれる菊池さんに頷いて見せる。

「大丈夫です、びっくりしただけ。よくあるので」

「よくあるんですか……そりゃそうか」

「それより、多分菊池さんのおかげで助かりました。ありがとうございました」

「え、僕?」

「というか大福でしょうか? ちょうど消えてくれたので。よかったです」

 やっぱり菊池さんについてるんだろうなあ大福は。タイミング的に大福と菊池さんがきて来れて消えたし、助けられたんだよね。

 菊池さんは困ったように頬を掻いた。

「はあ、僕は何もしてないんですが……」

「いえ、助かりました。すみませんお騒がせして、どうぞ掛けてください」

 ようやく来客をソファに案内する。菊池さんは素直にソファに腰掛けた。私はひっくり返った椅子をまずは直し、その後簡単にお茶を用意するために裏へ入る。もう一度自分の身だしなみを整えた。床に這いつくばってたので服が少しシワになっていた。

 菊池さんに気づかれないようにため息をついた。ああ、やっぱり首無し私の近くにいるんだな。菊池さんがきてくれなきゃどうなってただろう。まあ、害を与えてくるような霊という感じはしないけど、でも何が起こるかわからないし。

 気を取り直してお茶を運ぶ。菊池さんが頭を下げる。

「すみません、ありがとうございます」

「いえ」

「九条さんたちからまだ何も連絡来ないんですか?」

「はい、もうそろそろ来てもいい頃なんですけどね」

 裏返しになったスマホを見て先程の体験を思い出して身震いをする。やっぱり裏返したままにしておこう。

 時計を見て、伊藤さんと九条さんを心配する。何もないよね、九条さんって護身術習ったことあるっていってたし、前も刃物持った犯人とやり合ってたし。

 二人とも怪我とかないといいけど……。

「どうですか、調査の方は」

 菊池さんがお茶を飲みながら尋ねてくる。私は素直に説明した。

「Y.Sというイニシャルに合う人を探しています。その、体を切断されて見つかった女性の被害者を中心に。でも正直見つかっていません。九条さんは、まだ未発見の方じゃないかと」

 菊池さんが無言で眉を顰める。私は俯く。

「できれば浄霊してあげたいんですけど、やっぱりあまりにヒントが少ないから。多分、結局は除霊になると思います」

「そうなんですか……」

「調査が長引いてて申し訳ないです」

「いえ、僕がお願いしてるんですから。気にしないでください」

「可哀想な霊なんです。なんとかしたいんですけどね。途中でストーカー女とか入ってきたし、思うようにも進まなくて……」

 私が項垂れるのを、菊池さんは不憫そうに眺めた。

「顔疲れてますもんね黒島さん」

「え。そう見えます?」

「はい凄く」

 力強く断言されて落ち込んだ。そうか、そんなに顔に出てるのか……! 女としてどうなんだそれも。

 自分の顔を気にして触っていると、菊池さんが小さく笑った。目を細めて肩を揺らす。

「すみません、僕失礼なこと言いましたね。そんなに気にしないでください、黒島さんはいつでも可愛いから大丈夫です」

「か!?」

「あ、すみません。正直な感想なんですけど」

 真っ直ぐに可愛いなんてなかなか言われ慣れていない私はどう反応していいのかわからずあせあせ慌てた。こう言う時、気の利いたことを返せないのがダメなんだよな。

 そしてふと思い出す。そういえば告白の返事、まだなんだよなあ……。

 色々あって忘れていた。ストーカー女が出てきたり首なしがついてきたり。バタバタしてるからすっかり頭から抜け落ちていたのだ。

 そう思い出した瞬間、気まずく感じ俯いた。そんな私に気がついていないのか、菊池さんが言う。

「あ、そうだ。待ってるだけも落ち着かないですし、ケーキでも買いに行きませんか? 僕今日朝寝坊したから車なんです」

「え、でも」

「車ならよっぽど大丈夫でしょう、今女はこの近くにはいないはずですし。九条さんたちの分も」

「ううん……」

「黒島さん、ソワソワ落ち着かないみたいだから。少し外に出て気分転換しませんか。ドライブがてら」

 私が九条さんたちを心配して落ち着かないのを、彼はなんとかフォローしようとしてくれているようだった。優しく笑うその人にありがたいと思う。

 でも。私は小さく首を振った。

「ありがとうございます、行きたい気持ちはありますけど……やっぱりここで連絡を待とうかなと」

 未だ鳴らず裏を向けられたスマホを眺める。私のために二人とも今動いてくれているんだし、どうしても外出する気にはなれない。せめて二人の無事をしっかり確認してから動きたい。

 怪我とかしてないかな。

 ぼんやりしている私をしばらく見ていた菊池さんだけれど、少し経ってふうと息を吐いた。私が顔を上げると、彼はどこか寂しげに笑っていた。

「やっぱり、黒島さんの好きな人ってこの事務所にいる人ですか、伊藤さんとか九条さんとか」

「え……」

「まあ、二人ともかなりモテる人たちでしょうしね。女が放っておかないタイプ。そうかなーって思ったんですけど、違いました?」

 少し首を傾げて尋ねられ、私は固まってしまった。いや、たしかに普通に予想すればそうなるよね。九条さんも伊藤さんもいい人たちだし絶対モテるタイプ。でもそれが当たってるなんて。恥ずかしいやらなんやら。

 返事ができない私を見て菊池さんが笑った。

「黒島さん、結構顔に出るんですね」

「す、すみません」

「謝ることないです。そりゃ心配ですよねえ。相手は女と言えども凶器持って暴れられたらね」

 菊池さんはそう優しく言ってお茶を飲んだ。私は少し視線を落としたままじっとテーブルの一部だけを見つめていた。

 未だ鳴らないスマホをチラリと眺め、拳を握る。あまり慣れていない状況に緊張するも、必死に声を出した。

「あの……菊池さん」

「はい?」

「この前いただいたお話なんですが」

 忙しくて考えるのを後回しにしていたけれど、菊池さんが告白してくれたこと。嘘ではなく本当に嬉しかった。私の視える力を受け入れた上で告白してきてくれたなんて生まれて初めてのこと。

 婚約までしたあの人だって……離れていったのに。

 だから彼の言葉に救われた。私にはもったいない人だし、きっと楽しい生活を暮らしていけると思う。

……ただ、それでも。

「私やっぱり、お付き合いできません。頑固で自分でも呆れるんですけど、中々今は考えられないんです。すみません」

 首なしに入られた時、首を切られる直前に大事な人に会いたいと強く願った。その強い想いを首なしから感じ取った時、私の頭の中で浮かんだのはあの人だった。

 非常に残念だ。人生最後の瞬間浮かび上がってくるのがポッキー齧ってる姿なんて。なんて締まりがない。

 しかも、『他の人と付き合ってもいいですよ』なんてこれ以上ない脈なし発言。完全に相手にされていないことだって分かっているのにこの有様だ。

 しょうがない。私はどうしてもまだ、彼で頭がいっぱいみたいだ。


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