222 / 450
家族の一員
日常
しおりを挟む
「あれー? 光ちゃん?」
聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げる。そこにいたのは最高の癒し、伊藤さんだった。片方に小さなエクボを浮かべ、子供のような笑顔で私を覗き込んでいた。
そしてその背後にはなんと九条さんが、無表情で立ってこちらを見ていたのだ。
「あ、あれ、伊藤さんに九条さん!」
「偶然だね。さっき仕事のことで九条さんに電話したらさあ、寝ててまだ今日朝から何も食べてないんだって! もう呆れて無理矢理食事に連れ出したとこ!」
口を開けて笑う伊藤さんに、先ほどから落ち込んでいた心がすうっと楽になる気がした。つい頬が緩み笑ってしまう。
「朝からですか? 寝過ぎですね九条さん」
「ねえ? まあ僕もちょうど晩御飯どうしようか迷ってたからよかったけど。光ちゃんは? 買い物でも?」
そう尋ねられてうっと答えに困る。いやあ、街コンに一人で参加して惨敗し落ち込んでました、なんて言えないよなあ……。私は苦笑いする。
「ちょっと、まあ、そんな感じですかね」
正直に言えない私は誤魔化す。伊藤さんはそれ以上何も聞いてこなかった。買い物といっても荷物は小さな鞄一つの私には無理がある嘘だ。
ずっと黙っていた九条さんが口を開いた。
「食事はとりましたか」
「え? いいえ、まだ……」
「では一緒に行きますか。まだ何食べるか決まってませんが」
誘ってくれた彼の方を見る。相変わらず白い服に黒いパンツ。今日は前髪の一部が寝癖でくるんとカールしていた。
私はつい笑う。それでも、この二人に囲まれたことが非常に嬉しくなって頷いた。
「はい、ご一緒していいですか?」
「うん行こう行こう! さーて何食べようねー」
私は伊藤さんと九条さんに並ぶ。さっきまでの落ち込みようが嘘のように心が穏やかになる。心地いいこの空間が、やっぱりとても好きだなと思ってしまった。
ここ最近依頼もなく穏やかに過ごしている。少し前まで立て続けに調査があったので、私としてはたまにはこういう静かな日が続くのもいいんじゃないかなと思っている。
事務所で伊藤さんから簡単な仕事をもらいゆったりこなしていた。まあ私と九条さんは暇だが、伊藤さんはいつも忙しそうなのだ。以前の調査の報告書などを一通りまとめたり、その後の生活はどうか依頼主に電話で聞いてくれたりと、彼はいつも完璧に仕事をこなしている。
その日もソファで寝ている九条さん、パソコンに向かっている私と伊藤さんで静かに時間は流れていた。伊藤さんは少し前までやっていた調査の報告書を作っているようだった。
「よーし完成!」
そんな言葉が聞こえて顔を上げる。彼はにこやかに立ち、プリントした資料をまとめていた。
「お疲れ様です」
「この前の調査は簡単だったからねー長いと報告書も辛いけど」
「そうですよね、口頭で九条さんから言われた内容をあんなふうにまとめられるのすごいと思います」
「いやいやそれが僕の仕事だし。視えないからそういうとこはやれないと。さ、郵便局に行ってこようかな。そのままお昼買ってこよー」
「お疲れ様です」
封筒と財布を持った伊藤さんは私にヒラヒラと手を振り、そのまま事務所を後にする。ちらりと時計を見上げれば、確かにもうそろそろ昼食の時間だった。
私は持ってきたお弁当を取り出す。たまには外食でもいいかと思うこともあるが、なんせ九条さんの分があるため結局作ってきてしまう。外に出るのが面倒なあの人は、気分が乗らないと外食も来てくれない。
まあ弁当手当も貰っちゃってるからね。私は手に持ったお弁当をいつものように九条さんのデスクの上に置いていた。さて、いつ起きるやら。
自分の分を食べようと席に座った時、ごそりと物音がした。顔を上げると、ソファから体を起こした九条さんが見える。相変わらず後頭部は寝癖で跳ねている。ほんと、顔面無駄遣い。
どこかぼーっとしている九条さんに呆れて言った。
「おはようございます、お昼ですよ。食事置いておきました」
彼は私の言葉に反応もなく、半目でゆっくり当たりを見渡す。そして不思議そうに首を傾げた。
「…………おかしいですね、今私は氷の魔法が使える女王と話していたはずなんですが」
「何を言ってるんですか、昨日のテレビでやってたアニメでも夢に出てきたんです? 寝ぼけてますよ、ここは事務所です」
「……そうでした、昨日テレビで眺めていたんでした」
頭を掻いてそう納得する。私ははあとため息をついた。いい大人がこんなに寝ぼけることある? 何に一番呆れているかって、ちょっと可愛いと思った自分に対してだ。
聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げる。そこにいたのは最高の癒し、伊藤さんだった。片方に小さなエクボを浮かべ、子供のような笑顔で私を覗き込んでいた。
そしてその背後にはなんと九条さんが、無表情で立ってこちらを見ていたのだ。
「あ、あれ、伊藤さんに九条さん!」
「偶然だね。さっき仕事のことで九条さんに電話したらさあ、寝ててまだ今日朝から何も食べてないんだって! もう呆れて無理矢理食事に連れ出したとこ!」
口を開けて笑う伊藤さんに、先ほどから落ち込んでいた心がすうっと楽になる気がした。つい頬が緩み笑ってしまう。
「朝からですか? 寝過ぎですね九条さん」
「ねえ? まあ僕もちょうど晩御飯どうしようか迷ってたからよかったけど。光ちゃんは? 買い物でも?」
そう尋ねられてうっと答えに困る。いやあ、街コンに一人で参加して惨敗し落ち込んでました、なんて言えないよなあ……。私は苦笑いする。
「ちょっと、まあ、そんな感じですかね」
正直に言えない私は誤魔化す。伊藤さんはそれ以上何も聞いてこなかった。買い物といっても荷物は小さな鞄一つの私には無理がある嘘だ。
ずっと黙っていた九条さんが口を開いた。
「食事はとりましたか」
「え? いいえ、まだ……」
「では一緒に行きますか。まだ何食べるか決まってませんが」
誘ってくれた彼の方を見る。相変わらず白い服に黒いパンツ。今日は前髪の一部が寝癖でくるんとカールしていた。
私はつい笑う。それでも、この二人に囲まれたことが非常に嬉しくなって頷いた。
「はい、ご一緒していいですか?」
「うん行こう行こう! さーて何食べようねー」
私は伊藤さんと九条さんに並ぶ。さっきまでの落ち込みようが嘘のように心が穏やかになる。心地いいこの空間が、やっぱりとても好きだなと思ってしまった。
ここ最近依頼もなく穏やかに過ごしている。少し前まで立て続けに調査があったので、私としてはたまにはこういう静かな日が続くのもいいんじゃないかなと思っている。
事務所で伊藤さんから簡単な仕事をもらいゆったりこなしていた。まあ私と九条さんは暇だが、伊藤さんはいつも忙しそうなのだ。以前の調査の報告書などを一通りまとめたり、その後の生活はどうか依頼主に電話で聞いてくれたりと、彼はいつも完璧に仕事をこなしている。
その日もソファで寝ている九条さん、パソコンに向かっている私と伊藤さんで静かに時間は流れていた。伊藤さんは少し前までやっていた調査の報告書を作っているようだった。
「よーし完成!」
そんな言葉が聞こえて顔を上げる。彼はにこやかに立ち、プリントした資料をまとめていた。
「お疲れ様です」
「この前の調査は簡単だったからねー長いと報告書も辛いけど」
「そうですよね、口頭で九条さんから言われた内容をあんなふうにまとめられるのすごいと思います」
「いやいやそれが僕の仕事だし。視えないからそういうとこはやれないと。さ、郵便局に行ってこようかな。そのままお昼買ってこよー」
「お疲れ様です」
封筒と財布を持った伊藤さんは私にヒラヒラと手を振り、そのまま事務所を後にする。ちらりと時計を見上げれば、確かにもうそろそろ昼食の時間だった。
私は持ってきたお弁当を取り出す。たまには外食でもいいかと思うこともあるが、なんせ九条さんの分があるため結局作ってきてしまう。外に出るのが面倒なあの人は、気分が乗らないと外食も来てくれない。
まあ弁当手当も貰っちゃってるからね。私は手に持ったお弁当をいつものように九条さんのデスクの上に置いていた。さて、いつ起きるやら。
自分の分を食べようと席に座った時、ごそりと物音がした。顔を上げると、ソファから体を起こした九条さんが見える。相変わらず後頭部は寝癖で跳ねている。ほんと、顔面無駄遣い。
どこかぼーっとしている九条さんに呆れて言った。
「おはようございます、お昼ですよ。食事置いておきました」
彼は私の言葉に反応もなく、半目でゆっくり当たりを見渡す。そして不思議そうに首を傾げた。
「…………おかしいですね、今私は氷の魔法が使える女王と話していたはずなんですが」
「何を言ってるんですか、昨日のテレビでやってたアニメでも夢に出てきたんです? 寝ぼけてますよ、ここは事務所です」
「……そうでした、昨日テレビで眺めていたんでした」
頭を掻いてそう納得する。私ははあとため息をついた。いい大人がこんなに寝ぼけることある? 何に一番呆れているかって、ちょっと可愛いと思った自分に対してだ。
47
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。