視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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家族の一員

その後の穏やかさ

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 私は慌ててそっちに近寄ってみるが、もうその子の姿は見えなくなってしまっていた。

「消えちゃいました……! 浄霊できたんでしょうか?」

「元々未練が強くて残ってたわけではなさそうな霊ですからね。時間が経てば必ず眠れるでしょう」

 とても恐ろしい霊だった。でもそれは人間が作り上げたもの。元々はあの子に問題はなかったんだ。

 穏やかに眠って、本当の家族に会えるといいな。

 そうしんみり思っているところに、背後から声がした。九条さんと振り返ると、住職が私たちに向かって頭を垂れていた。彼は顔を涙と汗でぐっしょりにしている。

「申し訳ない……! 自分が一体なんてことをしたのか。言い訳もできん。申し訳ない……!」

「止めきれなかった私も責任があります、人形を他人へ放り投げたのも。本当に申し訳ありませんでした……!」

 二人とも涙ながらに私たちに頭を下げた。その光景もまた見ているのが辛い。彼らがしたことは酷いことだが、大事な家族を亡くしたという出来事は正常な判断を失いかねない大きな出来事だとわかるからだ。

 私は困ったように眉を下げたが、隣の九条さんはしっかりと答えた。

「まあ、あなた方へ言いたいことはもう全て言いました。結果こうして解決できたのでよかったとは思います。
 ですが二度とこんな真似はしないでください。住職」

 呼ばれた彼は俯いたまま肩を震わせる。

「あなたに出来る償いは早く元気になって今まで通り働くことです。あなたは人形についてはスペシャリストで頼りにしてる者は大勢いるんですから。人形の供養をこれからも続けてください」

 そう言って、九条さんが私を見た。

「……ということでよろしいですか光さん。今回一番大変な思いをしたのはあなたですから」

「はい」

 私は微笑んで答えた。まあ確かに大変だったけど、とりあえず無事解決したんだしこれ以上住職たちを責める気にはなれない。

 私は彼らに向き直り、先ほど拾ったエリさんの写真を住職の前にそっと置いた。

「エリさんもきっと、ご両親を見守ってると思いますよ」

 そう声を掛けると、彼らは声もなくただ涙をこぼした。

 黙っていた伊藤さんが私たちのそばに寄ってほっと息を吐いて微笑んだ。私は預かっていたお守りを彼に返し、どこか軽くなったように感じる体に満足した。












 それから私は九条さんの家から自宅に帰り、久しぶりにゆっくり羽を伸ばした。彼らの提案で仕事も三日休みをもらい、疲れた体を休ませたのだ。

 帰宅して体重を測ってみたらびっくり。三日間で四キロも痩せていた。食事はそれなりに取っていたはずだというのに、まさかこんなに落ちているなんて。思えば住職もげっそり痩せてたなあ、なんて思い出す。

 頂いた休暇で美味しいものを食べ、たっぷり眠った。気晴らしに買い物もして楽しむと体重はすぐに元に戻った。よかったけど残念でもある。女心は複雑だ。

 ちなみに電話で麗香さんにことのあらましを説明すると、よかったわね、と言いつつどこか拍子抜けしてるような言い方だった。気になって詳しく話を聞いてみると、どうやら北海道の除霊を必死にこなして早めに帰ってくるよう無理していたらしく、頑張って損した、と膨れていたのだ。

 私のためにそう努力してくれていたことを知らなかったので素直に嬉しかった。それを告げると、『別にあんたのためじゃなくてその人形が見たかっただけなんだから』ってツンデレのお手本みたいな発言をされて笑った。





 


 久しぶりに事務所に出勤し、私は清々しい気持ちでその扉を開けた。休暇を終え、体調もバッチリ元に戻っている。HPマックスで出勤する。

 まだ早朝だ、それでも伊藤さんは既に来ていた。一番乗りだと思い込んでいた私は驚きで目を丸くする。彼は座って何やらパソコンを打ち込んでいた。私を見てほっとしたように微笑む。

「おはよう!」

「おはようございます伊藤さん、早いですね。おやすみありがとうございました!」

「いやいや、当然だよ。今回は光ちゃんほんと災難だったからね~」

「伊藤さんだって九条さんだって、寝ずに色々調べたりしてくれたので……本当に感謝しています」

 私はしっかり頭を下げてお礼を言った。二人とも私のために必死に動いてくれて無事あそこまで辿り着けたのだ。それがなかったからと思うとゾッとする。

 伊藤さんは笑って首を振った。

「全然だよ、気にしないで。それよりやっと光ちゃんの顔に元気が戻ってきてて安心したよ」

「え。私そんな酷い顔してました?」

「げっそりって感じだったね」

「実は帰宅して体重測ったら四キロ痩せてて……」

「ええ! あの短期間でそればやばいよ」

「でももうすっかり戻っちゃいました。このおやすみの間めちゃくちゃ食べたんで」

 私は笑いながらコートを脱いで掛ける。二人でたわいない話を交わしていると、伊藤さんがふと思い出したように言った。

「そういえば住職ね。入院の原因もやっぱりあの人形だったみたいでね。あれ以降順調に回復してるみたいだよ。退院もそう遠くないみたい」

「あ、そうだったんですか!」

 病室にいた彼はガリガリに痩せて正気を失っていた。多分人形に魅入られていたせいなのだ。もう解決してしまった今、彼は元の状態に戻っていくのだろう。

 そうなれば再び住職として働き出すのかな。力はやっぱり凄い人らしいし、九条さんが言うように世のために頑張ってほしいと思う。

 伊藤さんも同じように考えていたらしく、私の心を読み取るようにして言う。

「まあ今回はダメなことしちゃったけど、元気になったらまた困ってる人のために働いてほしいね」

「はい、私もそう思ってました」

「けど結果がよかったからこう言えるんだけどさ。こっちは完全にとばっちりだしね。家にすら帰れなくて大変だったよねえ」

 言われて苦笑する。そうそう、九条さんの家に居候して、お風呂にぶち込まれて冷水掛けられて。目が覚めたら隣に人形いたり、散々だった。

 私は朝の掃除をするために布巾をキッチンで軽く濡らしてテーブルを拭く。いつ来客があるか分からないので、一応事務所の清潔は保っておかねば。手を動かしながら話す。
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