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待ち合わせ
目撃証言
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目の前のドアを開けると風が吹いて私たちの髪を撫でた。離れたところにエントランスが見える。階段と違って明るく眩しいほどに照明がついていた。目に刺激が強い。
一度エントランスの方に行ってみるが、そこにはあの悲しい気はなかった。階段だけにあるらしい。私は九条さんに言う。
「ここは何も感じません、階段だけにありました」
「同じ意見です。肝心の本人はまだ姿を見せませんが……何度か行ってみるしかないですね。他の場所も見てみましょう」
私たちは各階を歩いて意味たり(不審者と思われないだろうか……)また階段を降りたりとマンション内を観察して歩く。だがめぼしい霊は特にみられない。まあ、よくあることでもある。最初はあっちも警戒することが多い。
「うーん、いそうな気配は感じるけど姿は見えませんねえ」
「一度原さんのところに戻りましょうか」
私たちは散策を一旦休みにし、信也が待つ部屋へと戻った。彼の部屋の中で何か起こればいいのだが、期待できるのかどうなのか。
三階にたどり着いた時、部屋の前で信也と誰かが立ち話をしているのに気がついた。相手は男性のようだ。パーカーを着た茶髪の青年で、私たちに振り返るとどこかすがるような目でこちらを見た。
信也が私たちを見る。
「あ、お帰りなさい。さっき言ってた隣の高橋です」
「あ、どうも……さっき原から連絡もらって、すぐ部屋に来たんです」
ペコリと私たちに頭を下げる。とりあえずみんなで中に入ろうと言ってきた信也に賛同し、私たちはリビングへと通された。みんなでテーブルを囲って座り込むと、まず九条さんが挨拶をした。
「九条尚久といいます。心霊調査をしています」
「黒島光です」
「あ、どうも! 高橋です。原から連絡きた時はびっくりしました、まさかコイツがそういうところに相談行ってたなんて。だって原は見えないみたいなのに」
ちらりと隣に座り信也を見る。どこかバツが悪そうに信也は視線を逸らした。もしかして、視えるといった高橋さんの言葉を信じない発言でもしていたんだろうか。
九条さんは話の先を促した。
「では早速ですが、高橋さんが目撃された霊の話を伺っても?」
「あ、はい。
俺は幽霊とかそういうの今まで見たことないタイプだったんです。でもここに引っ越してきて、まず原と同じように時々部屋が揺れることに気がつきました。地震とかじゃない揺れですよ、何かが部屋に衝突したのかと思ったくらいです。
変だなーと思って、最初は手抜き工事のせいでなんか欠陥があるのかとも思ってたんですけど。そんなある日、仕事帰りにエレベーターを呼び出した時のことです」……
1. 髪の長い女
時刻は夜の八時くらいでした。明るいエントランスを抜けてエレベーターを呼び出して。その時、待つ間スマホを眺めてたんです。そのまま到着してきたエレベーターに足を踏み入れた時、中に人がいたことに気がつきました。
髪の長い女性がこっちに背中を向けて立ってたんです。あれ? って思いましたよ、普通エレベーターに乗る時って扉側を見るじゃないですか。でも疲れてたのか、今まで心霊体験なんかしたことがなかったせいか、深く考えず乗り込みました。
三のボタンを押した時、もう一つの違和感に気づいたんです。一階についたのになんでこの人は降りないんだろうって。例えば忘れ物してまた部屋にもどるとか、そういうこともあるかもしれないけど、でも手元のボタンは俺が押した三以外点灯していなかった。
はっとして振り返った時にはもう誰もいませんでした。でも間違いなく女は立ってましたよ、あれは見間違いなんかじゃないです。
「女性の特徴は」
九条さんが尋ねると、高橋さんは腕を組んで唸った。
「うーんこれが、後ろ姿だったし、一瞬見ただけで全然覚えてないんですよ。黒髪で長いってだけ。役に立てなくてすみません」
「いいえ、それが普通ですよ。大体の年齢などでも分かりませんか」
「え? うーん、何となくですけどそこそこ若い人だと思いますよ。おばあちゃんとかではないし」
若くて髪の長い女性、か。残念ながら顔は見ていないとのこと。これから私たちが会えるといいのだが。
「とにかく怖くなっちゃって、自分の部屋に飛び込みました。原が帰ってきた時にそのエピソード話したんですけど、こいつ見間違いだーって信じなくて」
やや恨みがましそうに信也を見る。彼は何も答えなかった。
「えーと、それが一ヶ月前のことですかね。しばらくは怖くって、夜は階段を使うことにしたんです。エレベーターは嫌だなって思って。そしたらまさかの今度、一階の階段に別の幽霊見ちゃって」
参った、というように高橋さんは頭を抱えた。全く霊の存在なんて見えてない信也に比べて、結構感じやすい体質らしい。
信也は自分でも言っていたがそういう力が鈍い方なんだろう。もし今までそういう経験をしていたら、私が視えるという話も引かずにいられたかもしれない、と思う。
「今度は子供! 子供だったんですよ!」
高橋さんの興奮した声が響いた。
2. 小さな子供
あれも夜でしたね。仕事休みの日で、夜に酒買いにコンビニ行こうって思ったんです。時刻は多分夜の九時とかかなあ。さっきも言ったようにエレベーターはごめんだったので階段を使ってました。
ここのマンションの階段ってどうも薄暗い感じなんですよね。夜だからもちろんライトとかついてるんですけどどうも心もとない感じで。そんな中一階を目指していました。
もう少しで着く、って時に、一階部分の照明が消えてることに気づいたんです。あー管理会社に言わなきゃなーと軽く考えて進んだんですけど……。
ふと一階にたどり着く最後の段差に、人影があったんです。一瞬また女の幽霊でも見たのかとびびったんですけど、大きさが子供だったのですぐ冷静になりました。
子供が階段に座り込んでいたんです。髪の短い子でした。後ろ姿だったから、男の子か女の子かよくわかんなかったけど……。暗かったし。ここのマンションの子供がなんか理由あってそこにいたのかなと思って、俺声かけたんです。
『どうしたの、もう遅いよ。おうちは?』
俺の声にその子は振り向きませんでした。ひどく俯いたまま声も出さずに黙ってて。もしかして泣いてるのかも、と思って困ったんですよね。ほら、こういう時男って不利でしょう? 変に関わって誘拐犯扱いされたりしてもなあって。
時間も時間だし、とりあえず警察に電話したほうがいいかなあって思って、ポケットに入れておいたスマホを取り出したんです。でも一旦、自宅の電話番号とか言えないか聞いてみようかなって思って再度その子の方を向きました。
『ねえ、おうちの電話番号とか』
いませんでした。子供はどこにも。本当に目を離したのは一瞬だったのに、消えちゃったんです。
うちの階段って結構重い扉を開けないとエントランスに抜けれないんですよ、音もするはずだし光だって漏れるはず。気づかないわけがないんです。
あ、やばいもんみたかも。そう気づいて慌てて元きた階段をのぼりました。酒なんて買ってる場合じゃないですよ。
原が家にいるみたいだったからすぐにこいつの家に行って今あったこと説明したんですけど、いまいち信じてない感じでしたけどね。絶対見たんですけどね!
女性の次は小さな子供。確かに、九条さんと今日階段を見た時扉なども見ている。一瞬目を離した隙に子供が一人気づかれず外に出るのは考えにくい。
生きている人間ではなかった、と考える方が私たちにとっては納得がいく。
九条さんが質問した。
「どれくらいの年齢かわかりますか」
「うーん、小さいって言っても、こう、小学生ぐらいではあったと思いますよ。座ってたし顔見えてないからなんとも言えないけど、中学年くらいじゃないのかなあ……」
「男女かどうかはわからない、とおっしゃってましたね」
「髪は短かったですけどね。服装とかまではちゃんと見てなくて、スミマセン」
「いいえ。お話ありがとうございます」
丁寧に頭を下げたので私も続く。高橋さんはふうと息を吐くと、ずっと黙っていた信也に言った。
「でもお前さ、部屋が揺れるとかは自分も体験したからわかるけど、幽霊とかは見間違いだーって言ってたのに、何で急にこんな調査始めたの?」
不思議そうな顔だった。信也は何か言いかけようとして黙る。確かに私もちょっと疑問ではある。聡美だって、霊とかは絶対信じてないのによく連れてきたな。まあ多分、あの子は完全に面白がってるんだろう。
信也は言葉を濁した。
「まあ、いいじゃん。気になることは放っておけないタイプなんだよ。またなんか聞きたいことあったら連絡するから、今日はありがとな」
「いやお礼いうのはこっちだよ、俺あれ以降階段もエレベーターも使うのドキドキだもん。引っ越すにしても金ないしさ。解決してくれたらありがたい。えーと九条さんと黒島さん、よろしくお願いします!」
高橋さんが深々と頭を下げた。明るくて素直な人だな、と微笑む。彼は信也と少しだけ会話を交わすと、そのまま部屋から出て行ってしまった。
残された私たちは、仕掛けた機器の設定を再度確かめながらとりあえず控室に入ることにする。信也は特に何か言うでもなく、私たちの言うことに従った。
一度エントランスの方に行ってみるが、そこにはあの悲しい気はなかった。階段だけにあるらしい。私は九条さんに言う。
「ここは何も感じません、階段だけにありました」
「同じ意見です。肝心の本人はまだ姿を見せませんが……何度か行ってみるしかないですね。他の場所も見てみましょう」
私たちは各階を歩いて意味たり(不審者と思われないだろうか……)また階段を降りたりとマンション内を観察して歩く。だがめぼしい霊は特にみられない。まあ、よくあることでもある。最初はあっちも警戒することが多い。
「うーん、いそうな気配は感じるけど姿は見えませんねえ」
「一度原さんのところに戻りましょうか」
私たちは散策を一旦休みにし、信也が待つ部屋へと戻った。彼の部屋の中で何か起こればいいのだが、期待できるのかどうなのか。
三階にたどり着いた時、部屋の前で信也と誰かが立ち話をしているのに気がついた。相手は男性のようだ。パーカーを着た茶髪の青年で、私たちに振り返るとどこかすがるような目でこちらを見た。
信也が私たちを見る。
「あ、お帰りなさい。さっき言ってた隣の高橋です」
「あ、どうも……さっき原から連絡もらって、すぐ部屋に来たんです」
ペコリと私たちに頭を下げる。とりあえずみんなで中に入ろうと言ってきた信也に賛同し、私たちはリビングへと通された。みんなでテーブルを囲って座り込むと、まず九条さんが挨拶をした。
「九条尚久といいます。心霊調査をしています」
「黒島光です」
「あ、どうも! 高橋です。原から連絡きた時はびっくりしました、まさかコイツがそういうところに相談行ってたなんて。だって原は見えないみたいなのに」
ちらりと隣に座り信也を見る。どこかバツが悪そうに信也は視線を逸らした。もしかして、視えるといった高橋さんの言葉を信じない発言でもしていたんだろうか。
九条さんは話の先を促した。
「では早速ですが、高橋さんが目撃された霊の話を伺っても?」
「あ、はい。
俺は幽霊とかそういうの今まで見たことないタイプだったんです。でもここに引っ越してきて、まず原と同じように時々部屋が揺れることに気がつきました。地震とかじゃない揺れですよ、何かが部屋に衝突したのかと思ったくらいです。
変だなーと思って、最初は手抜き工事のせいでなんか欠陥があるのかとも思ってたんですけど。そんなある日、仕事帰りにエレベーターを呼び出した時のことです」……
1. 髪の長い女
時刻は夜の八時くらいでした。明るいエントランスを抜けてエレベーターを呼び出して。その時、待つ間スマホを眺めてたんです。そのまま到着してきたエレベーターに足を踏み入れた時、中に人がいたことに気がつきました。
髪の長い女性がこっちに背中を向けて立ってたんです。あれ? って思いましたよ、普通エレベーターに乗る時って扉側を見るじゃないですか。でも疲れてたのか、今まで心霊体験なんかしたことがなかったせいか、深く考えず乗り込みました。
三のボタンを押した時、もう一つの違和感に気づいたんです。一階についたのになんでこの人は降りないんだろうって。例えば忘れ物してまた部屋にもどるとか、そういうこともあるかもしれないけど、でも手元のボタンは俺が押した三以外点灯していなかった。
はっとして振り返った時にはもう誰もいませんでした。でも間違いなく女は立ってましたよ、あれは見間違いなんかじゃないです。
「女性の特徴は」
九条さんが尋ねると、高橋さんは腕を組んで唸った。
「うーんこれが、後ろ姿だったし、一瞬見ただけで全然覚えてないんですよ。黒髪で長いってだけ。役に立てなくてすみません」
「いいえ、それが普通ですよ。大体の年齢などでも分かりませんか」
「え? うーん、何となくですけどそこそこ若い人だと思いますよ。おばあちゃんとかではないし」
若くて髪の長い女性、か。残念ながら顔は見ていないとのこと。これから私たちが会えるといいのだが。
「とにかく怖くなっちゃって、自分の部屋に飛び込みました。原が帰ってきた時にそのエピソード話したんですけど、こいつ見間違いだーって信じなくて」
やや恨みがましそうに信也を見る。彼は何も答えなかった。
「えーと、それが一ヶ月前のことですかね。しばらくは怖くって、夜は階段を使うことにしたんです。エレベーターは嫌だなって思って。そしたらまさかの今度、一階の階段に別の幽霊見ちゃって」
参った、というように高橋さんは頭を抱えた。全く霊の存在なんて見えてない信也に比べて、結構感じやすい体質らしい。
信也は自分でも言っていたがそういう力が鈍い方なんだろう。もし今までそういう経験をしていたら、私が視えるという話も引かずにいられたかもしれない、と思う。
「今度は子供! 子供だったんですよ!」
高橋さんの興奮した声が響いた。
2. 小さな子供
あれも夜でしたね。仕事休みの日で、夜に酒買いにコンビニ行こうって思ったんです。時刻は多分夜の九時とかかなあ。さっきも言ったようにエレベーターはごめんだったので階段を使ってました。
ここのマンションの階段ってどうも薄暗い感じなんですよね。夜だからもちろんライトとかついてるんですけどどうも心もとない感じで。そんな中一階を目指していました。
もう少しで着く、って時に、一階部分の照明が消えてることに気づいたんです。あー管理会社に言わなきゃなーと軽く考えて進んだんですけど……。
ふと一階にたどり着く最後の段差に、人影があったんです。一瞬また女の幽霊でも見たのかとびびったんですけど、大きさが子供だったのですぐ冷静になりました。
子供が階段に座り込んでいたんです。髪の短い子でした。後ろ姿だったから、男の子か女の子かよくわかんなかったけど……。暗かったし。ここのマンションの子供がなんか理由あってそこにいたのかなと思って、俺声かけたんです。
『どうしたの、もう遅いよ。おうちは?』
俺の声にその子は振り向きませんでした。ひどく俯いたまま声も出さずに黙ってて。もしかして泣いてるのかも、と思って困ったんですよね。ほら、こういう時男って不利でしょう? 変に関わって誘拐犯扱いされたりしてもなあって。
時間も時間だし、とりあえず警察に電話したほうがいいかなあって思って、ポケットに入れておいたスマホを取り出したんです。でも一旦、自宅の電話番号とか言えないか聞いてみようかなって思って再度その子の方を向きました。
『ねえ、おうちの電話番号とか』
いませんでした。子供はどこにも。本当に目を離したのは一瞬だったのに、消えちゃったんです。
うちの階段って結構重い扉を開けないとエントランスに抜けれないんですよ、音もするはずだし光だって漏れるはず。気づかないわけがないんです。
あ、やばいもんみたかも。そう気づいて慌てて元きた階段をのぼりました。酒なんて買ってる場合じゃないですよ。
原が家にいるみたいだったからすぐにこいつの家に行って今あったこと説明したんですけど、いまいち信じてない感じでしたけどね。絶対見たんですけどね!
女性の次は小さな子供。確かに、九条さんと今日階段を見た時扉なども見ている。一瞬目を離した隙に子供が一人気づかれず外に出るのは考えにくい。
生きている人間ではなかった、と考える方が私たちにとっては納得がいく。
九条さんが質問した。
「どれくらいの年齢かわかりますか」
「うーん、小さいって言っても、こう、小学生ぐらいではあったと思いますよ。座ってたし顔見えてないからなんとも言えないけど、中学年くらいじゃないのかなあ……」
「男女かどうかはわからない、とおっしゃってましたね」
「髪は短かったですけどね。服装とかまではちゃんと見てなくて、スミマセン」
「いいえ。お話ありがとうございます」
丁寧に頭を下げたので私も続く。高橋さんはふうと息を吐くと、ずっと黙っていた信也に言った。
「でもお前さ、部屋が揺れるとかは自分も体験したからわかるけど、幽霊とかは見間違いだーって言ってたのに、何で急にこんな調査始めたの?」
不思議そうな顔だった。信也は何か言いかけようとして黙る。確かに私もちょっと疑問ではある。聡美だって、霊とかは絶対信じてないのによく連れてきたな。まあ多分、あの子は完全に面白がってるんだろう。
信也は言葉を濁した。
「まあ、いいじゃん。気になることは放っておけないタイプなんだよ。またなんか聞きたいことあったら連絡するから、今日はありがとな」
「いやお礼いうのはこっちだよ、俺あれ以降階段もエレベーターも使うのドキドキだもん。引っ越すにしても金ないしさ。解決してくれたらありがたい。えーと九条さんと黒島さん、よろしくお願いします!」
高橋さんが深々と頭を下げた。明るくて素直な人だな、と微笑む。彼は信也と少しだけ会話を交わすと、そのまま部屋から出て行ってしまった。
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