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九条さんもそれに気づいたらしく、ぼんやり上を見上げる。
真っ白な天井に眩しい照明を見つめながら、九条さんが言った。
「消えました」
「え……」
「明穂さん、消えました」
眠れたかな、今度こそ。
ある日突然命を奪われてしまい、本人が一番戸惑っただろう。やり残したことも沢山あった。でも、真琴さんが幸せでいることが何よりの供養だ。
私は涙でいっぱいになった顔面を一度乱暴に拭くと、真琴さんに先ほどの光景について言った。これは私にしか分からないことだ、ちゃんと伝えねば。
「明穂さん、ずっと事故直後の痛々しい姿だったんですけど、真琴さんと話しているうちに、いつのまにか綺麗な姿に戻ってましたよ」
「え」
「真琴さんのお腹を優しく撫でてました。きっと元気な子が生まれますよ!」
私がそういうと、真琴さんは大声で泣き出した。それはまるで子供のようで、奥田さんが必死に背中をさすって慰めている。
お母さん、と泣きじゃくるその姿は、悲しいけれど美しかった。お互いに愛し愛されたこの親子が、最後にこうして会えたことは奇跡だと思う。
ずっと会いたかったんだね、明穂さん。よかった。
ゆっくり目を閉じて、先ほどの明穂さんを思い出す。愛が溢れている、あれこそが母性と思わせる姿だった。
(……どうして)
どうして、あれほど愛に満ちている母と、子を虐げる母がいるのだろうか。
真琴さんたちは、お礼を言って帰宅した。思い切り泣いた後、でもスッキリした表情で笑っていた。色々疑っていた奥田さんも、最後は私たちに頭を下げて帰っていった。
その後ろ姿をみんなで見送りながら、伊藤さんが言う。
「感動的でしたね。ああ、こう言う時は僕も視えたらなあ……って思います」
伊藤さんはちらりと、聡美や信也を見た。彼らは何も言わず、気まずそうに視線を逸らす。視えなくても、きっと明穂さんの愛は伝わったんだろうな。
明穂さんのことはこれで解決だ。ほっと安心したが、もう一つ大きな問題が残っている。
「さて。もう一仕事行きましょう、今回はむしろこっちが本番みたいなものです」
九条さんが厳しい顔で言った。私はため息をつく。
飛鳥ちゃんだ。
明穂さんの方は、真琴さんさえ来てくれれば浄霊はそう難しいことではないと思っていた。案の定、スムーズに浄霊ができたわけだけど。
後はあの小さな子相手だ。
九条さんが伊藤さんに言った。
「伊藤さん、あなたがいなくては飛鳥さんに中々会えないので、このまままたエサでお願いできますか」
「はい、もちろん大丈夫ですよ!」
「一気に終わらせましょう」
厳しい声で言った九条さんの背中を、私たちはそのまま追いかけた。
明るいエントランスを通り抜け、一番端にある銀色の重い扉を開く。陽が当たらないそこは一層寒さが増していた。薄暗く、上部にある非常灯が寂しげに光っている。ぶわっと悲しい気で体を包まれた。最初に来た時より、もっと強くなっている気がする。
前回のように、伊藤さんは一番下の段に座り込み、聡美たちは踊り場まで行き端の方に固まった。私と九条さんは一番下、扉前に立ち、みんなを見渡すように見上げた。
伊藤さんは防寒をしっかりした後、イヤホンをつけて壁にもたれ目を瞑る。ブルっと寒さで体を震わせた。
私は祈るように手を組み、飛鳥ちゃんに呼びかける。話したいことがあるの、出てきて。
「光さんもおそらく飛鳥さんに気に入られているでしょう、入られたりしていますから」
「どうでしょうか……母親はみんな子供が大事、なんて無責任な発言をしたからだと思います」
「……あなたの優しさが彼女には眩しかったんですよ」
小声で囁く。いいや、きっと私の発言は飛鳥ちゃんを傷つけたんだと思う。母に愛されてきたお前には分からない、と言いたかったのかもしれない。
しばらくそのまま時間だけが経った。これまでの中で一番長くかかっている。寒さでそれぞれがストレスを感じ始めていた。でもここで諦めたら、もう飛鳥ちゃんとは会えない気がする。
私は目を閉じて祈る。
(飛鳥ちゃん、もう一回だけお話しさせて……もう母親に会え、なんて言わないから)
あなたを救いたいから。こんな寒くて薄暗いところに閉じこもってないで。
あなたはもっと温かな場所に行くべきなんだから。
じっとみんなで変化だけを待ち続けていた、時だった。
真っ白な天井に眩しい照明を見つめながら、九条さんが言った。
「消えました」
「え……」
「明穂さん、消えました」
眠れたかな、今度こそ。
ある日突然命を奪われてしまい、本人が一番戸惑っただろう。やり残したことも沢山あった。でも、真琴さんが幸せでいることが何よりの供養だ。
私は涙でいっぱいになった顔面を一度乱暴に拭くと、真琴さんに先ほどの光景について言った。これは私にしか分からないことだ、ちゃんと伝えねば。
「明穂さん、ずっと事故直後の痛々しい姿だったんですけど、真琴さんと話しているうちに、いつのまにか綺麗な姿に戻ってましたよ」
「え」
「真琴さんのお腹を優しく撫でてました。きっと元気な子が生まれますよ!」
私がそういうと、真琴さんは大声で泣き出した。それはまるで子供のようで、奥田さんが必死に背中をさすって慰めている。
お母さん、と泣きじゃくるその姿は、悲しいけれど美しかった。お互いに愛し愛されたこの親子が、最後にこうして会えたことは奇跡だと思う。
ずっと会いたかったんだね、明穂さん。よかった。
ゆっくり目を閉じて、先ほどの明穂さんを思い出す。愛が溢れている、あれこそが母性と思わせる姿だった。
(……どうして)
どうして、あれほど愛に満ちている母と、子を虐げる母がいるのだろうか。
真琴さんたちは、お礼を言って帰宅した。思い切り泣いた後、でもスッキリした表情で笑っていた。色々疑っていた奥田さんも、最後は私たちに頭を下げて帰っていった。
その後ろ姿をみんなで見送りながら、伊藤さんが言う。
「感動的でしたね。ああ、こう言う時は僕も視えたらなあ……って思います」
伊藤さんはちらりと、聡美や信也を見た。彼らは何も言わず、気まずそうに視線を逸らす。視えなくても、きっと明穂さんの愛は伝わったんだろうな。
明穂さんのことはこれで解決だ。ほっと安心したが、もう一つ大きな問題が残っている。
「さて。もう一仕事行きましょう、今回はむしろこっちが本番みたいなものです」
九条さんが厳しい顔で言った。私はため息をつく。
飛鳥ちゃんだ。
明穂さんの方は、真琴さんさえ来てくれれば浄霊はそう難しいことではないと思っていた。案の定、スムーズに浄霊ができたわけだけど。
後はあの小さな子相手だ。
九条さんが伊藤さんに言った。
「伊藤さん、あなたがいなくては飛鳥さんに中々会えないので、このまままたエサでお願いできますか」
「はい、もちろん大丈夫ですよ!」
「一気に終わらせましょう」
厳しい声で言った九条さんの背中を、私たちはそのまま追いかけた。
明るいエントランスを通り抜け、一番端にある銀色の重い扉を開く。陽が当たらないそこは一層寒さが増していた。薄暗く、上部にある非常灯が寂しげに光っている。ぶわっと悲しい気で体を包まれた。最初に来た時より、もっと強くなっている気がする。
前回のように、伊藤さんは一番下の段に座り込み、聡美たちは踊り場まで行き端の方に固まった。私と九条さんは一番下、扉前に立ち、みんなを見渡すように見上げた。
伊藤さんは防寒をしっかりした後、イヤホンをつけて壁にもたれ目を瞑る。ブルっと寒さで体を震わせた。
私は祈るように手を組み、飛鳥ちゃんに呼びかける。話したいことがあるの、出てきて。
「光さんもおそらく飛鳥さんに気に入られているでしょう、入られたりしていますから」
「どうでしょうか……母親はみんな子供が大事、なんて無責任な発言をしたからだと思います」
「……あなたの優しさが彼女には眩しかったんですよ」
小声で囁く。いいや、きっと私の発言は飛鳥ちゃんを傷つけたんだと思う。母に愛されてきたお前には分からない、と言いたかったのかもしれない。
しばらくそのまま時間だけが経った。これまでの中で一番長くかかっている。寒さでそれぞれがストレスを感じ始めていた。でもここで諦めたら、もう飛鳥ちゃんとは会えない気がする。
私は目を閉じて祈る。
(飛鳥ちゃん、もう一回だけお話しさせて……もう母親に会え、なんて言わないから)
あなたを救いたいから。こんな寒くて薄暗いところに閉じこもってないで。
あなたはもっと温かな場所に行くべきなんだから。
じっとみんなで変化だけを待ち続けていた、時だった。
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