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憧れの人
手の痕
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ほっと胸を撫で下ろした。私と九条さんは視えるだけで、祓う能力はまるでない。麗香さんを救うなんてことは到底できない人間なのだ。でも、そんなすごい人がそばにいてくれるなら一安心。麗香さんの師匠、みたいな感じなのかな?
「よかったです……ちょっと安心しました」
「ですが、麗香が失敗した案件の詳細などはまだ聞けていません。それについても相談があると言われたので。まだまだわからないことがたくさんです。気を引き締めて行きましょう」
九条さんに言われて、またぐっと姿勢を正した。そうだよね、まだわからないことがたくさんある。麗香さんの様子も、ちゃんとこの目で見ないと安心できない。
静かな車内で、私は呟いた。
「麗香さん、この休みに会ってランチしたんです。その時は元気そのもので……そういえば、今来てる依頼もすごく面白そうだってワクワクしてました」
「彼女らしいです」
「どんな依頼が来ていたんでしょう。あの麗香さんが入院するほどの相手……強敵であることは間違いないでしょうけど」
想像するだけで震える。きっと私にはまるで相手にならない凶悪なものなんだろう。
一体何が、麗香さんをこんなふうにしたのか。
病院は意外と近かった。車で約二十分かけたところにある大きな大学病院だ。
駐車場に車をとめ、九条さんとすぐさま麗香さんの病室へ向かっていった。走ってはいけない病院内がもどかしく、気持ちばかりが焦る。
麗香さんがいるのは個室だった。立ち並ぶ白いドアの一番奥の部屋だ。ナースステーションから心電図モニターの音や、ナースコールの音が響いてくる。看護師は忙しそうにカートを押しながら歩いていた。
私と九条さんは無言のまま病室を目指す。同時に、変な物が周りにいないかちらりと見てみたが、時々無害そうな霊が立っているだけで、悪質なものはなさそうだった。
一番奥の部屋にたどり着くと、躊躇いなく九条さんがノックをする。中から、男性の声が聞こえた。
「はい」
扉を引いて中の様子が見えた。一番最初に目に入ったのは、ベッドに横たわる栗毛色の女性だった。
「麗香さん!」
私は挨拶をすることもなく彼女に駆け寄る。泣いてしまいそうなのを必死に堪えた。ついこの前元気な姿を見たばかりだというのに。
麗香さんの傍には点滴が繋がっていた。規則的に滴下する薬液が横目に入る。私はベッドサイドに駆け寄ってその顔を覗き込んだ瞬間、驚きで後退りした。
目を閉じて安らかに眠っている麗香さんの首に、赤みが見える。
手だ。
手で首を絞めた痕が、見える。
それも、まるで絵に書いたようなくっきりとした痕だ。不自然すぎるほどの形に、私はただ絶句した。
「こんにちは、わざわざ足を運んでいただきありがとうございます」
穏やかな声が聞こえてハッとする。反対側のベッドサイドに、一人の男性が立っていた。麗香さんばかりでまるで視界に入っていなかった。
グレーのスーツを着た、優しそうな人だった。年齢は六十くらいだろうか。垂れ目な横にある目尻の皺がその性格の穏やかさを醸し出している。髪は黒髪に混じり半分ほど灰色の色が見えた。あまり背は高くない。
表現は良くないかもしれないが、『よくいる人』だ。気の良さそうなおじさん。
まさか、影山さん? これまた、麗香さんとは違う意味で除霊師ぽくない。
私は慌てて頭を下げた。
「ご挨拶もせずすみません!」
「いいえ、麗香を心配してわざわざ来てくださった。ありがとうございます」
「よかったです……ちょっと安心しました」
「ですが、麗香が失敗した案件の詳細などはまだ聞けていません。それについても相談があると言われたので。まだまだわからないことがたくさんです。気を引き締めて行きましょう」
九条さんに言われて、またぐっと姿勢を正した。そうだよね、まだわからないことがたくさんある。麗香さんの様子も、ちゃんとこの目で見ないと安心できない。
静かな車内で、私は呟いた。
「麗香さん、この休みに会ってランチしたんです。その時は元気そのもので……そういえば、今来てる依頼もすごく面白そうだってワクワクしてました」
「彼女らしいです」
「どんな依頼が来ていたんでしょう。あの麗香さんが入院するほどの相手……強敵であることは間違いないでしょうけど」
想像するだけで震える。きっと私にはまるで相手にならない凶悪なものなんだろう。
一体何が、麗香さんをこんなふうにしたのか。
病院は意外と近かった。車で約二十分かけたところにある大きな大学病院だ。
駐車場に車をとめ、九条さんとすぐさま麗香さんの病室へ向かっていった。走ってはいけない病院内がもどかしく、気持ちばかりが焦る。
麗香さんがいるのは個室だった。立ち並ぶ白いドアの一番奥の部屋だ。ナースステーションから心電図モニターの音や、ナースコールの音が響いてくる。看護師は忙しそうにカートを押しながら歩いていた。
私と九条さんは無言のまま病室を目指す。同時に、変な物が周りにいないかちらりと見てみたが、時々無害そうな霊が立っているだけで、悪質なものはなさそうだった。
一番奥の部屋にたどり着くと、躊躇いなく九条さんがノックをする。中から、男性の声が聞こえた。
「はい」
扉を引いて中の様子が見えた。一番最初に目に入ったのは、ベッドに横たわる栗毛色の女性だった。
「麗香さん!」
私は挨拶をすることもなく彼女に駆け寄る。泣いてしまいそうなのを必死に堪えた。ついこの前元気な姿を見たばかりだというのに。
麗香さんの傍には点滴が繋がっていた。規則的に滴下する薬液が横目に入る。私はベッドサイドに駆け寄ってその顔を覗き込んだ瞬間、驚きで後退りした。
目を閉じて安らかに眠っている麗香さんの首に、赤みが見える。
手だ。
手で首を絞めた痕が、見える。
それも、まるで絵に書いたようなくっきりとした痕だ。不自然すぎるほどの形に、私はただ絶句した。
「こんにちは、わざわざ足を運んでいただきありがとうございます」
穏やかな声が聞こえてハッとする。反対側のベッドサイドに、一人の男性が立っていた。麗香さんばかりでまるで視界に入っていなかった。
グレーのスーツを着た、優しそうな人だった。年齢は六十くらいだろうか。垂れ目な横にある目尻の皺がその性格の穏やかさを醸し出している。髪は黒髪に混じり半分ほど灰色の色が見えた。あまり背は高くない。
表現は良くないかもしれないが、『よくいる人』だ。気の良さそうなおじさん。
まさか、影山さん? これまた、麗香さんとは違う意味で除霊師ぽくない。
私は慌てて頭を下げた。
「ご挨拶もせずすみません!」
「いいえ、麗香を心配してわざわざ来てくださった。ありがとうございます」
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