視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

異変

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「色々買ってきました! 多分麗香さんはいつもは高級化粧品だろうけど、今は我慢してください」

 笑いながら買ってきた中からメイク落としを取り出し、早速拭き取っていく。いつもキッチリメイクしてる麗香さんだけど、素顔も美人だからそんなに変わらないな、羨ましい。

 首元の痕が目に入る。なんとなくそれが気になり、恐る恐るそれに指先を触れさせた。

「っ!!」

 瞬間、火傷を負うほどの熱さを感じて手をひく。

 ……すごく熱かった。気のせい?

 不思議に思い、自分の人差し指を見る。先端が赤くなっていた。ジンジンとした痛みすら感じるほど。気のせいじゃない、やっぱりあの手の痕はただの痕じゃない。

 それ以上無闇に触るのはやめた。私は気を取り直すように、買ってきたビニール袋を手にして中身を取り出す。

「戸棚にしまっておきますね!」

 ベッド横にある小さな物いれを見つけてそこを開く。するとその瞬間、カバンが落下した。麗香さんのものらしい。

 口が開いていたため、中身が派手にばら撒かれた。慌ててしゃがみ込みそれらを拾う。

 財布にポーチ、ハンドタオル。カバンに入れ直しているとき、あるものを見て手を止めた。

 コンパクトミラーだ。

(これ使ってたなあ、麗香さん……)

 以前一緒に仕事をしたとき、このブランド物の可愛らしいミラーを使っていて驚いた経験がある。さらには、小さな香水瓶も見えた。中は香水ではなく多分塩水だ、これ振りかけたりして祓ってたんだよなあ。どこか懐かしい気持ちになり、またウルッと涙が出てくる。

 いけない、泣いてる場合じゃない。麗香さんは大丈夫って信じてなきゃ。

 手に持ったミラーと香水瓶をカバンに戻そうとしたときだった。

 突然病室にそぐわぬ音が響き渡った。甲高く無機質な音。それでいてこちらの危機感を煽る規則的な音。はっとして顔を上げ、辺りを見回す。別におかしなところは何もない、いたって普通の病室だ。

 それでもその音はうるさいくらい私の耳に入ってくる。こちらの焦燥感が出てくる。

 踏切の音だ。

 カンカンカンカン……と鳴り響いているのは、聴き間違えるはずもないあの踏切の音。まるで踏切の目の前に立っているぐらいの音量だ。が、もちろんここにそんなものは存在しない。

「何?」

 明らかにおかしい状況だと分かり、上ずった声を上げた。立ち上がり、とりあえず麗香さんの近くに寄り添った。今麗香さんは逃げることだって出来ないんだ、無防備な彼女をなんとかして守らねば。

 この病院の何処かで拾った霊? それとも麗香さんが除霊失敗したというやつ? 一体誰がそばにいるの。

 でも影山さんは、今はここに結界を張ってくれていると言った。ではどうして?

 私は持っていた鞄からスマホを取り出し九条さんに電話を掛ける。影山さんと一緒にいるだろうから、帰ってきてくれればきっと大丈夫だ。

 踏切の音がどんどん大きくなってくる。その煩さに顔をしかめた。でも必死にスマホを耳に当て、九条さんが出てくれるのを祈る。

 出ない。

 コール音すら聞き取れないほどになり、焦りながら一度耳から離した。もう一度かけ直そうと操作して、ふとその画面が目に入る。

 私のスマホはこの前の依頼の時、扱いを誤ってしまい画面にヒビが入ってしまっている。画面に三本、薄い線が見えるのだが、そのヒビに違和感を覚えた。


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