視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

お守り

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 呼びかけに、彼は苦しそうにその手を話した。影山さんの着ているシャツが大きく乱れている。九条さんはドスンとソファに腰掛け、顔を大きく俯かせた。

 影山さんは私をみて、深々と頭を下げた。

「黒島さん、申し訳ない。さっきも言ったように、この業界で若い女性はあまりいない。それも、麗香の知り合いの中では、あなたしか思い当たらず、ここに呼び寄せました。
 私が命を懸けて必ず祓います。殴ってもらっても構いません、本当に申し訳なかった」

 垂れる頭をぼうっと眺めながら、私は怒ることができずにいた。

 きっと影山さんも考え抜いて、これしか麗香さんを守れる方法がなかったんだ。私は健康だし、移動だって出来るから、除霊もやりやすい。彼がこの方法を選んだのは、仕方がないと思えた。

 私は無理矢理微笑んでみせる。

「麗香さんを助けられたならよかったです。
 影山さん、どうかよろしくお願いします」

 私の言葉を聞いて、影山さんは苦しそうに顔を歪めて手で覆った。多分、自分でも葛藤があったのだなと想像がつく。

 そして私は、いまだに項垂れている隣の九条さんにも声をかけた。

「九条さん。影山さんがいてくれるなら大丈夫です」

「……軽率でした……あなたを、ここに連れてきてしまった」

 九条さんのそんなか細い声を聞いたのは初めてだった。驚きの方が大きい。私は首を振って否定した。

「きっと私は、無理矢理ついてきてたと思いますよ。麗香さんは大事な友達なんです、力になりたいですから。それに、影山さんがいてくれるなら大丈夫ですよ」

 私の言葉に、九条さんがようやく顔を上げる。叱られた子供のような、弱々しい顔だった。見たことがない表情に、つい苦しくなった。

 九条さんは一度大きく息を吐くと、目の前の影山さんに厳しい声を掛けた。

「私もできることはお手伝いします。必ず光さんを守ってください。必ず。
 彼女に何かあれば、私は決してあなたを許さない」

 その言葉に、影山さんが大きく頷いてこちらを見た。決意したような、力強い視線だった。







 病院に長居するのもよくないと話は切り上げられ、私は一度事務所に帰ることになった。影山さんも、除霊するのに色々準備がいるらしい。

 麗香さんに挨拶をすることもなく病室を出た。憑いている者が遠ざかれば、きっと彼女も回復して意識を取り戻すはず。そう願うしかない。

 そそくさと病院から出た私たちは無言で歩く。駐車場に行く前に、立ち止まって影山さんが私に何かを差し出した。

「黒島さん。これを必ず肌身離さず持っていてください」

 真剣な表情で私に差し出したのは、手のひらに収まるほどのお守りだった。赤い布で作られたそれはよくある形の物だ。が、普通なら表に文字が書かれていることがほとんどだが、それは無地だった。

 私の両手に握らせると、影山さんが言った。

「必ずですよ。私が作った物です、こちらの力をたっぷりそこに注ぎました。これがあれば、どれだけ強い相手でも数日は大丈夫でしょう」

「数日……」

「今まで被害にあった方を見るに、怪奇な現象が起き始めて数日は命が無事だそう。このお守りもあれば、黒島さんもすぐに狙われると言うわけではないでしょう」

 私は強くお守りを握りしめた。影山さんは隣にいる九条さんにももう一つ渡した。

「九条さんにもお渡ししておきます。あなたはなるべく黒島さんから離れないでください。除霊の準備ができましたらすぐに連絡をいたします」

「分かりました。
 私は除霊などは一切出来ませんが、出来ることはやりたいと思っています。今回の案件の詳細を伊藤に送って頂けますか。相手を知ることは無駄にはならないと思うので」

「もちろんです。少しだけお時間をください」

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