視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
343 / 450
憧れの人

仕切り直し

しおりを挟む
 九条さんが声を上げた。

「影山さん、どう考えても今現役の方で一番実力があるのはあなたです。あなたに無理では他の人間ではお手上げであることは間違いない」

「分かっています。諦めるつもりはありません。ですが正攻法はうまく行かないことが判明してしまった。……もう少し相手を知らねばならない。何もわからないままでは、到底敵う相手ではない」

 そう言って影山さんはゆっくり後ろを振り返った。全員の視線が同じ方に集まる。

 祭壇の上にある丸い鏡。彼が最も重要なものだと言ったそれには、真ん中にヒビが入っていた。






 その場で私は休ませて貰いながら、影山さんは傷の手当てをすることもなくすぐに動いた。

 まずは再度警察に電話をし、これまでに亡くなった人の情報を早く渡せと粘った。どうやらどんどん上の立場の人へ電話へと変わっていき、時間を掛けたものの最後にはやっと許可が降りた。すぐに情報が送られてくるだろうと彼は言った。

 九条さんも言っていたが、この霊が一体どこから発生したものか調べ、相手を知ろうということだ。知り合いから知り合いへ渡り歩くなら、一番初めの被害者はどこであれを拾ってきたのか。何か分かれば、除霊の手助けになるかもしれない、というわけだ。

 そして次に、影山さんが考えた末持ち出した予防策は、相手を跳ね除けるというものではない。もはや物理的な予防策だった。

 私の手の先を布でぐるぐる巻きにしたのだ。首を締め出しては、男二人の力を合わせてもまるでいうことを聞かない。だったら絞めないように手先を塞いでしまえ、というわけだ。まさかこんなことになるとは思ってもおらず、私は戸惑いで一杯になった。これ食事は確実にとれないよね。着替えも無理じゃない? って、トイレ!! 

 九条さんはトイレの間でも外すのは危ないと頑なだったが、まさかそこだけはどうしようもない。そこで、トイレに行くときは布を外す代わりに、首にオイルを塗っておくことで解決された。滑って絞められないだろう、ということだ。

 まさかトイレすら簡単に行けない状況になるとは思ってもおらず、ことの重大さを思い知る。いや、それもそうだ。麗香さんに続き影山さんまで除霊に失敗したなんて、伊藤さんに言わせればこの業界がひっくり返るぐらい驚きの情報なんだそう。

 とりあえずその場しのぎだが、やれることはやろうということ。影山さんの提案にみんなで頷いた。

 伊藤さんと九条さんは警察から届く情報を調べること、影山さんは壊されてしまった鏡の代わりになるものをすぐに入手するという役割を分担し、私たちは一度マンションから立ち去ることになった。効果があるのかもわからないが、と影山さんは事務所に置くお札などをさらに分けてくれた。

 三人で玄関に向かう。私は自由の効かなくなった手でなんとか靴を履くと、影山さんを振り返った。

「お邪魔しました」

「私の力不足ですぐに解決できなくて申し訳ない。もう少し時間をください」

「はい。あの、腕の怪我、ちゃんと病院行った方がいいと思います。化膿したら大変だし……行ってくださいね」

 私がそういうと、影山さんは驚いたように目を丸くした。そしてすぐに笑う。

「あなたは優しすぎますね。その優しさは霊をも引き寄せることがある。自分のことだけ考えていればいいのですよ」

「は、はあ……」

「鏡の入手さえすれば、私もまたそちらの事務所に伺います。共に情報を集めて相手を調べましょう」

 鋭い眼差しでそう言った彼に頷く。黙っていた九条さんと伊藤さんも声をだした。

「私は祓えません。その代わり情報を調べることに徹します」

「僕なんて視ることもできませんけど、死ぬ気で情報集めます。みんなで頑張りましょう」

 私を励ますように言ってくれた。そしてそのまま、高層マンションを後にしたのである。

しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。