視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

聖地

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 そういえば、と思い出す。何度か眺めたニュースで、逮捕当時の日比谷の顔写真が流れていたけれど、確かに儚げな美青年だった。真っ白な肌にパーマのかかった髪、色素の薄い瞳。この綺麗な青年が、あんな事件を? と驚いた記憶がある。

 九条さんが影山さんに尋ねた。

「……で、その日比谷とこの踏切には何の関係が?」

「聖地ですよ」

「聖地?」

「彼の信者たちにとっては聖地なのです。ここは日比谷が犯行当時住んでいた場所です。この映っているアパートではありませんよ、流石にもう無くなってしまっているようですが。
 彼の殺害現場は全て自宅。踏切の音を背中に聞きながら、女性を絞殺していたんです」

 ぞくっと寒気がして震えた。その光景が鮮明に想像できてしまったからだ。

 彼が古びたアパートの一室で、見知らぬ女性の首を絞める場面が。嬉しさと楽しさで満ちた顔で、苦しむ相手を見下ろしている。そうか、踏切や電車が通過する音があれば、殺している時に暴れたりしても周りに気づかれにくいと考えたのかもしれない。

 ああ、いつだって、一番恐ろしいのは人間なのだ。

「でも、影山さん何でそんなに詳しいんですか?」

 私は頭に浮かんだ疑問をぶつけた。踏切を見ただけで、昔の殺人事件の犯人を思い浮かべるなんて。

 彼は苦笑いして言う。

「黒島さんに言いましたね、昔やりたいこともあったと。私はこういった事件について、犯人の過去や育った環境などを研究することに、とても興味があったのです。除霊の方を本業にしてからはあまり行えていませんでしたが、それでも時々興味のある事件は調べることがありまして」

「そうだったんですか! もしかして、会ったことがある気がする、っていうのは、日比谷のことを調べていたからかもですね」

「そうなのかもしれません。
 日比谷が亡くなったのは確か一ヶ月ほど前です。今回の事件が発生し出した時期と合っています」

 みんな無言で顔を見合わせた。そこで、伊藤さんが突然あっと大きな声を出した。素早くパソコンに手を伸ばし、何やら操作し始める。

「すみませんちょっと調べたいことがあって。続けてください」

 片手にスマホも持ち出し動いていた。かなり集中しているようなので、今は声を掛けるのをやめておこう。

 九条さんが顔を歪めつつため息をついた。

「若い女性を無差別に絞殺、死んだ時期と事件発生時期も被っている。日比谷のことを知っていたのになぜ思いつかなかったのか……」

 悔しそうに言う九条さんに、影山さんが小さく首を振って言った。

「ニュースで見たりする事件は、人間みなどこか遠い世界のように感じているのです。記憶には残っても現実と結びつけるのは難しい。まさか有名な日比谷が、なんて思いつかなくても仕方ないです。私こそ、まるで考え付かなかった……あれがあの日比谷だとは。信じられない」

 九条さんは大きく息を吐いた。

「これは確定でしょう。今回の霊は日比谷輝明。完全に無差別に女性を殺したいと願っている狂った相手です」

 そうキッパリ断言した。まさか、相手が有名な殺人犯だったとは思いもよらず、私は何も言葉が出てこなかった。

 だが、九条さんは少し不思議そうに首を傾げる。

「確定、ですが……まだ疑問は残りますね。顔を隠していたことの答えは分からないままです。影山さん、もしや日比谷を調べていくうちに彼に会ったことが?」

「いいえ、ありません。個人的に調べていただけで、面会をしたこともないし、あちらも私を知っていることはありえないかと」

「麗香も知っているはずがないと思います。では、なぜ向こうは顔を隠していたのか……それは分からないままですね」

 確かに、あの真っ黒な顔は何だったんだろう。何か意味があるのだろうか? 
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