視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

気まずい

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 生きているうちも、死んでからも誰かを殺すことに夢中な彼は、一体どんな人間なんだろう、と寒気がする。

 人が人を殺めることは、毎日溢れんばかりにニュースでやっている。恨みがあった、介護に疲れた、正当防衛だった、カッとなった。

 時には、犯人に同情的になってしまうようなものもある。もちろん犯罪は許されるものではないが、なぜ起こってしまったという背景は大事だとは思う。

 しかし日比谷においては、無差別に殺す最も理解できないパターンだ。きっと彼を調べ尽くしたところで、その思いを理解できることはないんだろうと思う。

「繋がってきました」

 九条さんの鋭い声がする。

「時期的なものも全て一致します。相手は連続殺人犯日比谷輝明。若い女性に執着する。麗香も光さんもやはり無差別に選ばれただけです」

 自然と視線が影山さんに集まった。調べることはもう調べた、あとは彼にかかっている。

 影山さんは固い表情のまま腕を組んでいた。

「鏡は本日の午前中に届きます。ですが、すぐに使えるものではないのです、数時間いただけますか。私は鏡に自分の気を吹き込めないと」

「はい」

「それを終えたらもう一度行いましょう。次は失敗できない、必ず除霊します、相手を抹消させるつもりで」

 決意の声が、事務所に響いた。





 影山さんの言った通り、鏡は午前中に届いた。それも、見るからにすごい力を持っていそうなお坊さんが届けにきたので、驚きで萎縮してしまうかと思った。

 影山さんはいつも除霊に使うものをそのお坊さんから譲ってもらうらしく、とても有名な方だと言っていた。私を見るなり、お坊さんは不憫そうな顔をして見てきたものだ。

 だが彼は、力の強いものの除霊はできないのだとキッパリ言い切った。

 やはり難しい除霊ができるような人間は、生まれ持った才能が全てだと。修行を積んでも限界があるのだそう。影山さんなら大丈夫だろう、と言い残して、お坊さんは帰ってしまった。

 厳重に包まれた丸い大きな鏡は、昨日除霊に使われたものとよく似ていた。隅から隅まで観察した影山さんは、しばらく一人にしてほしいと言いのこし、仮眠室へと入った。そこで鏡と向かい合い、準備をするんだそうだ。

 仮眠室に入った影山さんの邪魔にならないよう、私たち三人は事務所で静かに過ごしていた。伊藤さんと九条さんは、日比谷について調べ続けている。私は両手を塞がれたまま、できることもないので、ソファに座り音を消したテレビを眺めているだけだ。

 どこかピリピリした空気感がある。もう少ししたらこの事件の終わりを迎えるかもしれないという期待と恐怖。それと……私は多分、プライベートなこと。

 そんなことを考えている暇なんてないと言うのに、どうしても昨晩のことを思い出してしまう。全部夢だった、ということにしておきたい。

 ソワソワ落ち着かずテレビの内容も頭に入ってこない。いつのまにか時刻は昼になっていた。

 影山さんは相変わらず籠っている。時計をちらりとみた伊藤さんが、一旦パソコンから目を離して言った。

「僕、コンビニまで走ってきます。影山さんはまだ集中してるみたいだから、仮眠室に入るのも躊躇うし……飲み物とか、食べ物を」

「よろしくお願いできますか」

「はい。光ちゃんなんか食べたいものある?」

「え? えっと……サンドイッチで」

「オッケー。すぐに戻りますね」

 そう言い残した伊藤さんは、コートを羽織ると財布を持って事務所から飛び出して行った。残された私と九条さんは二人、言葉を発することもなく黙り込んでいる。まあ、珍しいことではない、元々雑談で盛り上がるようなタイプではないのだ。

 私は無音のテレビを眺める。テロップを読みながら、楽しそうに話しているお笑い芸人を見ていた。
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