365 / 450
憧れの人
気まずい
しおりを挟む
生きているうちも、死んでからも誰かを殺すことに夢中な彼は、一体どんな人間なんだろう、と寒気がする。
人が人を殺めることは、毎日溢れんばかりにニュースでやっている。恨みがあった、介護に疲れた、正当防衛だった、カッとなった。
時には、犯人に同情的になってしまうようなものもある。もちろん犯罪は許されるものではないが、なぜ起こってしまったという背景は大事だとは思う。
しかし日比谷においては、無差別に殺す最も理解できないパターンだ。きっと彼を調べ尽くしたところで、その思いを理解できることはないんだろうと思う。
「繋がってきました」
九条さんの鋭い声がする。
「時期的なものも全て一致します。相手は連続殺人犯日比谷輝明。若い女性に執着する。麗香も光さんもやはり無差別に選ばれただけです」
自然と視線が影山さんに集まった。調べることはもう調べた、あとは彼にかかっている。
影山さんは固い表情のまま腕を組んでいた。
「鏡は本日の午前中に届きます。ですが、すぐに使えるものではないのです、数時間いただけますか。私は鏡に自分の気を吹き込めないと」
「はい」
「それを終えたらもう一度行いましょう。次は失敗できない、必ず除霊します、相手を抹消させるつもりで」
決意の声が、事務所に響いた。
影山さんの言った通り、鏡は午前中に届いた。それも、見るからにすごい力を持っていそうなお坊さんが届けにきたので、驚きで萎縮してしまうかと思った。
影山さんはいつも除霊に使うものをそのお坊さんから譲ってもらうらしく、とても有名な方だと言っていた。私を見るなり、お坊さんは不憫そうな顔をして見てきたものだ。
だが彼は、力の強いものの除霊はできないのだとキッパリ言い切った。
やはり難しい除霊ができるような人間は、生まれ持った才能が全てだと。修行を積んでも限界があるのだそう。影山さんなら大丈夫だろう、と言い残して、お坊さんは帰ってしまった。
厳重に包まれた丸い大きな鏡は、昨日除霊に使われたものとよく似ていた。隅から隅まで観察した影山さんは、しばらく一人にしてほしいと言いのこし、仮眠室へと入った。そこで鏡と向かい合い、準備をするんだそうだ。
仮眠室に入った影山さんの邪魔にならないよう、私たち三人は事務所で静かに過ごしていた。伊藤さんと九条さんは、日比谷について調べ続けている。私は両手を塞がれたまま、できることもないので、ソファに座り音を消したテレビを眺めているだけだ。
どこかピリピリした空気感がある。もう少ししたらこの事件の終わりを迎えるかもしれないという期待と恐怖。それと……私は多分、プライベートなこと。
そんなことを考えている暇なんてないと言うのに、どうしても昨晩のことを思い出してしまう。全部夢だった、ということにしておきたい。
ソワソワ落ち着かずテレビの内容も頭に入ってこない。いつのまにか時刻は昼になっていた。
影山さんは相変わらず籠っている。時計をちらりとみた伊藤さんが、一旦パソコンから目を離して言った。
「僕、コンビニまで走ってきます。影山さんはまだ集中してるみたいだから、仮眠室に入るのも躊躇うし……飲み物とか、食べ物を」
「よろしくお願いできますか」
「はい。光ちゃんなんか食べたいものある?」
「え? えっと……サンドイッチで」
「オッケー。すぐに戻りますね」
そう言い残した伊藤さんは、コートを羽織ると財布を持って事務所から飛び出して行った。残された私と九条さんは二人、言葉を発することもなく黙り込んでいる。まあ、珍しいことではない、元々雑談で盛り上がるようなタイプではないのだ。
私は無音のテレビを眺める。テロップを読みながら、楽しそうに話しているお笑い芸人を見ていた。
人が人を殺めることは、毎日溢れんばかりにニュースでやっている。恨みがあった、介護に疲れた、正当防衛だった、カッとなった。
時には、犯人に同情的になってしまうようなものもある。もちろん犯罪は許されるものではないが、なぜ起こってしまったという背景は大事だとは思う。
しかし日比谷においては、無差別に殺す最も理解できないパターンだ。きっと彼を調べ尽くしたところで、その思いを理解できることはないんだろうと思う。
「繋がってきました」
九条さんの鋭い声がする。
「時期的なものも全て一致します。相手は連続殺人犯日比谷輝明。若い女性に執着する。麗香も光さんもやはり無差別に選ばれただけです」
自然と視線が影山さんに集まった。調べることはもう調べた、あとは彼にかかっている。
影山さんは固い表情のまま腕を組んでいた。
「鏡は本日の午前中に届きます。ですが、すぐに使えるものではないのです、数時間いただけますか。私は鏡に自分の気を吹き込めないと」
「はい」
「それを終えたらもう一度行いましょう。次は失敗できない、必ず除霊します、相手を抹消させるつもりで」
決意の声が、事務所に響いた。
影山さんの言った通り、鏡は午前中に届いた。それも、見るからにすごい力を持っていそうなお坊さんが届けにきたので、驚きで萎縮してしまうかと思った。
影山さんはいつも除霊に使うものをそのお坊さんから譲ってもらうらしく、とても有名な方だと言っていた。私を見るなり、お坊さんは不憫そうな顔をして見てきたものだ。
だが彼は、力の強いものの除霊はできないのだとキッパリ言い切った。
やはり難しい除霊ができるような人間は、生まれ持った才能が全てだと。修行を積んでも限界があるのだそう。影山さんなら大丈夫だろう、と言い残して、お坊さんは帰ってしまった。
厳重に包まれた丸い大きな鏡は、昨日除霊に使われたものとよく似ていた。隅から隅まで観察した影山さんは、しばらく一人にしてほしいと言いのこし、仮眠室へと入った。そこで鏡と向かい合い、準備をするんだそうだ。
仮眠室に入った影山さんの邪魔にならないよう、私たち三人は事務所で静かに過ごしていた。伊藤さんと九条さんは、日比谷について調べ続けている。私は両手を塞がれたまま、できることもないので、ソファに座り音を消したテレビを眺めているだけだ。
どこかピリピリした空気感がある。もう少ししたらこの事件の終わりを迎えるかもしれないという期待と恐怖。それと……私は多分、プライベートなこと。
そんなことを考えている暇なんてないと言うのに、どうしても昨晩のことを思い出してしまう。全部夢だった、ということにしておきたい。
ソワソワ落ち着かずテレビの内容も頭に入ってこない。いつのまにか時刻は昼になっていた。
影山さんは相変わらず籠っている。時計をちらりとみた伊藤さんが、一旦パソコンから目を離して言った。
「僕、コンビニまで走ってきます。影山さんはまだ集中してるみたいだから、仮眠室に入るのも躊躇うし……飲み物とか、食べ物を」
「よろしくお願いできますか」
「はい。光ちゃんなんか食べたいものある?」
「え? えっと……サンドイッチで」
「オッケー。すぐに戻りますね」
そう言い残した伊藤さんは、コートを羽織ると財布を持って事務所から飛び出して行った。残された私と九条さんは二人、言葉を発することもなく黙り込んでいる。まあ、珍しいことではない、元々雑談で盛り上がるようなタイプではないのだ。
私は無音のテレビを眺める。テロップを読みながら、楽しそうに話しているお笑い芸人を見ていた。
38
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。